ど素人がヘマを繰り返す“外し”の面白さがたまらない!

#スティーヴン・ソダーバーグ

『ローガン・ラッキー』
『ローガン・ラッキー』

【週末シネマ】『ローガン・ラッキー』
スティーヴン・ソダーバーグ監督の復帰作!

2013年公開の『サイド・エフェクト』を最後に映画監督引退を表明していたスティーヴン・ソダーバーグが、4年ぶりに監督復帰を果たした『ローガン・ラッキー』。レース会場に集まる現金強奪を企てる男たちの物語は、ソダーバーグが手がけて大ヒットさせた『オーシャンズ』シリーズに通じるクライム・エンターテインメント作だが、主人公はドレスアップしたプロ集団ではなく、犯罪ど素人の兄弟。そこから想像のつく通り、主役はスタイリッシュに決めきれず、ヘマを繰り返す行程が逆にスリリングという外しの面白さがたまらない。

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ローガンとは主役の兄弟の苗字。有望なアメフトのスター選手だったのが、故障のせいで夢破れた兄のジミー(チャニング・テイタム)と、人気者の兄の陰に隠れがちだったことから軍隊に入り、イラクで左手を失くした弟・クライド(アダム・ドライヴァー)はウェストヴァージニア州の田舎町に暮らしている。ローガン家のジンクス(不運は連鎖する)に呪われ、離婚とリストラと不運が重なり、幼い愛娘との交流もままならなくなりそうな不運に見舞われたジミーが一発逆転を狙ったのが、かつての職場で全米最大級のNASCARレース会場地下にある金庫。バーを経営するクライドと運転のうまい美容師の妹(ライリー・キーオ)、あくまで地元レベルだが、伝説の爆破犯で服役中のジョー・バング(ダニエル・クレイグ)とその弟2人も仲間に加えて、レース開催日の決行を目指す。

ツキがないローガン兄弟と、兄と違っておバカなバング兄弟の行動は予測不可能で、心もとない。唯一のプロであるジョーは彼らのツメの甘さに苛立つが、観客の方も、一体この計画はどこに向かおうとしているのか全く読めず、アンラッキーなローガン兄弟がタイトル通りの結末を迎えられるのか、呆気にとられながら引き込まれる。

個性的なキャラクターを演じる顔ぶれも豪華だ。大それたことを、淡々としでかそうとするジミーには、これがソダーバーグ作品出演4本目となるチャニング・テイタム。クライドを演じるアダム・ドライヴァーは、佇まいだけでも雄弁すぎるほど存在感がある。そして、クレイジーでいて緻密な爆破犯ジョーを演じるダニエル・クレイグは、『007』シリーズの寡黙さとは正反対の怪演。その弟2人を演じるのは、共に二世俳優のブライアン・グリーソンとジャック・クエイド。グリーソンはブレンダン・グリーソンの息子で兄はドナル・グリーソン、クエイドはメグ・ライアンとデニス・クエイドの息子。ローガン兄弟の頼れる妹・メリーを演じるライリー・キーオはエルヴィス・プレスリーの孫娘。セス・マクファーレン、ケイティ・ホームズ、ヒラリー・スワンクも出演。

『オーシャンズ』シリーズはもちろん、『トラフィック』『コンテイジョン』『マジック・マイク』など、登場人物もストーリーラインも多い作品が得意なソダーバーグらしく、今回も兄弟の葛藤、父娘の愛情、美しく強い女たちの物語が交錯。痛快なクライム・エンターテインメントの背景に、大都会から離れた現代アメリカの姿もしっかり描き込んでいる。脚本のレベッカ・ブラントは、実在しないのでは? と憶測を呼んでいる謎の新人だ。ソダーバーグは、ピーター・アンドリュース名義で自作の撮影監督、マリー・アン・バード名義で編集をこなすことが多く、撮影・編集も務めた本作の脚本家も彼自身では? と言われたが、ソダーバーグ自身は否定している。(文:冨永由紀/映画ライター)

『ローガン・ラッキー』は11月18日より公開。

冨永由紀(とみなが・ゆき)
幼少期を東京とパリで過ごし、日本の大学卒業後はパリに留学。毎日映画を見て過ごす。帰国後、映画雑誌編集部を経てフリーに。雑誌「婦人画報」「FLIX」、Web媒体などでレビュー、インタビューを執筆。好きな映画や俳優がしょっちゅう変わる浮気性。