【週末シネマ】アカデミー5冠が全て“技術”部門の『ヒューゴの不思議な発明』に迫る

『ヒューゴの不思議な発明』
(C) 2011 Paramount Pictures. All Rights Reserved
『ヒューゴの不思議な発明』
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先日発表になった第84回アカデミー賞で最多5部門(撮影、美術、視覚効果、音響編集、録音)を受賞したマーティン・スコセッシ監督の『ヒューゴの不思議な発明』は、1931年のパリのとある駅舎に隠れ住む少年ヒューゴが、父の遺した機械人形にまつわる秘密をめぐり冒険を繰り広げるファンタジー作品だ。

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あのスコセッシがファミリー映画を、それも3Dで作る。『タクシードライバー』や『レイジング・ブル』、オスカー受賞作『ディパーテッド』といった代表作とはあまりにかけ離れた要素ばかりで身構えたが、オープニングショットから一気に引き込まれる。

冒頭、雪のちらつく曇天のパリ上空を浮遊するカメラの視点は、そのままとある駅へと降り立ち、乗降客のひしめく構内を突き進んで時計の文字盤の裏に潜む主人公のもとへとたどり着く。映画を見るというより、映画の中に入っていく感覚だ。3Dという手法を、観客に”見せる”のではなく、その場で体感させる。豊かな物語を立体的に動かす本作の映像は、3Dに初めて詩情を持たせた。

駅の時計のネジを巻きながら暮らす孤児のヒューゴは、時計職人だった父が修理中のまま遺した機械人形の謎を追う過程で、駅構内で玩具店を営む老人と出会い、彼の養女イザベルと知り合う。人形の秘密の”鍵”を握る人物でもあった彼女とさらに秘密を探っていくと、彼らは”ジョルジュ・メリエス”という存在に行き当たる。ここから主人公たちは観客と一緒に、19世紀末に映像の可能性をいち早く見出し、様々な技法を駆使してエンターテインメントを作り上げたメリエスを知る旅に出る。

来日記者会見でスコセッシは「個人的な接点のある題材でなければ、自分は監督できない」と語った。古い映画の保存や復元に尽力してきた彼が、物語の表現法として映像を選んだメリエスが登場する本作を「自分にとって特別な作品」と語るのは当然だろう。それでいて自らの映画愛宣言めいた内容に留まらないのは、真に映画を愛する映画作家の気概を感じる。アカデミー賞の技術部門5冠は、”映像で物語を描く”というメリエスの精神をスコセッシを中心にスタッフたちが21世紀の技術で再現したことへの評価の表れだ。

自分の居場所を探し求める少年の切実さを全身に漂わせるエイサ・バターフィールド、両親を知らない寂しさをひた隠す気丈な少女を演じたクロエ・グレース・モレッツの放つ輝きと同時に魅力的なのは、周囲の大人たちだ。過去を封印した孤高の老人(ベン・キングズレー)はもちろん、駅構内で商売を営む人々、メリエスに心酔する映画学者、ドーベルマンを従えて練り歩く駅の公安官といった登場人物たちが彩りを添える。特に、サシャ・バロン・コーエンが演じた公安官はただの憎まれ役に終わらない深みを持たせてあり、子供よりも大人の心に響くその人物描写に、ふと『ヒミズ』のでんでんを思い出した。

個人的な感想だが、『ヒミズ』との偶然の相似性は主人公2人にも感じた。実の親と縁の薄い少年と少女が、血の繋がらない大人から愛情をかけられながら生きていく。その愛情は分かりやすいものもあれば、伝わりにくい場合もある。未来に何が待ち構えているかはわからないが、圧倒的な希望に包まれて大団円を迎える両作の主人公たちは、似てないようで、似ている。大人はいつだって子供の可能性に希望を託す。その希望をたずさえて子供は大人になり、また次へと繋いでいく。それを映画という夢を媒介に描き切ったスコセッシは、70歳にして新境地を切り拓いた。

『ヒューゴの不思議な発明』はTOHOシネマズ 有楽座ほかにて全国公開中。(文:冨永由紀/映画ライター)

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