番外編・後編/注目が集まる『ここさけ』と前作『あの花』の違いは!?

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 『心が叫びたがってるんだ。』 
(C)KOKOSAKE PROJECT
 『心が叫びたがってるんだ。』 
(C)KOKOSAKE PROJECT

名曲が揃うミュージカルが感動を増幅
でも、大人の事情の破壊力に唖然…

(…中編より続く)シリーズも劇場版もヒットした“大人も泣ける”オリジナルアニメ『あの日見た花の名前を僕達はまだ知らない。』の監督・長井龍雪、脚本・岡田麿里、キャラクターデザイン・田中将賀が再集結した劇場よう新作アニメ『心が叫びたがってるんだ。』が公開される。本作もまったくのオリジナルアニメとなる『ここさけ』は前作『あの花』の二番煎じで終わっているのか、それとも新たな発展を見せてくれるのだろうか?

【元ネタ比較】番外編・前編/注目が集まる『ここさけ』と前作『あの花』の違いは!?
【元ネタ比較】番外編・中編/注目が集まる『ここさけ』と前作『あの花』の違いは!?

『ここさけ』は重いばかりの物語ではない。甘く切ない恋愛も絡めた感動の青春ドラマとなっている。ヒロインの順たちは、音楽教師の担任・城島先生からイベントの実行委員に一方的に任命される。順と共に任命されたのは、両親の離婚をきっかけに本音を言わずに人とぶつかることを避けるようになった拓実、優等生だが中学時代の恋から踏み出せない菜月、甲子園を期待されるも負傷で挫折してやさぐれている元野球部エースの大樹。とくに関わりもないのに、心に傷を持つ4人をチョイスしたのは彼らの成長を期待する城島先生の企みであるだろう。それでいて、城島先生が熱血漢タイプでなく、飄々としていておそらく教師のなかでは浮いてそうな変わり者であるところもまた憎い設定だ。

彼らはこれまた城島先生の目論見によって、イベントのクラスの出し物としてミュージカルに挑戦することとなる。しゃべらない順がミュージカルに!? と驚くところだが、なんと順自身が積極的に挑戦しようとし、ミュージカルに心の中の内なる叫びをぶつけていく。『心が叫びたがってるんだ。』というタイトルも内容もクサくて恥ずかしいくらい直球だが、もうすでに見る者のハートは鷲掴みにされて、応援のエールを送っている。

それぞれの問題に直面しながらも失敗や葛藤を繰り返して前に進もうという彼らの姿は青春そのもの。バラバラだったクラスがひとつとなっていく様子は上手くできすぎていると一瞬思ったが、筆者も高校生時代の文化祭でクラスで一致団結し、やたらと盛り上がったけ……。盛り上がり出したら止まることなくスピード感が加速していくのも青春の特徴だ。

『あの花』とはまた違った、清々しい感動が押し寄せてくる。劇場版『あの花』はオープニングから全編通して苦しく切ない涙が自然と溢れてきたが、『ここさけ』は起伏あるポイントで苦い涙、甘酸っぱい涙、爽やかな涙が絞り出されるように感じられる。

さらにこの胸の高まりに追い打ちを掛けるのが劇中劇であるミュージカルの歌の数々である。『あの花』はご存知のとおりミュージカルではなく、劇中の音楽要素は少ない。『ここさけ』は歌という音楽の力も借りて、感動を高めていく。その歌もベートーヴェンの「悲愴」やミュージカル映画からの名曲「Over the Rainbow」など、誰もが知るポピュラーナンバーばかり。口ずさめるほど馴染みある曲に物語のテーマでもある歌詞を乗せ、高校生の出し物レベルとしてちょうどいいクオリティに抑えられた歌声で歌われると静かに心に響いてくる。

そういえば、『あの花』もエンディングでZONEのヒットソング「secret base 〜君がくれたもの〜」の声優陣によるカバー曲が使用され、それがノスタルジックな物語の内容にもリンクして感動を増幅してくれた。すでに心に入り込んだ曲で、くすぐりをかけられると胸に温かいものがジーンと広がっていく。

そんななか、物語は嬉しいサプライズが用意されつつ終幕へ。歌の余韻が心地よく残るなか、エンディングで流れるのは乃木坂46の新曲『今、話したい誰かがいる』! い、いやね、ニュースで知ってはいたよ、覚悟していたよ。案外いいと拍子抜けになるかもしれないと希望を託してシュミレーションまでしたよ。でも、でも! 想像以上の破壊力が! 歌詞の内容は合っているし、アップテンポでもなく悪い曲ではない。でも、クラシックの名曲に浸ったあとに、現代的なアイドルソングが流れると、涙も止まってしまったじゃないかぁ。劇中劇の原曲でも、音楽を担当したミトのクラムボンでも、はたまた趣向を変えて拓実が所属するDTM(デスク・トップ・ミュージック)部のボカロでもいいのに。

『ここさけ』の配給のアニプレックスも乃木坂46もソニー・ミュージックエンタテインメント関係だから当然、大人の事情だろう。乃木坂46もこの時期の紅白出場をかけた新曲として、後押しが欲しいといったところか。『ここさけ』としてもテレビシリーズもない、いきなりの劇場オリジナルとあって、のっけから一般層を引き込みたいのはやまやまだろう。でも、やっぱりアニメファンの支持という基盤があってこそ口コミで広がっていくものじゃないのか? 乃木坂といい、放映前から炎上している『あの花』実写ドラマといい、『あの花』の倍以上というリスキーな公開館数といい、もう『ここさけ』、フラグが立って……いやいや! 真のアニメファンなら、『あの花』二番煎じとはならずに期待通りに新たな感動を与えてくれた『ここさけ』を、大人の事情に負けないように応援しようじゃないか! それもこれも事情を抱えた大人たちのせいだ〜と、心が叫びたがってるんだ!!(文:小野田礼/映画ライター)

『心が叫びたがってるんだ。』は9月19日より全国公開される。

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[動画]『心が叫びたがってるんだ。』予告編

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