前編/アンディ・ウォシャウスキー監督がリリーになったのはこの映画のせい?

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『リリーのすべて』
(C)2015 Universal Studios. All Rights Reserved.
『リリーのすべて』
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『リリーのすべて』

先日、『マトリックス』シリーズで知られるアンディ・ウォシャウスキー監督が、長年監督としてコンビを組んできた姉のラナと同様に、男性から女性への性別適合手術を受けたことを公表し、今後は「リリー」と名乗ると宣言した。この命名とまったく無関係とも思えないのは今回紹介する『リリーのすべて』だ。男性として生きてきた主人公が、ふとしたきっかけで真の自分に気づき、心身ともに女性になる選択をした20世紀前半の実話の映画化で、主人公の妻を演じたアリシア・ヴィキャンデルが第88回アカデミー賞助演女優賞に輝いた作品だ。

1920年代、デンマークの風景画家アイナー・ヴェイナーは肖像画家の妻ゲルダと暮らしていた。愛し合う男女として、才能を高め合う同志として理想的なカップルだった日々に変化が訪れたのは、アイナーがゲルダの描く肖像画のモデルの代役を務めたときのこと。バレエダンサーの衣装を身体に当て、ストッキングをつけたアイナーの内面に潜んでいた“女性”が目を覚ますように姿を現したのだ。

美しく化粧をしてドレスを身にまとったアイナーと舞踏会に出かけたりして、変装ゲームのつもりで楽しんでいたゲルダもやがて夫の変化に気づき、言いようのない不安にかられていく。何よりアイナー自身が、自らの身に起きたことを理解できないまま、リリーという女性として過ごす時間が増えていく。ゲルダは誤解や疑念に苛まれながらも夫を見守り続ける。

これは、まだトランスジェンダーという概念も一般的ではなかった1920年代から30年代という時代に、様々な葛藤や苦悩を経て、心と身体が一致しないという真実にたどり着き、それを乗り越えようと決意した2人の物語だ。最愛の人に全てを打ち明け、本当の自分になるために誰も受けたことのない手術に命をかけてリリーの臨む勇気、思いも寄らない事態を全て受け入れ、全力で相手を支えるゲルダの覚悟。人を愛する、愛し合うということはシンプルなはずでいて、とても複雑だ。(後編へ続く…)

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