[未公開映画祭]『ステロイド合衆国』が迫る、勝つためには何でもありな人々

『ステロイド合衆国〜スポーツ大国の副作用〜』より
(C) 2008 MAGNOLIA PICTURES ALL RIGHTS RESERVED.
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『ステロイド合衆国〜スポーツ大国の副作用〜』より
遺伝子操作で超筋肉質にされた牛
『ステロイド合衆国〜スポーツ大国の副作用〜』より

ステロイドで過剰なほどムキムキに発達させた筋肉を誇らしげに見せつける人々、遺伝子操作で生まれたマッチョな牛などインパクトありすぎの映像が次々と映し出されるドキュメンタリー『ステロイド合衆国〜スポーツ大国の副作用〜』。ムビコレで紹介した未公開映画祭の予告編のなかで、最も話題を集めたのがこの作品だ。ここでは、この注目作を紹介しよう。

[動画]『ステロイド合衆国』予告編
『松嶋×町山 未公開映画祭』特集

夢をあきらめないこと、勝つために努力することは悪いことではない。いや、普通ならむしろ奨励されるべきことだろう。だがそれが極度に加速したら、行き着く先は? 『ステロイド合衆国』はアメリカンドリームの影の部分にスポットを当てたドキュメンタリーだ。

マーク・マグワイアやバリー・ボンズらメジャーリーガーのドーピング使用は褒められることではないと思うが、本作を見る限り、アメリカではかなり肯定的にとらえる人がいることに驚かされる。彼らは、ボンズたちはただステロイドを打っているだけではなく、人並みはずれた努力もしているのだと言う。確かに、そうでなければあれだけの成績を残せないだろう。

本作に登場するステロイド肯定派の意見を聞いていると、最初は違和感どころか反発心さえ覚える。だが、次第にこう思えてくるのだ。「でも、勝つためには仕方がないんじゃないか。他の人も使っているんだから」と。

監督のクリス・ベルは反ステロイド派。だが兄と弟はステロイドにどっぷりだ。そんなベル監督自身の家族のエピソードを軸に、ありえない理想を科学の力で追い求めるアメリカの負の側面が掘り下げられていく。

作品中には思わず顔をしかめたくなるほどに筋肉が発達した人々が大勢出てくる。けれど彼らはその筋肉を素晴らしいと思い、誇示するのだ。感覚が麻痺してしまっているのだろうか?

アメリカも、昔から過度な筋肉信仰があったわけではない。アメリカ人の筋肉信仰を研究している精神科医のポープ教授はGIジョーの人形で説明してくれる。60年代のGIジョーの体格は、ガッチリはしているがごく普通。だが、70年代から腹筋がついてきて、最も最近のものは腹筋が6つに割れ、腕も太くなっているのだ。

問題はステロイドだけではない。AV俳優は液体バイアグラをペニスに注射し、高校生は成績を上げるためにコカイン並みに強力な薬物・アデロールを使用。さらに空軍のパイロットたちはアンフェタミンの一種を用いて戦闘へ。監督は「薬物を許す空軍は他国にはない」と語る。

薬の力に頼り、さらなる向上を求める人々。薬物自体に否定的な人も、その成果には極上の笑顔を浮かべて喜び、その姿を見ていると、何が良くて何が悪いことなのかさえ分からなくなってくる。

もっと上を望む人々を責めることはできない。けれど、薬物を使ってまで上の世界を求めることは肯定されるべきことなのか。これはなにもアメリカだけの話ではなく、早晩、日本にも突きつけられる問題だろう。行き過ぎたアメリカンドリームを良しとするかイヤだと思うか。あなたの倫理観が問われている。

『ステロイド合衆国〜スポーツ大国の副作用〜』は『松嶋×町山 未公開映画祭』(http://www.mikoukai.net/index.html)で配信中。

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