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(2016年 1月 23日)

【週末シネマ】屈辱と罪悪感を背負わされ殺されていった人々の悲劇

『屈辱と罪悪感を背負わされ殺されていった人々の悲劇』
『サウルの息子』
(C)2015 Laokoon Filmgroup

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[ムビコレNEWS]  『サウルの息子』

昨年のカンヌ国際映画祭でグランプリに輝き、1月のゴールデン・グローブ賞外国語映画賞を受賞、2月に決定する第88回アカデミー賞でも外国語映画賞の大本命作と予想されている『サウルの息子』。ハンガリーの無名の新人監督のデビュー作は、1944年のアウシュヴィッツ=ビルケナウ収容所の2日間の物語だ。

『サウルの息子』ネメシュ・ラースロー監督インタビュー

主人公はハンガリー系ユダヤ人男性のサウル。彼はゾンダーコマンドとして働かされている。ゾンダーコマンドとは、ナチスの親衛隊に選ばれた収容者たちによる特殊部隊。収容所に移送されてきた同胞たちをガス室に送り、絶命した彼らの遺体処理に携わる。任務にあたる者たちは大量殺りくに加担させられた挙げ句、数ヵ月経てば口封じのために殺され、新たに別の収容者たちが従事するという仕組みだ。

サウルはある日、ガス室で折り重なった死体の中にいた “息子”を見つける。だが、奇跡的にまだ虫の息があった少年は無惨にも軍医によって絶命させられてしまう。“息子”を手厚く弔いたいという思いにかられたサウルは、自分のみならず仲間たちも危険にさらしながら、収容所内でラビを探し、できる限りのことをしようと奔走する。

サウルたちは背中に大きくゾンダーコマンドの印をつけた上着を着て、人生最後の数ヵ月間で非人間的な仕事をさせられている。屈辱のうえに罪悪感まで背負わされた男の目に映るものを、彼のすぐそばに立って見続けるような映像だ。手持ちカメラによる映像はサウルの半径数メートル以内しかとらえず、彼に見えない距離で起きていることは判然としない。スタンダードという画面サイズも閉塞感をあおり、淀んだ空気の重さや死と絶望の匂いまで伝わってきそうだ。

人の心を失うような仕事を強いられ、最期を迎える時に彼らは何を思うのだろう? ついそんなことを考えてしまう。やがて思考停止に陥っていたかに見えたゾンダーコマンドたちは反乱を起こし、その混乱に乗じてサウルは“息子”の遺体を抱え、仲間たちと脱走するが……。

はっきりと見せないことで逆にすべてを伝える、そんな独自の手法を用いたのはハンガリー出身で38歳のネメシュ・ラースロー。初めての長編映画だが、これまでにないアプローチで、ホロコーストの渦中の収容所をまるでドキュメンタリーのような生々しさで描いていく。サウルを演じるのはニューヨーク在住の詩人・小説家のルーリグ・ゲーザ。

あれから70年以上経ち、当時を知る人々も数少なくなった。ゴールデン・グローブ賞を受賞したラースロー監督がスピーチで言った通り、「ホロコーストは年月が過ぎるにつれて、抽象的なものになってしまいました」ということか。だが、監督はこう続けた。「でも、私にとって、それは忘れてはいけない顔のようなものなんです」。

語り尽くされたと錯覚していたホロコーストの知られざる悲劇。その悲惨さと重さをつぶさに体感させる、忘れがたい衝撃作だ。(文:冨永由紀/映画ライター)

『サウルの息子』は1月23日より公開される。

冨永由紀(とみなが・ゆき)
幼少期を東京とパリで過ごし、日本の大学卒業後はパリに留学。毎日映画を見て過ごす。帰国後、映画雑誌編集部を経てフリーに。雑誌「婦人画報」「FLIX」、Web媒体などでレビュー、インタビューを執筆。好きな映画や俳優がしょっちゅう変わる浮気性。

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