孤独な少年が唯一無二の存在になっていく姿がドラマティック!

#ロケットマン#週末シネマ#エルトン・ジョン

『ロケットマン』
(C)2018 Paramount Pictures. All rights reserved.
『ロケットマン』
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黒歴史も包み隠さず描写
【週末シネマ】『ロケットマン』

アニメ版『ライオン・キング』の主題歌「愛を感じて」でオスカーを受賞、現在大ヒット公開中の超実写版『ライオンキング』にも新曲を提供し、72歳になって今も活躍中のシンガーソングライター、エルトン・ジョン。その波乱に満ちた半生を描いた『ロケットマン』は、「愛を感じて」やダイアナ元妃を追悼する「キャンドル・イン・ザ・ウィンド1997」などを発表した90年代より前、ピアノに目覚めた少年時代からポップスターとしての成功と薬物中毒と孤独に苦しみ、更生を目指す80年代までを描いている。

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親からの愛や理解がなく、容姿などにコンプレックスを抱えながらも音楽の才能と仲間との出会いに恵まれて成功に導かれ、そして裏切りや依存症の落とし穴に……という物語は判で押したようなミュージシャン伝記映画の“あるある”だが、似通っていても各々が味わった苦悩はひとつひとつ違う。

『ボヘミアン・ラプソディ』の一部演出を手がけたデクスター・フレッチャー監督は、映画の冒頭から意表を突く演出で、郊外の街で生まれ育った孤独な少年レジナルド・ドワイトが唯一無二のエルトン・ジョンになっていく歩みを紡ぎ出す。

ポップスターであるということ、つまり大衆の目にふれて幅広い層に愛される存在であることの重さ、それをも跳ね返す音楽を奏でる喜び。昂ぶった分だけ激しく落ち込む精神。アップ&ダウンを繰り返すジェットコースターの様な日々が、名曲の数々に彩られながら、ミュージカル形式でカラフルに描かれていく。エルトンといえば、奇抜なステージ衣装の数々も有名だが、それも再現。音楽で盛り上がれば盛り上がるほど、道化者の抱える悲哀が同時に迫ってくるというドラマティックな展開だ。

エルトン・ジョンを演じるのは『キングスマン』シリーズのタロン・エガートン。若手イケメン俳優にカテゴライズされる彼は演技派としても評価が高い。普段はパッとしないのにピアノを弾いて歌い始めると輝き出す青年の、陰と陽が渾然一体となった有り様を渾身の演技で見せる。歌も自身で担当しており、音楽が心の底から湧き上がってくる描写に説得力がある。メロディーはいくらでも生み出せるが、作詞が苦手だった彼に美しい詞を提供するのはバーニー・トーピンだ。レコード会社の公募に応募した者同士として知り合い、最強のコンビとなったバーニーを演じるのは『リトル・ダンサー』『リヴァプール、最後の恋』のジェイミー・ベル。公私ともにエルトンを苦しめる存在となるマネージャーを「ゲーム・オブ・スローンズ」シリーズのリチャード・マッデン、息子に無関心だった母親をブライス・ダラス・ハワードが演じている。

エルトン・ジョンというパフォーマーの威力、魅力を映画でしかできない方法で形にしてみせる演出に圧倒される。子役から実力派の中堅俳優となり、ミュージカル映画『サンシャイン/歌声が響く街』(13)やヒュー・ジャックマンとタロン・エガートンが出演する『イーグル・ジャンプ』(16・未)など映画監督としての活躍が目覚ましいデクスター・フレッチャーが本領を発揮した大作だ。

血縁者との確執、当時タブー視されていた同性愛に生きることや深刻な依存症で人でなしになっていた過去も包み隠そうとはしない。そして、これまで彼が生み出してきた曲の数々は、自身を映し出す鏡の役割を果たす。その言葉は、本人ではなく彼を間近で見続けたバーニー・トーピンのものだからこそ、よりリアルに響くのかもしれない。ありきたりな内容、などと思っていたあの歌がこんなに素敵に聞こえるなんて。今まで聞き流していた一語一語がしみる。(文:冨永由紀/映画ライター)

『ロケットマン』は8月23日より公開。

冨永由紀(とみなが・ゆき)
幼少期を東京とパリで過ごし、日本の大学卒業後はパリに留学。毎日映画を見て過ごす。帰国後、映画雑誌編集部を経てフリーに。雑誌「婦人画報」「FLIX」、Web媒体などでレビュー、インタビューを執筆。好きな映画や俳優がしょっちゅう変わる浮気性。

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