ダイエットをしてはいけない!?『THE ダイエット!』監督が語る教訓

「暴食をしなくなりました」という関口祐加監督
「暴食をしなくなりました」という関口祐加監督
「暴食をしなくなりました」という関口祐加監督
『THE ダイエット!』より。ハンサムな美容整形医に脂肪除去について相談する監督だが……

痩せたいと思いつつも、カロリー高めのものばかりをドカ食い。体重計に乗って激しく後悔する……。そんな経験を持つアナタにぜひ見てもらいたいのが、ドキュメンタリー・コメディ『THE ダイエット!』(7月25日より公開)だ。身長161cm、体重95kg、在オーストラリアのシングルマザーが、「このままだと長生きできない」と宣告されたことから一念発起、ダイエットを始める姿が綴られていく。大汗をかいて運動し(なかなか成果はあがらない!)、美容整形の道もさぐるコミカルな言動に、最初は大笑い。だが、肥満の根底にある問題に直面、苦悩し、涙する様子に感動がこみ上げてくる。

監督は関口祐加(ゆか)。1989年のデビュー作『戦場の女たち』(本名・関口典子の名前でクレジット)が日本国内外で高く評価された関口監督が、今度は自分自身を被写体にして撮ったのがこの作品だ。巨匠アン・リーから「あなたはコメディの才能がある!」と絶賛された彼女に、映画について、そしてダイエットの本質について話を聞いた。

●「何を食べるか」よりも、「なぜ食べてしまうか」が重要

お腹の脂肪も何もかも、カメラの前ですべてさらけ出す監督。あまりの無防備さに、見ている方が驚いてしまうほどだが、撮影時に抵抗はなかったのだろうか?

「映画のためには何でもするという気持ちでした。被写体と監督が同じで、躊躇がないからどんどん踏み込める。逆に、『どこでやめるか』を考える方が難しかったですね。映画を作ることは魂をさらけ出すことなので、肉体をさらけ出すなんてへっちゃら。もちろん、恥ずかしさはありますよ。でも、母との関係を撮られる方が抵抗がありましたね」

まずはエクササイズなど、表面的なダイエットにトライする監督。その一方で、精神科医のジョージ・ブレア=ウェスト博士のカウンセリングを受け、自らの心と向かい合うことで、「なぜ食べてしまうのか」という問題が掘り起こされていく。

「何を食べるかというよりも、なぜ食べてしまうのかが重要なんです。ブレア博士は、ダイエットブームに一石を投じたいと、この映画に協力してくれました。オーストラリアはアメリカと1位、2位を争う肥満大国なのですが、なぜ肥満になるかという理由がすごい。親族に強姦され続けているとか……。無意識なのでしょうが、太って醜くなることが、自己防衛につながっている部分もあるんです。これは心の問題なので、いくらカロリー計算してもダメ。彼は、『あなたの意志が弱い』というような表層的なことでは、手に負えない状況にあると考えているんです。だから映画の中で、『チョコレートを食べろ』と私に言う(笑)」

ちなみに肥満が多いのは、アメリカ、カナダ、オーストラリア、イギリス、それからイスラエルだという。

「英語を話す国ですよね。ジャンクフードが蔓延している資本主義の国。肥満は貧困層に多いんです。安いから、ジャンクフードに走ってしまう。そこには、心と身体の関係を解明しないと解決しない問題があるんです」

日本でもダイエットは、ブームを超え、もはや必須科目のようになっているが……。

「不思議ですよね、日本の女の子はみんな痩せているのに。そこにはやはり、心の問題があるんじゃないかと思うんです。もしかしたら自分に自信がないのかな。痩せたら何かが変わると思っているのかもしれませんね」

●被写体という立場の弱さを初めて実感!

自らのダイエットを綴っていくという、ありそうでなかったセルフ・ドキュメンタリーの製作を思いついたのは、不幸な結婚生活を送り、ピザをドカ食いしていた時。食べまくっている自分を「ヤバイ!」と思う一方で、「これって映画になるんじゃない!?」と思ったのだという。

「面白いドキュメンタリー映画って、土足でズンズン入っていく部分があるじゃないですか。被写体を閉じこめ、半ば拷問のようにして撮った『フォッグ・オブ・ウォー マクナマラ元米国務長官の告白』とか。そこにはモラルの問題も横たわり、それを踏み越えて行くからこそ、面白いものが生み出せるんです」

ドキュメンタリー映像作家として長年活動してきた彼女の実感だ。では、なぜ今回、自らを被写体にしようと思ったのか。

「格好良く言えば、被写体になって初めて被写体の気持ちが分かると思ったから(笑)。でもホンネを言うと、踏み越えていくのが自分であれば、ある種、モラルの問題から解放される。じゃあ、自分を被写体にしてみようと思ったんです」

では、被写体になってみて気づいたことはあるのだろうか?

「被写体が、いかにパワーのない存在であるかということに気づきました」と監督。だが、パワフルな被写体ももちろん多い。「原監督の『ゆきゆきて、神軍』に登場した奥崎謙三さんとかね。すごい監督はすごい被写体に出会うんですよ」

すごい被写体、つまり映像作家にとってのテーマは、狙って手に入れられるものではないという。「テーマは向こうからやってくる。つまりテーマに『私』が選ばれるんです」。ドラマ作りではこのことを、「神が降りてくる」という言い方で表現するのだという。

「今、神が降りている人はクリント・イーストウッドかな。降りてこないと、なかなか傑作はできないですよね」

最後に、ダイエットにとことん向かい合った監督が到達したダイエット哲学は何なのか、聞いてみると、「ダイエットをしてはいけない!」ときっぱり。「やるべきことはダイエットではなく、生活習慣を変えること。でも、今の生活を5年後にもやっていられると思っているなら、変えなくてもいいんですけど。ダイエットはがまんすることでもあるので、ストレスにもつながって良くない。私も若い頃にいろいろダイエットをしたおかげで、中年になって大変! 20代、30代の頃はいいけれど、50代に(健康面での)ツケが来る。骨粗鬆症なんかの原因にもなりますからね」。

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