音楽映画の当たり年、2018年の最後を締め括る真っ向勝負の1本

#アリー/スター誕生#週末シネマ#ブラッドリー・クーパー#レディー・ガガ

『アリー/スター誕生』
(C)2018 WARNER BROS. ENTERTAINMENT INC. AND RATPAC-DUNE ENTERTAINMENT
LLC
『アリー/スター誕生』
(C)2018 WARNER BROS. ENTERTAINMENT INC. AND RATPAC-DUNE ENTERTAINMENT
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【週末シネマ】『アリー/スター誕生』

レディー・ガガの初主演映画『アリー/スター誕生』は、これまで3度映画化された1937年の『スタア誕生』の4度目のリメイクで、『アメリカン・スナイパー』などで知られる俳優ブラッドリー・クーパーの長編映画監督デビュー作でもある。

ブラッドリー・クーパー『アリー/スター誕生』をひっさげ5年ぶりに来日!

スターを目指す駆け出しの若い女性が大スターと出会い、才能を認められて成功の道に進む一方、彼女を見出したスターは落ち目になり、破滅の一途をたどるという物語は4作とも共通だが、1937年版と1954年版はハリウッドの映画界が舞台なのに対して、『アリー〜』は1976年にバーブラ・ストライサンドが主演した『スター誕生』をベースにした音楽業界の物語になっている。

元々はクリント・イーストウッド監督、ビヨンセ主演で始まった企画だが、ビヨンセが妊娠・出産で降板、男性主人公役に起用されたクーパーがイーストウッドの後を継いで、本作で監督デビューすることになった。そういえば、3年前のコーチェラ・フェスティバル(野外音楽フェスティバル)にイーストウッドが現れて話題になったが、その時一緒にいたのがクーパーであり、今思えば本作のリサーチのためだったのだろう。

若い新星の成長と盛者必衰の理に、両者の悲恋を絡める極めてオーソドックスな展開は、逆に作り手の技量を問うものになる。その難題に、監督も主演女優もこれが第1作という2人は奇を衒わず、真正面から挑んだ。

奇抜な衣装とメイクの印象が強いガガはほとんど素顔のままで、才能と容姿に自信を持てずに歌手の夢を諦めかけているアリーのひたむきさを演じてみせる。バーで歌っていたアリーを偶然見かけた有名ミュージシャンのジャクソンはその才能に惚れ込み、自らのステージに彼女を上げて歌わせる。大観衆を前に歌いきった彼女はたちまち彼らの心をつかみ、アリーは一気にスターダムを駆け上がる。この設定に説得力を持たせるのはガガ本来の才能はもちろん、ただ音楽を愛し、表現するために戦うアリーに自らを重ねたようにも思える、彼女の素直な演技だ。

そして驚くのが、ジャクソンを演じるクーパーの歌の巧さだ。ガガの歌唱力については周知の事実で、ジャクソンがアリーを発見するーシーンでも観客の胸の内にあるのは驚きではなく期待だ。その点、未知数だったクーパーの歌の見事な仕上がりには、アカデミー賞4度のノミネート経験をもつ名優の矜持を感じた。

ガガとクーパーは撮影と同時進行でサウンドトラックの楽曲を書いたそうだが、確かに音楽はいわゆる劇伴とは異なる存在感をもつ、この映画の第三の主役になっている。ジャクソンとマネージャーであるボビー(サム・エリオット)の複雑な関係、愛娘を溺愛する気のいいアリーの父親(アンドリュー・ダイス・クレイ)の存在もさりげなく、だが丁寧に描かれ、スターとしての孤独を生きることになるアリーとジャクソンの背景がそこから見えてくる。アリーというスターの誕生もだが、消えゆくジャクソンの余韻が大きい。

2018年は『グレイテスト・ショーマン』に始まり、現在も大ヒット中の『ボヘミアン・ラプソディ』が興収53億(12月16日現在)を突破するなど、音楽映画の当たり年だったが、その締めくくりにふさわしい1作だ。(文:冨永由紀/映画ライター)

『アリー/スター誕生』は12月21日より公開中。

冨永由紀(とみなが・ゆき)
幼少期を東京とパリで過ごし、日本の大学卒業後はパリに留学。毎日映画を見て過ごす。帰国後、映画雑誌編集部を経てフリーに。雑誌「婦人画報」「FLIX」、Web媒体などでレビュー、インタビューを執筆。好きな映画や俳優がしょっちゅう変わる浮気性。

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