(後編)大人目線で『映画 ビリギャル』をチェック! ギャルな有村架純に違和感ないが、描き方がピュア過ぎ!?

#元ネタ比較

『映画 ビリギャル』さやか(有村架純/左)とその家族
(C) 2015映画「ビリギャル」製作委員会
『映画 ビリギャル』さやか(有村架純/左)とその家族
(C) 2015映画「ビリギャル」製作委員会

(…中編より続く)

きれいごとばかりじゃなく
リアルな痛みも欲しかった

社会現象とも言えるほど話題となった書籍版「学年ビリのギャルが1年で偏差値を40上げて慶應大学に現役合格した話」を映画化した『映画 ビリギャル』。書籍版がベストセラーになったのは、偏差値を40上げて難関大学に合格するためのハウトゥ本だからではない。

(前編)大人目線で『映画 ビリギャル』をチェック! ギャルな有村架純に違和感ないが、描き方がピュア過ぎ!?
(中編)大人目線で『映画 ビリギャル』をチェック! ギャルな有村架純に違和感ないが、描き方がピュア過ぎ!?

また、偏差値30だったギャルのさやかが“聖徳太子”を“せいとくたこ”という太った女の子だと言ったことや、日本地図を書けと言われて大きな円を1つだけ書いたことがただ面白かったからだけではないだろう。ベストセラーの理由は、この原作にはドラマが詰まっているからだ。

それも、学年でダントツビリのヒロインが慶應大学に現役合格したというシンデレラストーリーだけではない。主人公・さやかと家族を中心としたさやかを取り巻く人々との涙滲む葛藤を描いた人間ドラマがそこにある。慶應大学に合格するというオチがわかっていても映画化されたのが何よりの証拠で、それほどドラマとして成立しているのだ。

しかし映画版では、吉田羊演じるお母さんはビジュアル的には実際のご本人にぴったりだが、内面的には、単に過保護に娘を甘やかしているうちに勉強しないバカ娘になってしまったように見えて、いまひとつ信念が感じられない。特に、確たる理由があって娘を絶対に否定せずにワクワクすることをやらせ続けたということが分かりづらいから、観客の気持ちが乗っていかない。この母親の暗黒の半生やそれまで試行錯誤した子育ての失敗を感じさせてくれれば、こちらの見る目も違ってくるのに。さやかとそれまで一緒に遊びまくっていたギャル友だちとの距離感や不満も、あまりにもきれいごとの友情で収めてしまっている。そう、映画版は全編がきれいごと過ぎるのだ。

一切の摩擦なくトントン拍子に進むわけではないが、障害となる悪役はお父さんが一手に引き受けている。あぁ、そう言えばさやかをクズ扱いする、安田顕演じる高校教師もいたっけ。彼は薄っぺらいステレオタイプに描かれているので気にも止まらない。お父さんは原作通り、プロ野球選手になるという果たせなかった夢を、さやかの弟である息子に背負わせてあからさまに息子だけに愛情を注いでいる。さやかを邪険にするヒドい父親という悪役としてわかりやすく万人が憎むべき人物で、さらにはこんな悪い人にもいいところはあるという大団円が待ち受けているから、ドラマの陰の部分としては弱い。

監督は、『いま、会いにゆきます』や『ハナミズキ』などのお涙頂戴な感動作を得意とする土井裕泰だから、これが限界なのかもしれない。露悪的な心の闇や後味悪い終わり方を求めているわけではないが、きれいごとばかりだと萎えてしまう。こんなウソのようなシンデレラストーリーだからこそ、チクリと心が痛むようなリアリティが欲しい。有村架純に伊藤淳史のイメージ通り、ピュアで濁りが無さすぎるのが物足りなく感じてしまった。(文:入江奈々/ライター)

『ビリギャル』は5月1日より全国公開される。

入江奈々(いりえ・なな)
1968年5月12日生まれ。兵庫県神戸市出身。都内録音スタジオの映像制作部にて演出助手を経験したのち、出版業界に転身。レンタルビデオ業界誌編集部を経て、フリーランスのライター兼編集者に。さまざまな雑誌や書籍、Webサイトに携わり、映画をメインに幅広い分野で活躍中。

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