後編/モブには見えない大泉洋、原作とは違いジャンルムービー極めた『アイアムアヒーロー』

#元ネタ比較

『アイアムアヒーロー』
(C)2016 映画「アイアムアヒーロー」製作委員会 (C)2009 花沢健吾/小学館
『アイアムアヒーロー』
(C)2016 映画「アイアムアヒーロー」製作委員会 (C)2009 花沢健吾/小学館

(…中編から続く)
【元ネタ比較】『アイアムアヒーロー』後編

大スプラッタに興奮して楽しむにはいいかも

花沢健吾の原作漫画で丁寧に描かれる日常はあっさり・さくさく進み、宣伝でも大々的に打ち出しているように早々とジャンルムービーへと突入。その後はどんどんとタガが外れていくように加速していき、大スプラッタ祭りが繰り広げられる。

監督は『修羅雪姫』で注目され、『GANTZ』などを手がけた佐藤信介。水を得た魚といったところか、小気味いいほどに思う存分やりまくっている。R15指定、ファンタスティック系の海外映画祭での受賞も納得。ただそれも、原作ではテンション決して高くなく、体感温度も低くドライに描かれて、どこか冷静なところが逆に恐怖を感じさせるのだが、映画版では興奮度高くて通常のジャンルムービーのテンションだ。

もっというと、主人公は“英雄”という名前が似つかわしくない冴えない男だが、映画版では“冴えなさ”が足りない。演じる大泉洋は、藤原竜也や山田孝之なんかがやるよりもよっぽどイメージに近くて悪くない。けれど、原作者が英雄のことを「本来ならモブ(群衆)である男」というように、主人公らしくない主人公でないと成立しないのに、大泉洋はどうしても主人公らしく見えてしまう。花沢健吾作品では重要と思えるポイントだから、もう少し何らかの工夫があってもよかったのに。

また、脇役やエピソードは融合されたり割愛されたりし、原作は連載中で完結していないためにこれからもまだまだサバイバルは続く、という幕切れとなっている。話が戻って申し訳ないが、それなら前半の日常にもっと時間を割いてもよかったのでは?と思えてしまう。

ただ、原作を読んだことのない人にとっても、冴えない主人公の必死のサバイバルとこれでもか〜と炸裂するスプラッタに興奮させられるはず。日常を忘れて楽しむにはいいかもしれない。(文:入江奈々/ライター)

『アイアムアヒーロー』は4月23日より公開中。

入江奈々(いりえ・なな)
1968年5月12日生まれ。兵庫県神戸市出身。都内録音スタジオの映像制作部にて演出助手を経験したのち、出版業界に転身。レンタルビデオ業界誌編集部を経て、フリーランスのライター兼編集者に。さまざまな雑誌や書籍、Webサイトに携わり、映画をメインに幅広い分野で活躍中。

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