後編/「やっぱりタモリはスゴい」“ハナモゲラ語”が炸裂の『マンガをはみだした男』

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『マンガを はみだした男 赤塚不二夫』
『マンガを はみだした男 赤塚不二夫』

(…前編「〜超ハイレベルでブレンド」より続く)

【映画を聴く】『マンガをはみだした男 赤塚不二夫』後編

坂本龍一の代打も担当
劇中音楽を担当するU-zhaanって誰?

タモリが主題歌を担当することが大きな話題になっている『マンガをはみだした男 赤塚不二夫』だが、劇中音楽をU-zhaanと蓮沼執太、そしてナレーションを青葉市子が担当していることも熱心な音楽ファンにとってはトピックだろう。

U-zhaan(ユザーン)はインドの打楽器であるタブラを操る演奏家で、「ヨルタモリ」への出演で知る人も多いはず。坂本龍一やコーネリアス、くるり、椎名林檎など、数多くのミュージシャンのサポートを務めるいっぽう、毎年インドに長期滞在して現地のタブラ奏者に演奏を学び続けている。坂本龍一が病気療養していた際にはFMのレギュラー番組で代打を務めたほか、2014年には多くのゲストを迎えたリーダー・アルバム『Tabla Rock Mountain』をリリースしている。

坂本雅司プロデューサーは本作の音楽に“明るい涅槃”というイメージを持っていたらしく、インド音楽を現代的な手法で鳴らしているU-zhaanの起用を思い立ったという。実際、本作ではU-zhaanのタブラが全編にわたって存在感を示しており、笑いのカオスである赤塚不二夫の世界を音でバックアップしている。彼が「ヨルタモリ」に出演し、セッションを経験していたことから監督はタモリに主題歌をオファーしたというから、本作への彼の貢献度はひじょうに高いものだ。

いっぽうの蓮沼執太も多くのミュージシャンとコラボレーションを展開している作曲家で、蓮沼執太フィルという大所帯のアンサンブルを率いて活動している。本作ではインド風味全開のU-zhaanのタブラ演奏の間を縫うようにミニマルな電子音楽を提供しており、劇中にほどよい落ち着きをもたらしている。

ナレーションを担当する青葉市子は、U-zhaanとも共演の多いシンガー・ソングライター。自身のソロ作品のほか、CMソングや舞台音楽、コーネリアスがサウンドトラックを手がけた『攻殻機動隊 ARISE』の主題歌を歌うなど、幅広い活動を展開している。室井オレンジの手がけるアニメ・パートと彼女のナレーションは相性がよく、『おそ松さん』で赤塚不二夫を知った若い世代にも入り込みやすいトーンを作り出している。

赤塚不二夫にとっての一番の表現手段が漫画だったことは当然だが、本作では「ギャグ漫画を描く人間は、自身も面白くなくてはいけない」という観念に取り憑かれた表現者の真面目でシャイな本質が浮き彫りにされる。面白い人間であるためにメチャクチャを繰り返した生涯は、喜劇的であると同時に悲劇的でもある。先に触れたように、タモリは弔辞で「私もあなたの数多くの作品のひとつです」と言ったが、赤塚不二夫の生き様をどこまでも明るくポップに描いた本作を見ると、赤塚不二夫本人も彼の作品のひとつであったことがよく分かる。本作につけられた“マンガをはみだした男”というタイトルは、決して大げさではない。(文:伊藤隆剛/ライター)

『マンガをはみだした男 赤塚不二夫』は4月30日より公開。

伊藤 隆剛(いとう りゅうごう)
ライター時々エディター。出版社、広告制作会社を経て、2013年よりフリー。ボブ・ディランの饒舌さ、モータウンの品質安定ぶり、ジョージ・ハリスンの 趣味性、モーズ・アリソンの脱力加減、細野晴臣の来る者を拒まない寛容さ、大瀧詠一の大きな史観、ハーマンズ・ハーミッツの脳天気さ、アズテック・カメラ の青さ、渋谷系の節操のなさ、スチャダラパーの“それってどうなの?”的視点を糧に、音楽/映画/オーディオビジュアル/ライフスタイル/書籍にまつわる 記事を日々専門誌やウェブサイトに寄稿している。1973年生まれ。名古屋在住。

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