不朽の名作をマイノリティ視点で見たら? 差別の本質をえぐる鋭すぎるエンタメ問題作

#スパイク・リー#週末シネマ

『ブラック・クランズマン』
(C)2018 FOCUS FEATURES LLC, ALL RIGHTS RESERVED.
『ブラック・クランズマン』
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【週末シネマ】『ブラック・クランズマン』
苛烈な現実を知り抜いたスパイク・リー最新作

先月、第91回アカデミー賞で脚色賞を受賞した『ブラック・クランズマン』は、80年代のデビュー時から人種差別と向き合い続けてきたスパイク・リー監督の最新作。1970年代のアメリカ西部コロラド州を舞台に、若き黒人刑事が白人至上主義団体「クー・クラックス・クラン(KKK)」に潜入捜査を試みる犯罪映画だ。

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原作となったノンフィクションの作者で、本作の主役であるロン・ストールワースは1972年、コロラドスプリングスで黒人として初めて刑事に採用された。署内では露骨な嫌がらせや冷遇も受けながら、情報部に配属された彼は新聞紙上でKKKのメンバー募集広告を見つけ、自ら電話をかけて黒人差別発言をまくしたて、入会面接まで進む。“白人”のロンとして、面接を受ける役はユダヤ系の刑事フリップ・ジマーマンが担うことになった。

黒人刑事が電話で白人になりすましてKKKに入会、ユダヤ系の同僚を身替りに仕立てて二人三脚の潜入捜査をする。あり得ないような設定だが、1970年代に起きた実話が元になっている。姿はもちろん、声も全然似ていない2人なのに、相手がそうと思い込んでしまえば二人一役も造作なく通ってしまう。今まさに電話を使った詐欺がこれでもかと横行している日本の現状を思えば、むしろ“あるある”と捉えるべき設定なのかもしれない。

KKK側もロンの素性をすぐに信用せず様子を見るが、電話での雄弁さ、実際に会った彼が持つリーダーとしての資質に惚れ込んで幹部候補として考慮するようになる。やがてロンは電話でKKKの最高幹部デヴィッド・デュークに気に入られるほどになるが、団体内部へ深入りすればするほど、ロンとフリップの綱渡りは危険なものになっていく。その過程をサスペンスフルに、時にコミカルな描写もまじえながら追っていく。

ロンを演じているのはジョン・デヴィッド・ワシントン。デンゼル・ワシントンの息子だ。父が伝説の黒人公民権運動家を演じたリー監督の『マルコムX』に端役で出演したのが映画デビュー。その後アメリカンフットボールのプロ選手になったが、引退後に俳優の道に進んだ。特別なカリスマ性を放つ父とは違う、どこにでもいる普通っぽさが今回の役に活きている。逆にフリップを演じるアダム・ドライヴァーは、抜けているようで只者ではない存在感を放つ。KKK最高幹部デューク役のトファー・グレイス、狂信的なKKKメンバーの夫婦を演じたヤスペル・ペーコネン、アシュリー・アトキンソンも巧い。

原作ではロンの相棒について、身の安全のために名前も含めて詳細は明らかにされていない。ロンの恋人で、地元大学の黒人学生自治会会長の女性キャラクターも、映画にだけ登場する架空の人物だ。捜査が実際に行われたのは1979年だが、ロンが警察官になって間もない1972年に設定を変えることで、70年代前半アメリカにおける社会や政治状況を映画に取り入れ、リーとチャーリー・ワクテル、デヴィッド・ラビノウィッツ、ケヴィン・ウィルモットはオスカー脚色賞に輝いた。

プロデューサーの1人である『ゲット・アウト』のジョーダン・ピール監督から映画化企画のアプローチがあった際、リーが出した条件は2つ。コメディ要素を入れることと、人種差別問題の現在についてもふれることだった。今年のアカデミー作品賞に輝いた『グリーンブック』のピーター・ファレリー監督は「私たちは同じ人間同士だ」と語り、話し合って互いを理解する大切さを説いた。だが、それには相手が自分の言葉に耳を傾けるという前提が必要だ。黒人、特に男性の場合、話せばわかるという態度で臨んでも「問答無用」と先制攻撃を仕掛けられる可能性の方が高い。その現実を身をもって知るスパイク・リーが史実とフィクションを混合させ、『國民の創生』『風と共に去りぬ』といった映画史に欠かせない大作の映像を散りばめ、現代の様相も盛り込んだ本作は、誰の胸にも刺さる鋭さを持ったエンターテインメントだ。(文:冨永由紀/映画ライター)

『ブラック・クランズマン』は3月22日より全国公開される。

冨永由紀(とみなが・ゆき)
幼少期を東京とパリで過ごし、日本の大学卒業後はパリに留学。毎日映画を見て過ごす。帰国後、映画雑誌編集部を経てフリーに。雑誌「婦人画報」「FLIX」、Web媒体などでレビュー、インタビューを執筆。好きな映画や俳優がしょっちゅう変わる浮気性。

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