『ローマ』、アカデミー賞最多10部門候補で映画業界に激震!

#アカデミー賞#興行トレンド

Netflixオリジナル映画『ROMA/ローマ』
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【興行トレンド】『ROMA/ローマ』
映画館でこそ見たい、音響効果も抜群!

最多10部門候補の『ROMA/ローマ』は動画配信大手ネットフリックスの製作映画で初めて作品賞候補になった。だが、配信系作品が作品賞候補になるのは初めてではない。アマゾンが製作した『マンチェスター・バイ・ザ・シー』が17年に作品賞候補になっている。

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実はアマゾンは映画業界で受けがいい。同社は映画をまず劇場で公開し、一定期間をあけてから配信するからだ。17年のアカデミー賞授賞式では、司会者がオープニングトークで「アマゾンの作品が候補になりました。ジェフ・ベゾス社長、おめでとうございます」とわざわざコメント。その後、会場にいた社長がテレビに映し出された。アカデミー会員がアマゾンを歓迎していると読み解ける一コマだ。

一方、ネットフリックスは映画業界、特に映画館から反発されている。同社が作る映画は劇場公開と同時時期、もしくは公開を経ずに全世界で配信されるからだ。

映画館の反発はあるものの、ネットフリックスはハリウッドで存在感を増している。メジャースタジオはアメコミヒーロー映画や単純明快なアクション映画、家族向けファンタジー映画などに巨額の資金を投入するが、大人向けの社会派映画や、作家性の強い人間ドラマは避ける傾向にある。

一方、メジャーが避ける企画はインディペンデント系映画会社が担い手となっているが、資金力に乏しく製作本数には限りがある。そこで資金力があり、作り手に自由を与えて製作するネットフリックスをクリエイターが頼りにしている。18年、ネットフリックスが映画やテレビドラマなどのコンテンツに投資した金額は80億ドルにのぼる。

 『ハリー・ポッターとアズカバンの囚人』『ゼロ・グラビティ』といったメジャー大作を監督し、『ゼロ・グラビティ』でアカデミー賞監督賞を受賞したキュアロン監督といえども、『ローマ』のような地味な自伝的内容は、興行が大事な映画会社では製作しづらいのが現状だ。近年のアカデミー賞作品賞はインディペンデント系映画会社の作品が続いており、アカデミー会員はチャレンジングな企画を製作する会社を応援する傾向が強い(メジャースタジオの姿勢を批判するメッセージも込められている)。製作したネットフリックスの姿勢をアカデミー会員が応援し、作品賞受賞につながる可能性は十分ある。アカデミー賞はハリウッドが世界にメッセージを発信する場でもあり、作品賞を受賞すればインパクトも大きい。

 なお、ドルビーアトモスの音響効果を効かせて作られた本作は、映画館でこそ素晴らしさを堪能できる。アカデミー賞を制した暁には、日本で凱旋上映する配給会社や映画館が現れてほしいものだ。(文:相良智弘/フリーライター)

相良智弘(さがら・ともひろ)
日経BP社、カルチュア・コンビニエンス・クラブを経て、1997年の創刊時より「日経エンタテインメント!」の映画担当に。2010年からフリー。

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