ジョディ・フォスターだからこそ作れた社会派娯楽の意欲作『マネーモンスター』

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ジョディ・フォスター
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『マネーモンスター』

ジョディ・フォスターの5年ぶりとなる映画監督作『マネーモンスター』はジョージ・クルーニーとジュリア・ロバーツという大物2人が共演するサスペンス大作。家族のドラマを描いてきた過去の作品とは異なり、生放送中に番組をジャックされ、司会者が人質にとられるという派手な設定だ。

クルーニーが演じるリー・ゲイツは人気財テク番組「マネーモンスター」の人気司会者。だが、コスプレをしてダンサーと踊りながら番組を進行する彼は、経済ジャーナリストというよりもエンターテイナーだ。調子に乗って暴走しがちな彼をコントロール・ルームから的確な指示でナビゲートするディレクター、パティをロバーツが演じる。

いつものように始まった番組に突然の侵入者が現れる。顔を隠すこともなく突然拳銃を発砲したその男は、番組の情報に騙されてなけなしの財産を失ったと訴え、株の情報操作の真実を暴くため、リーの頭に拳銃をつきつけてろう城する。パティや駆けつけた警察との攻防が繰り広げられる中、数日前の放送でリーが流した誤情報の裏に隠された金融の闇が徐々に明らかになってくる。

宅配業者を装ってスタジオに侵入、番組をジャックした若い男・カイルを演じるのはアンジェリーナ・ジョリー監督『不屈の男 アンブロークン』(14年)で主演を務めたジャック・オコンネル。恋人とのささやかな暮らしのために見た夢が悪夢に変わり、やぶれかぶれで真実と正義を求める青年の痛々しくも切実な姿は胸に迫る。

無謀な行動に出ても、根は真面目でまっとうな要求をするカイルに、テレビ画面の前の視聴者は肩入れをし始める。警察はカイルの妻を夫の説得に駆り出す。この辺りの展開は、アル・パチーノが不器用な銀行強盗を演じた『狼たちの午後』(75年)を彷佛させる。当初は保身しか頭になかったリーも、自分が「買いだ」と番組で紹介した新興企業「IBIS」の株が大暴落したからくりを暴こうとパティと連携、CEOが行方をくらませている「IBIS」の広報担当を追及していく。『オーシャンズ11』(01年)などスティーヴン・ソダーバーグ作品やクルーニーの監督・出演作『コンフェッション』(02年)などで共演し、公私共に親しいクルーニーとロバーツの相性の良さはスクリーンで見事に活かされている。

サスペンスと人間ドラマ、そこに社会派のメッセージも盛り込む意欲作だが、何より印象的なのは、詠み人知らずとでも言いたくなるクセのない職人的な演出だ。この無名性は『オレンジ・イズ・ニュー・ブラック』や『ハウス・オブ・カード 野望の階段』などTVシリーズのエピソードを監督した経験で身につけたものかもしれない。作家性を敢えて消し、エンターテインメントの中に社会への問題提起を忍ばせる。1960〜70年代にはそういう作品がたくさんあった。実は、映画の題材からして、クルーニーこそ監督として撮りたかったのでは?という先入観を抱いていた。だが、子役として、その時代から映画に携わってきたフォスターこそが本作の監督にふさわしいのだ。(文:冨永由紀/映画ライター)

『マネーモンスター』は6月10日より公開される。

冨永由紀(とみなが・ゆき)
幼少期を東京とパリで過ごし、日本の大学卒業後はパリに留学。毎日映画を見て過ごす。帰国後、映画雑誌編集部を経てフリーに。雑誌「婦人画報」「FLIX」、Web媒体などでレビュー、インタビューを執筆。好きな映画や俳優がしょっちゅう変わる浮気性。

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