何のしがらみもなく映画作りに熱中する子ども達の輝きにノックアウトされる!

#ジャン・ピエール・レオー#週末シネマ

『ライオンは今夜死ぬ』
(C)2017−FILM-IN-EVOLUTION−LES PRODUCTIONS BAL THAZAR−BITTERS END
『ライオンは今夜死ぬ』
(C)2017−FILM-IN-EVOLUTION−LES PRODUCTIONS BAL THAZAR−BITTERS END

【週末シネマ】『ライオンは今夜死ぬ』
ヌーヴェル・ヴァーグの申し子の珠玉作

フランス映画、それもヌーヴェル・ヴァーグの作品が好きならば、ジャン・ピエール・レオーという俳優は特別な存在だ。13歳で主演したフランソワ・トリュフォー監督の『大人は判ってくれない』(59)で一躍有名になり、ゴダールをはじめとするヌーヴェル・ヴァーグの監督たちの作品に次々に出演、歳を重ねてからはアキ・カウリスマキやツァイ・ミンリャンなどの作品で活躍している。そのレオーが『ユキとニナ』『不完全なふたり』の諏訪敦彦監督と撮った『ライオンは今夜死ぬ』は、映画の父と呼ばれるリュミエール兄弟が1896年に発表した列車の到着映像の撮影地、南仏のラ・シオタが舞台だ。

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レオーが演じるのは老優のジャン。コート・ダジュールで新作映画を撮影中、死をどう演じるかという課題に直面する彼は、共演者の不調で撮影中断になった現場から、かつての恋人・ジュリエットが暮らしていた町を訪れる。廃屋同然となった古い屋敷で、彼は若くしてこの世を去ったジュリエットと“再会”。人知れず逗留を始めたジャンは、簡素な機材を手に侵入してきた子どもたちに出くわす。彼らは夏休みに映画作りを計画し、屋敷を撮影場所に選んだのだ。

両者のファースト・コンタクトからして秀逸だ。普通ではない大人と遭遇した普通の子どもたちのリアクション、好奇心からあっという間に築かれる友情。俳優だと自己紹介するジャンに半信半疑の目を向けながら、子どもたちは映画への出演を依頼し、ジャンも交えて脚本執筆の段階から映画作りが始まる。

映画作りの映画といえば、『アメリカの夜』がある。アカデミー賞外国語映画賞を受賞したトリュフォー監督の1973年の作品で、レオーはここでも俳優役を演じていた。大人の事情だらけで大変、それでも一度やったらやめられないのだろうな、と思わせるのが『アメリカの夜』だとしたら、何のしがらみもなく、「誰かに見せる」よりも「作る」ことに熱中し、純粋に楽しむ子どもたちのキラキラした姿にノックアウトさせられるのが本作だ。

小学校低学年から中学生くらいまでの男女で構成されるグループは、クランクイン前に行われたワークショップから選ばれた。用意された設定はあるものの、その中で自由にのびのびと振舞っている。孫ほど歳の離れた彼らに囲まれたレオーもまた、自由だ。子どもは案外、子ども扱いされるのを期待しているところもあるが、“映画作りの仲間たち”を絶対に子ども扱いせず、予定調和を裏切るジャンの行動が彼らを触発する。 “かつて”と“これから”、あるいは“出会い”。分別のつく年頃、無分別になる年頃。語られる言葉の1つ1つも心に響く。ジャンと心を通わせる少年ジュールの存在も印象的。

終盤、近郊の湖でのロケ撮影に赴く場面が素晴らしい。夏の陽光を浴びたレオーの表情が美しい。ジャンであり、ジャン・ピエールでもある。こんなにも魂をむき出しにしてみせる俳優は、そうはいない。

タイトルは、60年代にトーケンズが歌ったヒット曲「ライオンは寝ている」のフランス語版から取っている。レオーという名前は、「レオ(Leo)」と似ていてライオンを想起させるが、Léaudという綴りで、「誠実で本当の」の意である「leal」が語源だ。今まで見たことのなかったような、俳優の本当の姿を見た。そんな感慨に浸る至福の103分だ。(文:冨永由紀/映画ライター)

『ライオンは今夜死ぬ』は1月20日より公開。

冨永由紀(とみなが・ゆき)
幼少期を東京とパリで過ごし、日本の大学卒業後はパリに留学。毎日映画を見て過ごす。帰国後、映画雑誌編集部を経てフリーに。雑誌「婦人画報」「FLIX」、Web媒体などでレビュー、インタビューを執筆。好きな映画や俳優がしょっちゅう変わる浮気性。