天才子役とペ・ドゥナが競演、社会の抱える負の部分をリアルに描き出す『私の少女』

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『私の少女』
(C)2014 MovieCOLLAGE and PINEHOUSE FILM, ALL RIGHTS RESERVED
『私の少女』
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『ジュピター』などハリウッド映画や是枝裕和監督の『空気人形』などで国際的に活躍するペ・ドゥナが、2年ぶりに母国である韓国で主演した『私の少女』。ソウルから地方の警察に左遷されたエリート警官の女性と、家族から虐待されている少女の物語だ。

海辺の村に赴任し、若くして女性所長をつとめるヨンナムは村に着いてすぐ、14歳の少女・ドヒと知り合う。産みの母が蒸発し、今は継父とその母親と同居しているが、2人から凄まじい虐待を受け続けている。村中でそのことを知らない者はいないが、誰もが見てみぬふりだ。ヨンナムはその異様さに立ち向かい、ドヒを徹底的に守ろうとする。ある事情から、エリート街道を外れたヨンナムと誰からも大切にされることなく生きているドヒ。深い孤独と寂しさで共鳴し合う2人は絆を深めていく。

秘密を抱え、心を閉ざした大人の前で、無垢な表情を見せたかと思えば、あやしいたくらみの気配もまとう。無邪気と狡猾が渾然一体となったおそろしい子ども、とらえどころのない少女・ドヒを演じるのは『冬の小鳥』、『アジョシ』で天才子役ぶりを見せたキム・セロンだ。今年15歳になる彼女が、大人でも子どもでもない、今この時期にしか表現できない魔性を見せている。実は一度は出演依頼を断ったというが、心変わりしてくれて本当によかった。寂しさの隙をついてくるような、捨てられた小動物のような頼りなさとその裏返しの執着の強さをこんなにも的確に演じられる者はほかにいないだろう。

受けて立つペ・ドゥナも、少しやつれ気味の面差しで、謎めいたヨンナムを好演している。大きなペットボトルを片時も離さず、村民からはお高くとまっていると煙たがられるエリートの表と裏、現在と過去を抑えた調子で演じ、ドヒとの交流で見せる表情とのコントラストを効かせる。

監督はこれが長編デビュー作となる女性監督のチョン・ジュリ。オリジナル脚本も手がける彼女にとって、ペ・ドゥナとキム・セロンをキャスティングできた時点で、本作の成功は約束されたといってもいいだろう。タブーにも果敢に切り込む勇気ある演出にしっかり応える役者たちの熱演が、社会の抱える負の部分をリアルに描き出す。透明感と影のある美しさが共通する2人のヒロインを中心に、虐待や不法就労といった社会問題から、母性や恋愛まで貪欲に盛り込んだ意欲作だ。(文:冨永由紀/映画ライター)

『私の少女』は5月1日より公開中。

冨永由紀(とみなが・ゆき)
幼少期を東京とパリで過ごし、日本の大学卒業後はパリに留学。毎日映画を見て過ごす。帰国後、映画雑誌編集部を経てフリーに。雑誌「婦人画報」「FLIX」、Web媒体などでレビュー、インタビューを執筆。好きな映画や俳優がしょっちゅう変わる浮気性。

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