『月極オトコトモダチ』徳永えりインタビュー

女優は、30代を超えてからが面白い!

#徳永えり

「この人は恋愛対象、この人は対象外」という見方はしない

音楽と映画の祭典「MOOSIC LAB」でグランプリを含む4冠を達成した映画『月極オトコトモダチ』。WEBマガジン編集者・望月那沙は、「レンタル友だち」を生業にしている青年・柳瀬と出会うことにより、大人の男女に友情は存在するのか――というテーマの連載を始めることになるが……。

本作で那沙を演じるのは、数々の映画やドラマに出演している実力派女優・徳永えりだ。商業作品でもその演技力が高く評価されている徳永が「映画作りってこうあるべきだなと思った」と振り返った撮影での思い出や、30代になって変わったことなどを語った。

──連続ドラマ『恋のツキ』で演じたワコと本作の那沙は、アラサー女性という共通点はありますが、まったくタイプの違う女性でしたね。

徳永:アラサーの恋愛物語なのですが、男女間に友情は存在するのかという、答えがあるようでないような、お客さんに答えをゆだねる作品だったので、演じている方は、いろいろと考えを巡らせることができ、とても楽しかったです。

──どういった部分が楽しかったのでしょうか?

徳永えり

徳永:最初に台本を読んだとき、那沙というキャラクターは年の割にすごく幼いところがあり、もがいている女性だなと感じたんです。恋愛に対しても未熟なところが多いからこそ、男友だちとのやり取りも演じていて面白かった。悩む部分も多かった役ですが、すごくやりがいがありました。

──「悩む部分も多かった」ということは、那沙という役を理解するのは難しかったということですか?

徳永:アラサー女性の恋愛事情というのはこれまでも経験してきたのですが、那沙は恋愛までにもいっていない女の子。そういう段階の彼女の、どこに焦点を絞って演じたらいいのかは悩みました。そんなとき、こんなこと言ったら失礼ですが、穐山(茉由)監督を見て「あーいいモデルがいる!」と思ったんです(笑)。本当の穐山監督の恋愛事情は分からないですが、表現の仕方とか、動きとか身振り手振りが、いい意味でこじらせているように見えたんです(笑)。かなり穐山監督を参考にさせていただきました。

──レンタル友だちとして出会った橋本淳さん演じる柳瀬との関係性も、とても良い緊張感があり、見応え抜群でした。

徳永えり

徳永:橋本さんとは初めてご一緒させていただいたのですが、ラッキーだったのは、すごくお芝居の相性が良かったんです。那沙がこじらせているなか、スンと立ってくれて、全部お芝居を受け止めてくださいました。だから私はとりあえず全部やってみようと思えました。相手が橋本さんじゃなかったら全然違う形になっていたと思います(笑)。

──穐山監督の現場はいかがでしたか?

徳永:私が言うと偉そうになってしまいますが、しっかりと見えている絵を持たれている監督なので、その許容範囲内だったら遊んでも動じない大きさを感じました。長編映画初作品とのことでしたが、そんなことを感じさせないくらいの余裕もあって視野も広い方だなと。でも自分のやりたいことに対してのこだわりは強いので、ピンポイントな演出は多かったと思います。あとは、アパレルの仕事をされているということもあると思うのですが、衣装のカラーリングなど、とても鮮やかでワクワクしました。

──柳瀬は「男女関係にならないスイッチ」を持っている人でしたが、徳永さんは男女関係においてスイッチを意識したことは?

徳永えり

徳永:柳瀬ほどスイッチをぱちぱちと切り替えられる経験はないですよね(笑)。ただこの仕事ってすごく特殊で、役によっては、キスしたり絡みもあると思うのですが、ある意味でそこではスイッチをオフにしているのかもしれませんね。でもプライベートでは、タイプとかはあるのかもしれませんが、異性と接するとき「この人は恋愛対象、この人は対象外」という見方はしていないです。

──男女間に友情は成立するのかというテーマを聞いたときはどう思いましたか?

徳永:自分にはあまりない発想だったなと思うと同時に、このテーマって答えがないと感じていて、そこに映画として答えを出す作業に挑む監督ってすごいなと思いました。私もそのチャレンジに惹かれた部分は大きかったです。どこに着地するか、やってみないと分からないという映画作りも不思議な体験でした。

──穐山監督は、アパレル会社に勤める会社員でもあり、今回は自主映画というカテゴリーに属する映画でした。

『月極オトコトモダチ』撮影中の様子

徳永:一番分かりやすい商業映画との違いは、時間がないということですかね(笑)。もちろん予算的な部分も自主映画だと厳しいとは思うのですが、私自身が、初めて映画に出させていただいた作品は、劇場公開はされましたが、とても小規模な作品でした。その作品でお芝居について学ぶことが多かったので、当時のことを思い出し、すごく懐かしい気持ちになりました。初心に戻れた気分でした。

──初心に戻れたというのは?

徳永:限られた時間や予算のなか、どうやってベストを尽くすかを、どの部署もみんな一生懸命考えて映画作りをするんです。もちろん時間もお金もあった方がいいとは思いますが、ないなかで作ることの尊さや強さもあるんです。やっぱり映画作りってこうあるべきなんだなと改めて感じましたし、大変なことって楽しいに変わるんだなと実感しました。ありがたいことに『月極オトコトモダチ』は、観ていただいた方からの評価が高く、全国公開していただけることになりました。その意味でも、とても貴重な体験ができた作品です。

30代になってすごく気持ちがラクになった
『月極オトコトモダチ』
2019年6月8日より全国順次公開
(C)2019「月極オトコトモダチ」製作委員会

──『恋のツキ』や本作など主演作が続いていますが、主演することから見えてきたものはありましたか?

徳永:経験をしなければ分からなかったことはたくさんあります。一番は「私はどれだけ脇に甘えていたんだろう」ということ。主演の方って作品を背負う使命があるし、重圧もすごい。そのなかで、一緒に芝居をしている俳優さんの表現をつぶさないようにしようとか、できるだけ伸び伸びと演じられるような環境を作りたいという気持ちで臨んでいるんですよね。主演を経験したことで、これまで脇で演じていたとき、主演の方にたくさん守っていただけていたんだなと感じました。

──30歳前後から出演作が続き、プライベートでもご結婚されるなど、20代とは大きな変化を感じているのではないでしょうか?

徳永:こんなにも変わるのか……というぐらい実感しています。30歳を超えてから、突然恋愛ものへの出演を含め、いろいろな作品をやらせてもらえるようになりました。以前事務所の社長から「30歳を超えてからだよ」と言われていたこともありましたが、私も早く30歳になりたいと思っていたんです。実際になると、すごく気持ちがラクになりました。10代の頃から、お姉さんたちが「30歳を超えると楽しいよ」と言われていたのですが、言葉通り、いまはとても楽しいです。

(text&photo:磯部正和)

徳永えり
徳永えり
とくなが・えり

1988年5月9日生まれ、大阪府出身。2004年にドラマ「放課後」で女優デビューを果たすと、2006年『放郷物語 THROES OUT MY HOMETOWN』で映画初出演。2010年公開の映画『春との旅』で毎日映画コンクールスポニチグランプリ新人賞と日本映画批評家大賞新人女優賞を受賞。その後も、連続テレビ小説「わろてんか」(2017年)や、「恋のツキ」(2018年)など話題作の出演が続いている。7月からはレギュラー出演する連続ドラマ「べしゃり暮らし」(EX)の放送が控えている。