【元ネタ比較!】手ぬるい感が否めない芥川賞受賞作の映画化/『共喰い』

『共喰い』
(C) 田中慎弥/集英社・2012『共喰い』製作委員会
『共喰い』
(C) 田中慎弥/集英社・2012『共喰い』製作委員会
『共喰い』
(C) 田中慎弥/集英社・2012『共喰い』製作委員会
『共喰い』
(C) 田中慎弥/集英社・2012『共喰い』製作委員会

2012年芥川賞受賞の際の「もらっといてやる」という発言がやたらと注目された田中慎弥原作による「共喰い」が映画化──そう聞いて、でしょうねと言いたくなるほど映画化が似合う、邦画特有のドロッとした澱みと凄みを内包したドラマだ。個人的には、同時に芥川賞受賞した円城塔原作による『道化師の蝶』のほうが好みだが、こちらは映画化不可能に近く、もしやるなら『π』でデビューした『ブラック・スワン』のダーレン・アロノフスキー監督にお願いしたい。

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『共喰い』に話を戻すと、物語の舞台は昭和63年の山口県下関市の川辺の地区。主人公の17歳の高校生・遠馬は暴力的なセックスを好む父親と愛人の琴子と暮らし、義手で魚屋を営む実母の仁子は家を出たものの近くに住んでいる。遠馬は父親に嫌悪感を持ち、軽蔑していたが、付き合っている千種との度重なるセックスでふと暴力の衝動にかられ、恐怖心と葛藤を抱く。

メガホンを執るのはうってつけの青山真治。下関市の対岸となる福岡県北九州市出身で、故郷を舞台にした『Helpless』、『EUREKA ユリイカ』などを発表し、なんというか、キッツい人生を背負った人を描くのが好きな監督だ。

しかし、物語の肝である父親役が光石研なのは違和感を覚えずにいられなかった。彼も福岡県出身で青山作品常連で、企画段階から関わっていたようだからしごく順当な出演。いや〜、でも、ほら、光石研ならいかにも暴力ふるいそうじゃん! 失礼、彼個人がそういう人間性に思えると言いたいわけでない。そうではなく、光石研だとどうも男臭すぎて普通に粗野な男になりそうだ。実際スクリーンに映し出されたのは、派手なシャツを着た柄の悪いただの与太者だった。原作を読んだ時は、普段はそんなことないのに性行為のときだけ女性に暴力をふるう、その卑怯でいじましくあかんたれなところが嫌悪感の対象だと感じた。原作にも度々登場する“赤ん坊のように”という表現もそこに通じているだろう。でも、光石扮する父親は単なる乱暴者で、父親が起こしたある事件を主人公に告げる重要なシーンでも、彼(光石研)は「やってやったぞ、ウッシャッシャ〜」ってなもの。原作では、あくまでやるつもりではなかったけど仕方なかったんだと子どもが言い訳してるようで、だからこそ、コイツどうしようもないヤツだなと思え、そこから繰り広げられるクライマックスも納得できるというものなのに。

反対に、主人公を演じる菅田将暉は予想をはるかに上回って良かった。ピンと張り詰めた目元から異常性を感じるほど若さと青臭さが漏れ出ていて、もうそれだけで主人公の内面も表現しきっている。『仮面ライダーW』のイケメン俳優がこんなにダサ気持ち悪い男子に変身できるとは。

キャスティングでいうと、仁子役の田中裕子もでかした!と言いたい。彼女以外に考えられないほどのハマり役で、原作イメージもそのままだ。頭は良くなくても勘が働く生きる力の強い女を、胸がすくほど堂々と演じている。

しかし、篠原友希子演じる琴子も木下美咲演じる千種も、イメージより美人で、崩したつもりかもしれないが品が滲み出てしまっている。千種はもっと垢抜けないブスがいいし、琴子は肉の余った雌っぽさと狡さが欲しい。

そして、作品内容ももっといろんな意味で下品でいいのにと思う。ありがちかもしれないが、もがき苦しむ青春ドラマで、しかも季節は夏なんて、温度も湿度も不快指数も高くてなんぼ。なのに、この映画は不快指数も低ければ、息苦しい閉塞感も追い込まれる焦燥感もない。遠馬の風呂場での自慰も、遠馬と千種のセックスも、なんだかボンヤリとした手応えだ。舞台となる川自体も、原作とは違って不潔感が少なく、こざっぱりとしている。

残念ながら、普段の発言は過激な青山真治が手がけたわりに、なんだか全体的に手ぬるい感が否めない。しかし、ラストに来て『ヴァイブレータ』などの脚本家・荒井晴彦によってオリジナルエンディングを用意するという大胆さを見せている。確かにこのラストは興味深く、作者が悔しがったというのも頷ける、と一瞬思えた。

だが、これではここまで描かれたドラマ内容すべても性癖だけの話にこぢんまりと収まってしまうのではないか。荒井はSMのつもりではないらしいが。どちらにしても今まで受け身だった女性の強さを示した前向きなエンディングであることには相違ない。いやしかし、それとて、前向きな方向でいいのだろうか。原作は前向きでも後ろ向きでもなく、解き放たれた解放感と、逆にどちらを向いて生きて行けばいいかわからない不安感が渦巻き、そこがよかったのだが。

とはいえ、原作とは違う衝撃のラストと売り込んでいても大した違いでない場合がほとんどだが、これは本当に原作とは違う、その先を描いたラスト。それも、なぜ“昭和最後の夏”に設定したのか、きちんとオチをつけたオマケつき。その勇気は買ってもいいだろう。(文:入江奈々/ライター)

『共喰い』は9月7日より全国公開される。

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