わかりやすい安心感にほっこり/『小野寺の弟・小野寺の姉』

#元ネタ比較

『小野寺の弟・小野寺の姉』
(C)2014『小野寺の弟・小野寺の姉』製作委員会
『小野寺の弟・小野寺の姉』
(C)2014『小野寺の弟・小野寺の姉』製作委員会

原作と映画版はどうちがうの? どっちの方が面白いの!?「原作あり」の映画を、ライター・入江奈々がめった斬りする連載コラム!

●今日の作品:『小野寺の弟・小野寺の姉』

いい年して結婚せずにひとつ屋根の下で暮らす、適齢期過ぎの姉弟の日常風景を描いた『小野寺の弟・小野寺の姉』。同名原作小説を手がけた西田征史が初メガホンを取り、こだわりが強く実直な姉を片桐はいりが、引っ込み思案でズボラな弟を向井理が演じている。

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西田監督は「日経エンタテインメント!」で“ヒットメーカー・オブ・ザ・イヤー2012”の準グランプリに輝いた注目株。西田監督の実績は『怪物』や『アフロ田中』の脚本など数々あるが、世間的に「おっ!」と思わせたはオリジナルTVアニメから映画化、コミカライズ、タイアップ広告と展開させた『TIGER & BUNNY』のシリーズ構成と脚本を手がけたことだろう。

その西田が大事に大事にあたためていた作品が本作の“小野寺の弟・小野寺の姉”モノである。西田自身が執筆した小説が元ネタであり、片桐はいりも向井理も別の仕事で知り合いだったという西田は、もともとこの2人を想定して小説を書いたのだとか。片桐と向井の共演で同名舞台の公演もされたが、小説の舞台化ではない。舞台のほうはこの小野寺の姉弟もののいわばスピンオフ的な位置づけで、姉弟が住む一軒家に映画の撮影隊がやってきて繰り広げられる珍騒動が描かれる。本作は舞台より後の制作になるが、こちらほうが実質的には正式な原作小説の実写化というか可視化となる。

原作者が監督しているだけに、原作と同じ匂いと同じ時間が流れ、騒動もなにも巻き起こらないが、日常の小さな出来事をひとつひとつ追っていく。スーパーの特売に姉弟で出かけ、姉の風水のこだわりで小競り合いをする日々を送っていたあるとき、郵便配達のミスで姉弟はかわいい女性に出会い、姉は仕事場に来る営業マンとぎこちなくもいい雰囲気に。

丁寧に描かれるエピソードはわかりやすく、とても安心感がある。姉弟が小競り合いしながらも、心の底から深くお互いを思いやっていることは心をじんわり温める。演じている片桐も向井も当て書きされただけにしっくりとハマっていて、それも安心感につながるのだろう。

イケメンの向井と数十年間イメージの変わらないお弁当箱顔の片桐の姉弟コンビは一見ギャップがあるように思えるが、ちょっと世間とズレていて生き方が不器用な2人として見れば見るほどしっくりくる。同じ空間で暮らしてきた姉弟というのが、しごく頷けるのだ。

また、この2人が暮らす空間も本作のもうひとりの主役といっていいぐらい魅力的だ。年季の入った一軒家で、古い日本家屋というほどアンティークでもないが、昭和の香りがぷんぷんとする佇まい。家具や小物も嫌味なほどオシャレでもなく、「“食器は貰い物や引き出物」という倹約家で物を大事にする姉の人柄も表し、見ていて落ち着くものばかりが集められている。

一時期はお笑いにも取り組んでいたという西田監督が作り出す笑いも、わかりやす過ぎるきらいはあるが、鼻につかずに安心感があり、コミカルな演出は心をほっこりとさせる。共演者のキャスティングも配達ミスで知り合ったかわいい女の子には「CanCam」専属モデルの山本美月、誠実な営業マンには及川光博、弟の同級生で一人芝居を続ける演劇人にはムロツヨシ、とこれまたわかりやすい。

西田監督は“ラーメンズ”と親交が深く、舞台版『小野寺の弟・小野寺の姉』に出演している片桐仁が映画版にも登場。その登場シーンは一瞬でピンボケであるにも関わらず、はっきりと片桐仁だと見て取れる。そんなわかりやすさにもほっこりとしてしまった。(文:入江奈々/ライター)

『小野寺の弟・小野寺の姉』は10月25日より全国公開される。

入江奈々(いりえ・なな)
1968年5月12日生まれ。兵庫県神戸市出身。都内録音スタジオの映像制作部にて演出助手を経験したのち、出版業界に転身。レンタルビデオ業界誌編集部を経て、フリーランスのライター兼編集者に。さまざまな雑誌や書籍、Webサイトに携わり、映画をメインに幅広い分野で活躍中。

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