「ファンクの帝王」の過激で過剰な人生を凝縮!『ジェームス・ブラウン〜最高の魂を持つ男〜』/前編

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『ジェームス・ブラウン〜最高の魂を持つ男〜』
(C)Universal Pictures(C)D Stevens
『ジェームス・ブラウン〜最高の魂を持つ男〜』
(C)Universal Pictures(C)D Stevens

昨年から今年にかけて、ミュージシャンの伝記映画やドキュメンタリーの上映が相次いでいるが、今日から公開される『ジェームス・ブラウン最高の魂(ソウル)を持つ男』は、その知名度や音楽業界での功績を考えると近年で最大の注目作と言っていいだろう。

[動画]『ジェームス・ブラウン〜最高の魂を持つ男〜』予告編

自らも大きな影響を受けたことを公言しているミック・ジャガーがプロデューサーをつとめ、“ソウル界のゴッドファーザー”あるいは“ファンクの帝王”と呼ばれるジェームス・ブラウン(以下、JB)の生涯を140分に凝縮。同じくファンク・ミュージックの基盤を築いたスライ・ストーンのドキュメンタリーを先々週に紹介したばかりだが、こちらは伝記映画として多少の演出を含みながら、JBの音楽同様にサービス精神旺盛な作品に仕上げられている。

その、あまりにも波瀾万丈な73年の人生を1本の映画に万遍なくまとめるのは土台無理な話なわけで、テイト・テイラー監督は時間軸をぶった切ったカットアップ的な手法でJBの濃密な生涯をダイジェスト的に見せていく。有名な1988年のマシンガン発砲&カーチェイス事件が冒頭とエンディングに据えられ、極貧の幼少時代や教会でのゴスペル音楽との出会い、16歳での最初の逮捕と少年院入り、59年のアポロ・シアターでの最初のライヴ、キング牧師暗殺後のリーダーシップ溢れる取り仕切り、家族や仲間との離別や再会などが次々と現れては消えていく。

それでも映画そのものがとっ散らかった印象にならないのは、JBの人となりがファンならずともよくわかるように割り切ってまとめられているからだ。ファンやラジオ局のDJへの親切で気の利いた対応(驚異的な記憶力で、DJたちの名前や家族構成をいちいち憶えていたというエピソードがよく知られている)、それとは反対に身内に対する容赦のなさ(妻への度重なるDVや、バンドメンバーからの罰金の徴収といったエピソードは本作でも盛り込まれている)がそれぞれ丁寧に描かれており、この矛盾に満ちたカリスマの両面を浮き彫りにしていく。

筋金入りのJBマニアからは「あれ、フレッド・ウェズリーやダニー・レイは?」とか「影響を受けたリトル・リチャードが出てくるなら、影響を与えたマイケル・ジャクソンやプリンスが出てきてもよかったのに」といった声があるかもしれない。本作では長年連れ添ったボビー・バードとの友情がサブテーマとして据えられているため、音楽的に重要なエピソードのいくつかが割愛されているからだ。だからと言って音楽家としてのJBの本質が疎(おろそ)かにされているわけではなく、それこそマニアであればあるほどに目が釘付けになる場面がいくつも登場する。(後編へ続く…)(文:伊藤隆剛/ライター)

「ファンクの帝王」の過激で過剰な人生を凝縮!『ジェームス・ブラウン〜最高の魂を持つ男〜』/後編

伊藤 隆剛(いとう りゅうごう)
ライター時々エディター。出版社、広告制作会社を経て、2013年よりフリー。ボブ・ディランの饒舌さ、モータウンの品質安定ぶり、ジョージ・ハリスンの趣味性、モーズ・アリソンの脱力加減、細野晴臣の来る者を拒まない寛容さ、大瀧詠一の大きな史観、ハーマンズ・ハーミッツの脳天気さ、アズテック・カメラの青さ、渋谷系の節操のなさ、スチャダラパーの“それってどうなの?”的視点を糧に、音楽/映画/オーディオビジュアル/ライフスタイル/書籍にまつわる記事を日々専門誌やウェブサイトに寄稿している。1973年生まれ。名古屋在住。

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