『スポットライト 世紀のスクープ』レイチェル・マクアダムス インタビュー

権力に立ち向かった女性記者を熱演

#レイチェル・マクアダムス

信仰を打ち砕かれる可能性があったから、この事実は受け入れがたい話だった

数十人もの神父による子どもたちへの性的虐待、被害者は1000人以上。長年に渡り、カトリック教会が組織ぐるみで隠蔽してきた事件を描いた社会派ドラマ『スポットライト 世紀のスクープ』。権力と戦いながら、真実を追い求めた記者たちの姿に胸が熱くなる。

実話を基にした作品で、2015年アカデミー賞では作品賞を受賞し話題を呼んだ。記者の1人を演じたレイチェル・マクアダムスは、『きみに読む物語』でブレイクした実力派女優。彼女に、本作の見どころなどを語ってもらった。

──本作は、2002年1月にアメリカ東部の新聞「ボストン・グローブ」が、地元ボストンの神父たちによって長年行われてきた性的虐待を暴いた過程を描いた作品です。あなたは記者チームの1人、サーシャ・ファイアーを演じたのですが、ご本人には会いましたか?

『スポットライト 世紀のスクープ』
Photo by Kerry Hayes (C) 2015 SPOTLIGHT FILM, LLC

マクアダムス:サーシャは とても心の温かい人よ。彼女とのやり取りは最初はメールから始まって、次に電話で話したの。それから、ボストンで会うことになったわ。私はその週末をサーシャと過ごしたの。ご主人と一緒に街を案内してくれて、私は彼女に思いつく限りの質問をしたわ。彼女についての物語をできる限り正確に伝えたい、彼女のすばらしい人柄を的確に表現したいと思ったの。彼女は途方もないことをやり遂げた人よ。

 彼女は(取材チーム内で)自分が一番若いことや女であることを意識せず、チームの一員として認められてると感じてたの。能力は対等だし、他の人と同様にそこにいる権利があった。彼女はそのことを何度も話してくれたわ。そして、私もこの映画に参加してる時、みんなで映画を作り上げてると感じたわ。

──サーシャの人柄をもう少し教えてください。

マクアダムス:彼女は今でも被害者と連絡を取り続けてるの。事件に対する彼女の取り組み方は尊敬に値するわ。彼女は人々が話を打ち明けたいと思う人なの。今は成人した男性でも、自分の感情を人と共有するのに抵抗のある人もいるわ。女性になら話しやすい人もいると思うけど、彼女は特に聞き役として非凡なの。彼女は温かい心の持ち主で、とても思いやりがある。だから彼女がチームにいるとたくさんの話が集まるの。
 この映画では、飽くなき好奇心と粘り強く諦めない精神が描かれてる。そこに何かがあると感じて繰り返しそこに立ち戻るの。核心に迫るために。映画制作でも同じよ。丹念な調査を続け、新しい物を発見し続けるの。その結果、小さなことから大きな物語が生まれるの。この映画のようにね。記者は、部内者と部外者の両方になる必要がある。彼らには客観的な視点が必要なの。でも記者たちと接していて気付いたことがあるわ。彼らが人をリラックスさせってことにね。私が彼らをインタビューする時はいつも、立場が逆転してしまうわ。つい自分の話ばかりして、質問するのを忘れるの。彼らは人の心を開かせるのと同時に、客観的な目も持ってる。
 それから、サーシャたちは勇敢だったわ。多くの人々にとって、この映画で描かれたことは受け入れ難い話だったの。歴史を通じ、タブーになってしまった。多くの人がその話題を不快に感じ、話をしたがらなかった。信仰を打ち砕かれる可能性があったから。

事件から目を背けると、“共犯者”になってしまう
『スポットライト 世紀のスクープ』
Photo by Kerry Hayes (C) 2015 SPOTLIGHT FILM, LLC

──ジャーナリスト役を演じ、この職業についてどう思いましたか?

マクアダムス:一筋縄ではいかない仕事だわ。今、ジャーナリズムの精神が失われつつあると言われているけれど、素晴らしい仕事であると思う。この映画によって、影のヒーローである彼らの仕事に“スポットライト”が当てられるのは喜ぶべきことだと思う。

──衝撃的な内容の映画ですが、反響は感じますか? また、なぜこんなことが起きてしまったんでしょうか。

マクアダムス:ボストン・グローブ紙の報道をきっかけに、「自分も被害を受けた」と声を上げる人が全米各地で数多く現れたの。この映画が公開されたときにも同じ現象が起き、声なき者たちに、声を上げる機会が与えられたわ。
 事件が起きた理由は、私には分からないわ。信仰が強ければ強いほど、神父の存在が偉大だからかもしれない。でも避けなければいけないのは、目を背けること。それは、性的虐待の共犯者になってしまうことだと思うから。

──マーク・ラファロやマイケル・キートンなど他のキャストも実在の人物を演じたわけですが、間近で演技を見た感想は?

マクアダムス:演じる役柄とのバランスを観察するのは興味深いわ。(マイケル・キートンが演じた)ロビーも(マーク・ラファロが演じた)マイクもみんな実在の人物で、バイタリティーあふれる個性ある人々よ。演じる役柄とのバランスを見出すことと、集めた情報をもとに自然でリアルな演技をすること。これらは演技における挑戦よ。彼らの取り組みを見ているのは興味深かったわ。

マーク・ラファロ、マイケル・キートンら共演者と
──監督のトム・マッカーシーは、『扉をたたく人』などを監督し、『カールじいさんの空飛ぶ家』ではアカデミー賞脚本賞にノミネートされていますね。一緒にお仕事していかがでしたか?

マクアダムス:トムは多才な人よ。監督で、偉大な俳優で、脚本家でもある。彼の指示は簡潔なの。多くを語らず、的確に意志を伝えられる。それから、いつも演技に目を配っていて、決して現場からいなくなったりしないの。だから安心して思い切った演技ができる。彼とジョシュ(共同脚本のジョシュ・シンガー)のチームワークはすばらしかったわ。何か問題があって脚本に修正が入る時は、元からいいものが更にすばらしいものになるの。

──本作であなたはアカデミー賞に初ノミネート(助演女優賞)されましたね。残念ながらご自身の受賞は叶いませんでしたが、作品は作品賞と脚本賞を受賞しました。その感想は?

マクアダムス:決して派手な作品ではないので、受賞はうれしかったと同時に、驚きでもあったの。これほど支持されたことに感謝の気持ちがこみ上げてきたし、女優としても大きな励みになったわ。とにかく授賞式は人生で忘れられない一夜になったわ。

レイチェル・マクアダムス
レイチェル・マクアダムス
Rachel McAdams

1978年11月17日生まれ。カナダのオンタリオ州出身。幼い頃から演劇に興味を抱き、トロントのヨーク大学で演劇の学士を取得。テレビドラマからキャリアをスタートさせ、『きみに読む物語』(04年)のヒロイン役でブレイク。『スポットライト 世紀のスクープ』(15年)でアカデミー賞助演女優賞に初ノミネートされた。主な出演作は『シャーロック・ホームズ』(09年)、『ミッドナイト・イン・パリ』(11年)、『シャーロック・ホームズ シャドウ ゲーム』(11年)、『トゥ・ザ・ワンダー』(12年)、『アバウト・タイム〜愛おしい時間について〜』(13年)など。