『チョコレートドーナツ』アイザック・レイヴァ&トラヴィス・ファイン監督インタビュー

ゲイカップルと母に捨てられた少年の血のつながりを超えた”家族”の絆と闘いを描き、大ヒット中の映画の監督と俳優が来日

#アイザック・レイヴァ#トラヴィス・ファイン

家族は血のつながりによってのみならず、愛によっても作られる(監督)

全米各地の映画祭で観客賞を総なめにし、日本でもミニシアター上映作として大ヒット中の『チョコレートドーナツ』。1979年のカリフォルニアを舞台に、スターを夢見るショーダンサーの男とゲイであることを隠して生きてきた弁護士、そして母の愛情を受けずに育ったダウン症の少年が出会い、幸せな日々を過ごすが、やがて社会の偏見に直面する物語は、人と人のつながりについて深く考えさせる。映画の大ヒットを受けてトラヴィス・ファイン監督と、心優しい少年・マルコを演じた、自身もダウン症の俳優アイザック・レイヴァが来日した。

取材中も、ふと気がつくと、互いの目をのぞき込み、微笑み合う2人。質問に聞き入り、一所懸命に考えながら答えるアイザックをファイン監督は優しく見守り、時に助け舟を出しながら会話を弾ませてくれた。

──今回、『チョコレートドーナツ』の大ヒットを受けての来日となりました。

監督:とてもうれしく、光栄に思っています。感謝しています。物作りをしている身としては、できるだけ多くの方に作品を見ていただきたい、それも映画館で見ていただきたいですから、とてもうれしいです。

アイザック:僕もうれしいです。

監督: ダンス、音楽、愛、美。この世には言葉がなくても通じ合うものがあります。アイザックは今朝、日本の子どもたちと一緒にダンス・レッスンに参加したのですが、それこそダンスを通してコミュニケーションをとっていましたよ。

──実母からネグレクトされた少年をゲイのカップルが引き取って育てるという物語ですが、映画を通して描きたかったものをお聞かせください。
トラヴィス・ファイン監督(右)

監督:通常なら一緒になりそうにない、何の共通点もないような人たちが出会って家族を作っていく。オリジナルの脚本を読んで、そこに惹かれました。家族は血のつながりによって作られるものですが、愛によっても作られるのです。ただ、物語自体にセンチメンタルな側面があるので、バランスをとることに留意しました。やり過ぎるとうまくいかない。でも、人の心を動かす作品にしたい。脚本をリライトするときも撮影中も、その後の編集段階でも、センチメンタルになりすぎず、ドライで冷たくアカデミックになりすぎないよう注意しました。

──ゲイのパフォーマー・ルディとダウン症の少年・マルコの物語に、ルディのパートナーとなる弁護士のポールという人物を付け加えたのはあなたのアイディアだと聞きました。

監督:ルディとマルコだけではなく、家族の物語としてもう少しふくらませたいと思いました。ポールが存在することによって、ルディの別の側面を描けます。マルコの命を救うことに加えて、恋愛も経験する。芽生えたばかりの愛と相対するルディを描くのも面白いと思いました。自分を偽って生きてきたポールが「本当の自分になるんだ」とルディが出演するバーに出かけるシーンも気に入っています。今回はシェフのように、自分が面白いと思う味つけをいろいろ試したかったんです。

アイザック・レイヴァ

──アイザックさんは演じたマルコについてどう思いますか?

アイザック:僕とマルコは親友です。マルコにも僕にもそれぞれの人生があるけど、僕らはずっと幸せに友だちでい続けると思っています。

──映画は脚本が書かれた当時の1979年のカリフォルニアが舞台ですが、映画化の際、現代の物語にしようとは思いませんでしたか?

監督:答えはノーですね。理由はふたつあります。ひとつ目は、僕は70年代という時代と当時の映画が大好きなので、その時代を描けるというのはエキサイティングな挑戦だったから。もうひとつは、過去を描くことで歴史を振り返ることができるからです。30数年を振り返って、どれだけの変化があり、あるいはどれだけ物事は変わっていないのかを知ることができます。

──LGBT(レズ、ゲイ、バイセクシャル、性同一性障害)の観点から、アメリカは変わったと思われますか?

監督:アメリカでは多くの州で同性婚が認められ、同性カップルの養子縁組が法的に認められるようになりましたから、進歩はあったと思います。本作の製作総指揮をした2人は20年以上続いている同性カップルです。彼らは特別な支援を必要とする何十人もの子どもたちの里親でしたが、そのなかの2人をフロリダ州で養子縁組するために法廷で争って養育権を得た経緯があります。
 僕は全ての人間に愛し、愛される権利があると思います。性別、人種、国籍……愛はそれらすべてを超えると思っています。すべてに共通するのは、そこに真実の愛があるということ。同性同士が愛し合うことは許されるべきだと強く思っています。

家族が僕をいい人間、善き男に育ててくれた(アイザック)
アイザック・レイヴァ(左)とトラヴィス・ファイン監督(右)

──この作品からは、先ほど監督も言われたように、家族を形作るのは血縁ではないということを感じます。

監督:たとえば結婚がそうですよね。血のつながらない者同士の結婚から家族が生まれるのですから。相手と気持ちが通じ合い、恋に落ちて愛が生まれる。人と人のつながりは、やはり血ではなくて愛です。

──アイザックさんは家族についてどう思います。

アイザック:僕にはママがいます。大好きです。祖父母も大好き。彼らが僕をいい人間、善き男に育ててくれました。

──『チョコレートドーナツ』という邦題も素敵ですが、原題はルディが歌う「I shall be released」の歌詞である“Any day now”です。ここに込められた思いを聞かせてください。

監督:実は『チョコレートドーナツ』という邦題を知ったのはつい最近なのですが、各国それぞれの文化に違いがあり、それを考慮してくれる配給会社を信頼しているので、良いタイトルだと思います。ちなみに、元々のタイトルは『Family』でした。ただ、編集をしている時に、“Any day now”をタイトルにしたいと思いました。ボブ・ディランの歌ですが、プロテスト・ソング、アンセム(応援歌)として知られている曲です。この作品は、いかに正義が歪められているかを描いていますが、「I shall be released」はそういう事態に対して間違っていると立ち上がる人々の歌でもあるので、1番ぴったりくると思いました。

左からアイザックの母親、アイザック・レイヴァ、トラヴィス・ファイン監督

──ルディを演じたアラン・カミングは、バイセクシャルで同性婚を公表しています。彼にとっても特別な思いのある作品ではないでしょうか。

監督:本作をとても誇りに思ってくれています。自身の経験と重なるところもあったようですね。今回、彼も来日できたらよかったけど、現在ブロードウェイで舞台『キャバレー』の公演中なので。でも、日本でのヒットを知って、とても喜んでいました。(アイザックに)そういえば、アランはとても重要なことを教えてくれたんだよね。(目の前にVサインをかざすポーズを2人でしてみせながら)写真を撮るときのクールなポーズ。アランへの挨拶だね(笑)。

──最後に、映画をこれから見る方々にメッセージをお願いします。

アイザック:幸せな気持ちにもなるし、悲しい気持ちにもなる映画です。でも、愛があるので、それをぜひ見てほしいです。マルコは僕にとって、本当の兄弟みたいなんです。

監督:笑えて、泣けて、素晴らしい演技、素晴らしい音楽を味わうことができる作品です。そして何よりも、(アイザックを指差して)このスーパースターに会えますよ!

(text=冨永由紀)

アイザック・レイヴァ
アイザック・レイヴァ
Isaac Leyva

1990年8月3日生まれ。中学生の頃から学校で数多くの舞台に出演し、俳優を目指す。スペシャルオリンピックでも活発に活動し、07年にはベスト・バディーズの新入社員募集のCMに出演。高校を卒業後、10年にカリフォルニア州イングルウッドにある演劇学校「パフォーミング・アーツ・スタジオ・ウェスト」に入学。通い始めて数週間後に『チョコレートドーナツ』のためのオーディションビデオを撮った。映画と音楽とダンス、そして読書が好き。

トラヴィス・ファイン
トラヴィス・ファイン
Travis Fine

1968年6月26日生まれ。ジョージア州アトランタ出身。7歳のときから演技に目覚め、俳優として活動するほか、脚本・演出のキャリアも積む。01年9月11日に全米で起きた同時多発テロに心を痛め、エンターテインメント業界を離れて飛行機学校へ入学。その後、定期旅客機のパイロットをしつつ、書き上げた脚本『The Space between(原題)』はメリッサ・レオ主演で映画化され、トライベッカ映画祭で上映された。俳優としての主な映画出演作は『チャイルド・プレイ3』(91年)、『シン・レッド・ライン』(98年)、『17歳のカルテ』(00年)など。

トラヴィス・ファイン
チョコレートドーナツ
2014年4月19日よりシネスイッチ銀座ほかにて全国順次公開
[監督]トラヴィス・ファイン
[脚本]トラヴィス・ファイン、ジョージ・アーサー・ブルーム
[出演]アラン・カミング、ギャレット・ディラハント、アイザック・レイヴァ、フランシス・フィッシャー
[原題]ANY DAY NOW
[DATA]2012年/アメリカ/ビターズ・エンド/97分

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