サルサ版『ロッキー4』!? ニック・フロストのキレキレのサルサ・ダンスに目が釘付け/前編

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『カムバック!』
(C) STUDIOCANAL LIMITED / THE BRITISH FILM INSTITUTE /CHANNEL FOUR TELEVISION CORPORATION 2013.All Rights Reserved.
『カムバック!』
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『カムバック!』

今日から上映される『カムバック!』は、英国コメディ界きっての個性派俳優、ニック・フロストが主演/製作総指揮/原案の3役をこなすダンス&コメディ映画。“メタボ de サルサ !?”というキャッチコピーからも想像できるように、メタボなニックがサルサ・ダンスを軽快に踊りまくるという、ほとんどそのアイディア一発で貫かれた痛快作になっている。

企画のきっかけは、『宇宙人ポール』や『ワールズ・エンド 酔っぱらいが世界を救う!』などで一緒に仕事をしてきたプロデューサーのニラ・パークにニックが送信した一通のメールだったという。「スパンコール付きのピチピチの衣装を着て踊りまくる映画を作りたい」という旨の書かれたそのメールが送られた1週間後には、すでにスタジオへの売り込みが始められたという。

サルサ版『Shall we ダンス?』なんて触れ込みも耳にするこの『カムバック!』。確かに、踊れるようには見えない主人公が最終的にキレキレのダンスを披露するに至る流れは、そう呼べなくもない。ただ、そういう流れ自体は『Shall we ダンス?』だけでなく『シコふんじゃった。』とか『ウォーターボーイズ』といった日本映画にも見られるので、特別珍しいものではない。本作が『Shall we ダンス?』と明らかに違うのは、主人公が初心者ではなくてサルサ・ダンスの経験者であるということだ。ニック演じる主人公=ブルースは、少年時代に“天才”と讃えられた伝説のサルサ・ダンサー。あることをきっかけにサルサを辞め、25年後の現在はさえないメタボ中年としてさえない毎日を送っているが、一目惚れの女性を振り向かせるためにサルサのダンス・フロアーへ返り咲くべく猛練習を開始する。

つまり“変身”ではなくて“復帰”。ビフォー&アフター的な変身を遂げてドヤ顔、というよくあるプロットではなく、ブルースの外見はメタボのまま。ダイエットするわけでもマッチョ化するわけでもない。ただひたすら過去の自分を取り戻すべく(そして彼女を振り向かせるべく)、踊りに邁進する。だからこそ、ニックの表情には“できて当然”というある種のクールさが終始漂っている。そういう意味で本作はコメディ的な要素だけでなく、たとえば『ロッキー4』とか『許されざる者』あたりを思い出させるハードボイルド的な要素も多分に含んだ多面的な物語として楽しむことができる。何でも監督のジェームス・グリフィスはブルースの姿に『スーパーマン』のクラーク・ケントを重ね合わせていたらしく、人と分かち合えない才能を持つ男の孤独感は、確かにブルースからも滲み出ている。

ちなみに本作の原題は『Cuban Fury』(キューバの激情?)。邦題の『カムバック!』は、作品の内容をよりシンプルに言い当てていて素晴らしいと思う。(…後編へ続く)(文:伊藤隆剛/ライター)

サルサ版『ロッキー4』!? ニック・フロストのキレキレのサルサ・ダンスに目が釘付け/後編

伊藤 隆剛(いとう りゅうごう)
ライター時々エディター。出版社、広告制作会社を経て、2013年よりフリー。ボブ・ディランの饒舌さ、モータウンの品質安定ぶり、ジョージ・ハリスンの趣味性、モーズ・アリソンの脱力加減、細野晴臣の来る者を拒まない寛容さ、大瀧詠一の大きな史観、ハーマンズ・ハーミッツの脳天気さ、アズテック・カメラの青さ、渋谷系の節操のなさ、スチャダラパーの“それってどうなの?”的視点を糧に、音楽/映画/オーディオビジュアル/ライフスタイル/書籍にまつわる記事を日々専門誌やウェブサイトに寄稿している。1973年生まれ。名古屋在住。

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