『子どもが教えてくれたこと』アンヌ=ドフィーヌ・ジュリアン監督インタビュー

今、この瞬間を精一杯生きる。重い病気を抱える子ども達に勇気をもらう!

#Anne-Dauphine Julliand

両親を思いやる病気の少年。その思いに目を見張る

無邪気な笑顔が可愛らしい子どもたち。でも、彼らは重い病気を抱えている。辛くて、痛くて、泣いてしまうこともあるけれど、毎日を全力で生きている──そんな子どもたちの日常を描いたドキュメンタリー『子どもが教えてくれたこと』が7月14日より公開される。

監督はフランスの女性ジャーナリスト、アンヌ=ドフィーヌ・ジュリアン。2人の娘を異染性白質ジストロフィー症で亡くした過去を持つ彼女が、子どもたちの生きる力をリアルにとらえた本作は、世界最大規模の子ども向け映画祭「ジッフォーニ映画祭」のGEx部門で作品賞を受賞。日本でも「子どもたちの生き方が見る者を勇気づける」と注目を集めている。製作のきっかけやこの映画を通して得たものについて、ジュリアン監督に話を聞いた。

──監督ご自身はお子さんが4人いて、悲しいことに、長女と次女を同じ病気で亡くされていますね。その体験が、本作を製作するきっかけだったのでしょうか?

『子どもが教えてくれたこと』
(c)Incognita Films-TF1 Droits Audiovisuels

ジュリアン:子どもの病気、そして死を通して、私たち家族は言葉では言い表せないような経験をしました。でも、そうした経験をしたのは私たちだけではありません。病気の子どもを持つ家族は、子どもたちの生き方に勇気づけられ、支えられている。そして、それを一つの作品として描きたいと思うようになりました。本作では、大人からの視点ではなく、あくまで子どもたちの視点に立つことにこだわりました。子どもたちは1人ひとり性格も違えば、育っている環境も、病状も違う。個性豊かな5人の日常を追いたい、と考えたのです。

──映画に登場した子どもたちからは、どんなメッセージを受け取りましたか?

ジュリアン:1度訪れた試練は、そう簡単に彼らの前から消えたりはしないけれど、大切なのは「いま、この瞬間を生きる」ということ。イギリスの詩人、ウィリアム・アーネスト・ヘンリーの有名な言葉に「私が我が運命の支配者、私が我が魂の指揮官なのだ」という言葉がありますが、子どもたちはまさにそれを体現しています。彼らは自分の手で人生を切り開き、とことん生きようとしている。
 それから、子どもたちの他人を思いやる気持ちには、目を見張るものがあります。本作に登場する少年・イマドが、いつも自分を病院に連れて行ってくれる両親が疲れていないか心配するシーンがまさにそうです。彼らには子どもらしい面もあるし、もちろん未熟な部分もあるけれど、誰一人として未来を恐れていない。大人は訪れる試練に対して、動揺し、平常心ではいられなくなるものですが、子どもはあくまで自然体で生きようとしているのです。

──映画において編集という作業はとても重要ですが、特にこの作品の場合、さじ加減が難しかったのでは?

『子どもが教えてくれたこと』
(c)Incognita Films-TF1 Droits Audiovisuels

ジュリアン:本当にその通りです。編集というプロセスは、とても繊細な作業です。とくに難しかったのは、「子どもたちを撮る」という一つのテーマを設けながらも、5つの異なる場所で5人の子どもたちの姿を映し出している、という点です。子どもたちがお互いをよく知っていて、呼応し合っているかのような統一感をもたらす必要がありました(実際には、彼らが顔を合わせたのは撮影後のこと)。もし、一つの場所で一つの病気について扱っていれば、もう少し簡単だったかもしれません。ちょっとした失敗が致命傷になってしまうのではないか、という不安は常にありましたね。

──ラストシーンとエンディングの形には悩みませんでしたか?

ジュリアン:ラストを考えるのは本当に大変な作業でした。この映画の最も難しい点は、逆説的ですが、そのシンプルさなのです。仰々しいエンディングだけは避けたい、と思っていました。子どもたち自身が誘導してくれたような、シンプルなエンディングでなければいけない、と。この物語は何より、彼らの人生そのものだからです。できるだけシンプルに、心が満たされたイメージで終われるようなエンディングを目指しました。

──最後に、映画を見る人へ向けてメッセージをお願いします。

ジュリアン:この作品を通して、子どもたちは“いまこの瞬間”を生きることの大切さを改めて教えてくれました。過去を振り返るのではなく、未来を予測するわけでもなく、ただ目の前にある、ありのままの日常、そしてその瞬間を。これは、私自身が体験を通して学んだことでもあります。
 人生を一変させる試練というものは、自ら選んだものではないけれど、そうした試練をどのように生きるのかは自ら選ぶことができる。なぜなら、人生をどのように導くか決めることができるのは自分でしかないのだから。これもまた、彼らが気づかせてくれたことです。
 そして私自身、かつては彼らと同じように、シンプルながらも人生に対して明確なビジョンを持つ子どもであったことを改めて思い出させてくれました。彼らのお陰で、人生を恐れず、どんな状況であろうと、今ある人生を愛せるようになった気がしています。

Anne-Dauphine Julliand
Anne-Dauphine Julliand
アンヌ=ドフィーヌ・ジュリアン

1973年、フランス・パリ生まれ。大学でジャーナリズムを学び、新聞や専門誌などに幅広く執筆。長女タイスを異染性白質ジストロフィーで亡くし、次女アズィリスも同じ病を発症。11年、タイスとの日々を綴った『濡れた砂の上の小さな足跡』(講談社刊)を出版し、35万部を超えるベストセラーに。13年、家族のその後を描いた『Une journee particuliere(「ある特別な1日」未邦訳)』を出版。17年、『子どもが教えてくれたこと』が公開とともにフランス国内で高い評価を受ける。同年、次女アズィリスが短い生涯を終えた。現在は苦痛緩和ケア財団の科学委員会のメンバーを務め、夫と2人の息子と共にパリで暮らしながら、フランス各地で講演活動を行っている。