『ワンダー 君は太陽』ジェイコブ・トレンブレイ×スティーヴン・チョボスキー監督インタビュー

思わず涙がこぼれ落ちる感動作の名子役&監督を直撃!

#ジェイコブ・トレンブレイ#スティーヴン・チョボスキー

全ての人にそれぞれのストーリーがある(スティーヴン・チョボスキー監督)

生まれつき顔に障害のある少年オギーが、10歳にして生まれて初めて学校に通うことになる。『ワンダー 君は太陽』は、同年代の子どもたちから遠慮ない好奇の視線を浴び、いじめや裏切りも経験する少年の物語。くじけそうな心を、家族の愛に支えられて勇気に変える主人公オギーを演じたジェイコブ・トレンブレイ、スティーヴン・チョボスキー監督が来日した。ブリー・ラーソンがアカデミー賞主演女優賞受賞の『ルーム』(16年)で彼女の息子役を演じた記憶も新しいジェイコブは現在11歳。テーブルの上に、前日のTV出演でプレゼントされたという手裏剣を置き、ときどきお守りのように触りながら、監督と2人で話してくれた。

──ジェイコブさんと同じ年頃のキャストも多い撮影現場でしたが、雰囲気はどうでしたか?

トレンブレイ:楽しかったです。『ルーム』のような作品だと、他の子役とお仕事する機会はほとんどないから。大勢の人がいて、お昼休みも同世代の子がたくさんいたからとても楽しかったです。

──チョボスキー監督はいかがでしたか? 子どもたちのエネルギーは凄まじいと思うので、大変だったのではと想像しますが?

『ワンダー 君は太陽』撮影現場でのジェイコブ・トレンブレイとスティーヴン・チョボスキー監督

トレンブレイ:(親指を下げて見せつつ、ジョークでブーイングのアピール)そんなことないでしょ。(監督に)答えに気をつけてね。ちゃんと聞いてるから(笑)。

監督:(笑)全然大変ではなかったです。子役との仕事で最大の難関は労働時間。組合があり、法的に時間を超過して仕事をさせられないという制約があります。それを除けば、子どもたちはインスピレーションを与えてくれるし、楽しい。リアルで、作ったところがない。最高の体験でしたね。

──試写室ではみんな泣いていました。それはこの物語がオギーだけにフォーカスするのではなく、彼の母親を始めとしたいろいろな人の視点から描かれているからではないでしょうか。様々なキャラクターの長所だけではなく、短所や弱さに自分を投影できると思います。

監督:まさにそういう体験をしてもらいたいと思って作りました。目指したのは、僕が本を読んだ時の体験を映画化すること。友だちに薦められた本を読んで、自分もその物語を素晴らしいと思ったら、それを世界に知ってほしいと思う。そういう気持ちです。

──原作から受け取ったもので、映画化する際に失わないように気をつけたことは?

ジェイコブ・トレンブレイ

監督:それは映画に全部入れました。こういうことがありました。原作者のR・J・パラシオと一緒に質疑応答をした時、参加者からこんな質問を受けました。「原作にあって映画の中になかった部分で、ここがあればよかったのにと思った箇所は?」。原作者は「そんなシーンあったかしら?」と。その時、僕はきちっと自分の仕事を全うできたと実感しました。

──ジェイコブさんが演じたオギーは難しい役だったと思います。同時にこれは私の想像ですが、共通点もあったのではと思いました。例えば『ルーム』出演で一躍有名になって、学校で友だちの接し方が変わったように感じたりしたことは?

トレンブレイ:それはないかも。ただオギーとの共通点はいくつかあります。『スター・ウォーズ』が大好きなこと。家族が大好きなこともそう。それから大好きな犬を飼っていて、『スター・ウォーズ』のキャラから名前をつけたこと。そして一番重要なのが、人に対して優しさと親切心をもって、平等に接してほしいと思っているところ。まるで、原作者が僕に当書きしてくれたように思えるくらい近しいし、ある意味同じ人間だから、ずっとオギーは僕の中に生き続けると思う。

監督:ちょっとジェイコブに聞いていいかな?『ルーム』は、クラスメートたちは見てないよね。

トレンブレイ:見た子も何人かはいるみたい。

監督:『ワンダー』は、学校で上映したの? 

トレンブレイ:学校はお休みの時期だったけど、みんなで劇場に見に行った。僕も一緒に行けた。

監督:それは良かった。 

──もう少しオギーを演じたことをお聞きします。特殊メイクで顔の表情など自由に作れない状態で演じるのは難しくなかったですか?
ジェイコブ・トレンブレイ

トレンブレイ:そういう制約は感じませんでした。意外に特殊メイクって薄くて、表情を作ることもできるし。メイクのおかげで、自分の想像力をより使ってオギーになることができました。

──メイクにはかかった時間は?

トレンブレイ:最初3時間半はかかるはずだったのが、僕は子役で子どもの労働時間が限定されてるから、メイク担当の人がまず2時間まで短縮して、最終的に90分まで短くなったのは良かったです(笑)。その毎日のプロセスも、オギーになるために役立ちました。ちなみに取るのは20〜30分ぐらい。

──監督作の『ウォールフラワー』はハイスクールのはみ出し者たちの物語で、脚本を手がけた『美女と野獣』でもベルは本好きな変わり者として描かれています。いわゆる人気者ではない人たちが主人公で、彼らに対する深いシンパシーも感じました。彼らのようなキャラクターの物語を描くことの意味とは?

ジェイコブ・トレンブレイとスティーヴン・チョボスキー監督

監督:やはり僕自身もアウトサイダーだという気持ちがどこかであるからです。ただ僕はアスリートでもあったので、学校では友だちも多い方でした。だから、はみ出し者と人気者の双方をつなげるのが自分の役割と感じていました。人生で学んだことの1つが、人々には差異よりも似てる部分が多いということです。

──まさにオギーがそうですよね。見かけはみんなと違うけれど、中身はどこにでもいる男の子です。彼の普通の少年としての魅力が奇跡を起こしたように感じました。

監督:原作を読みながら、これを映画でも描きたいと思ったのは、人はいかに自然に勝手な先入観を持つかということです。国でも性別、年齢でもなんでも。簡単に他者について決めつけてしまう。この原作は、そういった部分を超えて、その人は誰であるかということを見せてくれます。全ての人にそれぞれのストーリーがある。人生まさにそうだと思うし、こうして旅をして、新しい文化に触れるたびに毎回感じます。自分の仕事を通して、よりみんなが一つになれることに少しでも役立てるのは光栄です。

誰だって友だちになれるはず(ジェイコブ・トレンブレイ)
ジェイコブ・トレンブレイとスティーヴン・チョボスキー監督

──この作品が掲げる“Choose Kind(親切であることを選ぶ)”はシンプルですが、素晴らしいメッセージです。これさえ心得ておけば、大概のことは解決できると思いました。

監督:たった2語ですが、みなさん「親切(kind)」の方に目がいきがちですよね。でも僕は「選ぶ(choose)」という言葉がとても好きです。だって、選ぶということに力は宿っているのだから。この映画を作り、このメッセージに寄り添う形で生きてきて2年経ちますが、僕自身が素晴らしい人生を生きていると感じています。とはいえ、日常生活でフラストレーションを感じることはあるわけで、そのたびに妻に言われます「忘れないで。怒っちゃ駄目よ」って(笑)。

──ジェイコブさんは「Choose Kind」について、どう思いますか?

トレンブレイ:みんなに優しく接するのは世界で最も簡単なことの一つだと思う。スマイルするだけでできることだから。1人ぼっちでいる子に「仲間にならない?」と言うだけでいいから、簡単だと思うんだけど。僕は学校でよくサッカーをやるけど、一緒に遊びたいという子がいれば、入ってもらいます。だって、誰だって友だちになれるはずだから。

──ジェイコブさんがこの作品にもたらしたもの、彼の才能やプロフェッショナリズムに驚いたようなエピソードがあったら教えてください。

監督:監督は映画の最初の観客でもあります。監督の喜びの一つは、彼のような抜きんでた才能に驚かされること。その瞬間はたくさんあったけど、これぞジェイコブ、と思ったのは、ある事件が起きて、オギーの父親が悲嘆にくれるシーンでした。実は父親役のオーウェン・ウィルソンの撮影最終日に、急きょ撮ることにしたんです。セリフは全くなくて、ジェイコブが入ってパパの背中をポンと叩いて、ただ2人そこで座る。あのシーンには本当に感動したし、驚いた。話すだけでもこみ上げてきます。ジェイコブは本当に素晴らしい。ユーモアのセンスがあって、感動させてくれる。例えば卒業式のシーン。壇上に立って投げキスを始めたりするのは、たとえ本編でカットされたとしても、ジェイコブのそういう精神がこの映画の中に入っています。

──この作品は本当にドリームキャストだと思いました。家族として自然に見える4人ですが、母親はジュリア・ロバーツ、父親はオーウェン・ウィルソンというスターですし、その他も豪華な顔ぶれです。

『ワンダー 君は太陽』
(C)Motion Picture Artwork (C)2018 Lions Gate Entertainment Inc. All Rights Reserved.

監督:素晴らしかったですね。僕はジュリアのファンで、オーウェンも大好きだし、マンディ・パティンキンのような伝説的な役者が「校長先生? うん、いいよ」と引き受けてくれたり、ソニア・ブラガが祖母のシーンを撮るたった1日のためだけに来てくれたり、本当に恵まれていると感謝の気持ちしかないです。原作の力が大きいと思います。それから、チューバッカのことも忘れちゃ駄目だよね。プロデューサーがディズニーと長年仕事をしているおかげで、キャスリーン・ケネディに原作と脚本をお送りして、検討をお願いしたら快諾してもらえました。

──チューバッカの登場は本当に楽しくて素敵なシーンでした。ジェイコブさん、共演はいかがでしたか?

トレンブレイ:めっちゃ楽しかったです。『スター・ウォーズ』に出演するのは僕の夢の一つでもあるんだけど、それに一番近づけた瞬間だったから。

(text:冨永由紀/photo:小川拓洋)

ジェイコブ・トレンブレイ
ジェイコブ・トレンブレイ
Jacob Trembay

2006年、カナダ・バンクーバー生まれ。13年、『スマーフ2 アイドル救出大作戦!』で映画デビューし、映画やTVドラマに出演。15年に、ブリー・ラーソン主演の『ルーム』で彼女の息子役を演じて大ブレイク。同作で放送映画批評家協会賞若手俳優賞、ナショナル・ボード・オブレビュー賞ブレイクスルー演技賞を受賞、全米映画俳優組合(SAG)賞助演男優賞にノミネートされた。その後『ソムニア –悪夢の少年- 』(16年・未)、ナオミ・ワッツと共演の『Shut In』(16年)、再びワッツと共演の『The Book of Henry』(17年)に出演。最新作はグザヴィエ・ドラン監督の『The Death and Life of John F. Donovan』(原題)。

スティーヴン・チョボスキー
スティーヴン・チョボスキー
Stephen Chbosky

1970年、アメリカ・ペンシルバニア州生まれ。南カリフォルニア大学映画脚本科を卒業し、初監督作『The Four Corners of Nowhere』(95年)がサンダンス映画祭でプレミア上映される。99年に小説「ウォールフラワー」を出版し、ニューヨーク・タイムズのベストセラーリスト第1位となる。米国図書協会が発表した「最も批判を受けた本」のリストに7回入り、2000年から09年にかけて、「最も禁書にすべきと批判を受けた本」の第10位という注目を浴びた同書を、12年『ウォールフラワー』として自身で映画化、脚本・監督・製作総指揮を務めた。同作はインディペンデント・スピリット賞など各賞を受賞。ヒロインを演じたエマ・ワトソンが、17年に主演したディズニーの実写版『美女と野獣』の脚本を手がける。今後はディズニーの実写映画『Charming』(原題)で監督・脚本を担当する予定。