『パワー・オブ・ザ・ドッグ』ジェーン・カンピオン監督インタビュー

『ピアノ・レッスン』ジェーン・カンピオン監督が描く緊迫の人間ドラマ

#Netflix#ジェーン・カンピオン#パワー・オブ・ザ・ドッグ

ジェーン・カンピオン

男らしさというものを深く掘り下げ、秘められた愛について描いている

ベネディクト・カンバーバッチ主演のネットフリックス映画『パワー・オブ・ザ・ドッグ』が12月1日より配信中だ(11月19日より一部劇場で公開中)。

『パワー・オブ・ザ・ドッグ』
Netflix映画『パワー・オブ・ザ・ドッグ』12月1日より独占配信中

舞台は1920年代のアメリカ・モンタナ州。周囲から尊敬と恐怖の念を集める牧場主のフィル・バーバンクと弟のジョージはある日、地元の未亡人ローズに出会う。ジョージはローズの心を慰めて結婚し、彼女の息子ピーター共々、家に迎え入れることに。これを知ったフィルはすべてを壊そうと、残忍で執拗な攻撃を仕掛けるのだが、ある事件をきっかけに、フィルにも新たな感情が芽生え……。

『イミテーション・ゲーム/エニグマと天才数学者の秘密』『ドクター・ストレンジ』のカンバーバッチが主演を務め、ジェシー・プレモンス、キルステン・ダンストが共演。メガホンをとったのは『ピアノ・レッスン』でカンヌ国際映画祭パルム・ドールを受賞し、同作でアカデミー賞脚本賞を受賞したジェーン・ カンピオン。 実に11年ぶりとなったファン待望の新作への思い、そしてパンデミック下での撮影の苦労を明かしてくれた。

性的で凶暴な“犬の力”に翻弄される人々を通じてジェーン・カンピオンが描き出すものとは

──約11年ぶりの監督作となりましたが、原作となった小説の何が監督の心を動かしたのでしょうか?

監督:いつも物語が創造のインスピレーションを与えてくれます。初めて読んで以来ずっと頭から離れなかったトーマス・サヴェージの小説 「パワー・オブ・ザ・ドッグ」 の物語に、何度も思いを巡らすようになりました。
なぜこの物語に強烈に魅了されたのか、理由はたくさんあります。何が起こるか想像もつかず、驚くほど細部まで描かれた物語で、作者の実体験に基づいて書かれたのだと感じました。これは単に、1925年の牧場に暮らすカウボーイを描いた物語ではなく、とても生々しい経験を描いた作品で、だからこそ信憑性が感じられたのだと思います。男らしさというものをここまで深く掘り下げている点や、秘められた愛について描いている点がとても気に入りました。

パワー・オブ・ザ・ドッグ

──本作のプロデューサーの1人であるターニャ・セガッチアンとは、カンピオン監督の前作『ブライト・スター ~いちばん美しい恋の詩~』で親しくなったそうですね。

監督:ターニャはBFIで私の『ブライト・スター』の脚本をゴミ箱から引っ張り出して、「一緒にやらないなら私1人でもやる」と言わんばかりの勢いで映画への出資を主張してくれました。それがターニャとの友情の始まりです。ターニャは並外れて知的な人物で、映画の可能性に対する深い愛情には人の心を動かす力があります。また真の優しさに満ちた人でもあります。彼女の情熱に私は深い敬愛を抱いています。私には映画製作に影響を与えるあらゆる追い風も向かい風もうまく乗りこなす友人がついている、そう思うだけで心置きなく全力投球することができますから。
ターニャも私も感情の起伏が激しいところがあるのですが、この業界の男性で同じような人は見たことがありません。夕食を食べながら一緒にさめざめと泣いたかと思うと、後から熱くなりすぎたことを二人で笑い飛ばしたこともあります。ターニャは理屈よりも神秘的なものを大切にする人で、芸術のためならリスクの高い選択も応援してくれる懐の深さが備わっています。それに、いつも正直な意見を聞かせてくれるんです。映画版の脚本作りから最終ミックスに至るまで、私たちは製作におけるクリエイターとしての戸惑いや苦難を共に耐え抜き、パンデミックのせいで物理的に会えなかった期間も、リモートながら頻繁に話をしました。

──パンデミック下の撮影は困難を極めたそうですね。

監督:(撮影地の)ニュージーランドのロックダウンが迫るなか、素早く戦略的に、助演俳優によるシーンを完成させるために日程を組み直す決断をしました。最優先事項はキャストとスタッフ全員の安全を確保することでした。

パワー・オブ・ザ・ドッグ

──4ヵ月もの間、撮影が中断されたそうですが、その時はどう感じましたか?

監督:本作を完成できないかもしれないことも覚悟しました。しかし時が経ち、ニュージーランドのコロナ戦略によって感染率が低下しゼロになると、プロデューサーたちと撮影再開の可能性を模索し始めました。ベネディクト・カンバーバッチを含むキャストの何人かは、自宅に帰らずニュージーランドに留まることを選びました。他の人々も厳しい隔離規制のもとニュージーランドに戻ることができました。
実はロックダウンによって、このプロジェクトはさらに良いものになったと思います。休息し、より深く内省し、新たな視点を得ることができました。本作を製作できる幸運に一層の感謝の気持ちを持って撮影に戻りました。すべてのものや人々がより大切に感じられたのです。

ジェーン・カンピオン
ジェーン・カンピオン
Jane Campion

1954年生まれ、ニュージーランド出身。ロンドン留学中より短編映画を撮りはじめ、オーストラリア・フィルム&テレビ・スクール在学中に製作した『ピール』で、カンヌ国際映画祭短編映画部門グランプリを受賞。『スウィーティー』(89年)で長編デビュー。『ピアノ・レッスン』(93年)で、女性監督として初めてカンヌ国際映画祭のパルム・ドールを受賞。同作はアカデミー賞オリジナル脚本賞にも輝き、史上7人しかいないアカデミー賞監督賞ノミネート女性監督の仲間入りを果たした。『パワー・オブ・ザ・ドッグ』は、2009年の大ヒット作『ブライト・スター ~いちばん美しい恋の詩(うた)~』以来の長編映画となる。