信仰、難民、貧困…不寛容が蔓延する時代に強いメッセージ放つ

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『わたしは、ダニエル・ブレイク』
『わたしは、ダニエル・ブレイク』

…前編「強い女性描く作品が年間興収1、2位を独占」より続く

【2017年の映画を総括】後編
Netflixが映画の見方を変えていく?

ハリウッド映画を中心に紹介してきたが、今年日本で公開された他の国々の作品を通して世界に目を向けると、不寛容が蔓延し始めた時代に強いメッセージを送る作品が印象に残る。

自信過剰なエゴイストが権力を握るとどうなる!? 今のハリウッドでは描けない問題作!

主な映画賞からは無視されたが、マーティン・スコセッシ監督が遠藤周作の原作を映画化した『沈黙 サイレンス』は鎖国時代に密入国したポルトガルの宣教師の物語。西欧と日本それぞれの立場を描き、信仰と異文化というテーマに臨んだ。日本から参加したキャストの窪塚洋介、浅野忠信、イッセー尾形、作品のメインビジュアルにも登場した塚本晋也の魂の込められた名演も忘れがたい。

2月のベルリン国際映画祭で銀熊賞を受賞したアキ・カウリスマキ監督の『希望のかなた』(公開中)は、フィンランドにやって来たシリア難民の青年が主人公。昨年のカンヌ国際映画祭パルム・ドール受賞作で3月公開の『わたしは、ダニエル・ブレイク』は複雑な社会制度に翻弄されて貧困に陥る人々を描いた。社会の片隅で懸命に生きようとする人々のひたむきさ、苦しい境遇にありながら助け合う姿、そんな彼らが直面する厳しい現実も描く。社会を映し出し、考えることを促す作品が数多く登場した。

日本は外国映画の公開が他国より遅い。その点、公開の時間差という問題を解消する一手段は、世界同時配信のNetflixオリジナル映画だろう。主演と製作会社「プランB」の代表として来日会見もしたブラッド・ピット主演の『ウォー・マシーン:戦争は話術だ!』、5月の第70回カンヌ国際映画祭に出品した『Okja/オクジャ』『マイヤーウィッツ家の人々(改訂版)』、アンジェリーナ・ジョリー監督最新作『最初に父が殺された』、ウィル・スミスやジョエル・エガートン、ノオミ・パラスが来日会見した『ブライト』(12月22日配信開始)など話題作を次々リリース。メジャーな映画会社が避けがちなテーマも積極的に取り上げる姿勢は画期的だ。だが、そうした意欲的な作品を、一部の国を除いては映画館の大画面で鑑賞するのは不可能という事実もある。劇場という空間で見知らぬ大勢の観客と共に作品を見て感動を分かち合う──2017年は、そんな映画の楽しみ方、醍醐味が本格的に変わり始めた年と言えそうだ。(文:冨永由紀/映画ライター)

冨永由紀(とみなが・ゆき)
幼少期を東京とパリで過ごし、日本の大学卒業後はパリに留学。毎日映画を見て過ごす。帰国後、映画雑誌編集部を経てフリーに。雑誌「婦人画報」「FLIX」、Web媒体などでレビュー、インタビューを執筆。好きな映画や俳優がしょっちゅう変わる浮気性。

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