『プラネタリウム』レベッカ・ズロトヴスキ監督インタビュー

演技経験ゼロなのに、一目見てリリー=ローズ・デップの存在感に魅了!

#レベッカ・ズロトヴスキ

ナタリー・ポートマンとリリー=ローズが本当にそっくりなことに驚いた

1930年代パリで、スピリチュアリストのアメリカ人姉妹とフランス人映画プロデューサーの出会いが生む美しくもミステリアスな物語『プラネタリウム』。ナタリー・ポートマンが野心家の姉ローラ、リリー=ローズ・デップが霊感の強い妹ケイトを演じている。姉妹に惚れ込み、彼女たちの映画を撮ろうとするプロデューサー、コルベンが絡むストーリーは、降霊術と映画をモチーフに、第二次世界大戦直前の不穏な社会の空気をも表現し、時代に翻弄される人々を描く。

謎めいた展開で独創的な世界を創造したレベッカ・ズロトヴスキ監督に話を聞いた。

──主人公の姉妹と映画プロデューサーのコルベンにはそれぞれ、19世紀アメリカに実在したフォックス姉妹と、第二次世界大戦前のフランスに実在したベルナール・ナタンというモデルがいますが、異なる時代にいた彼らを同じ場所に存在させた発想がユニークです。

レベッカ・ズロトヴスキ監督

監督:まずはフォックス姉妹の存在があったの。彼女たちのことを知って、映画を撮りたいと思った。霊能力のある妹2人と全てを仕切る姉の三姉妹で、彼女たちはニューヨークの銀行家に雇われていたの。その男性は妻のアドバイスなしには仕事ができない人で、妻が亡くなってしまったので、フォックス姉妹の力を借りようとした。姉妹は彼の家に住んで、降霊術を行っていたと知って、ヒッチコックの映画みたいだと思った。そこから、姉は霊なんて実は信じていない詐欺師だけど、妹には本物の能力があるという設定や、雇い主の家で一緒に生活して、という発想が出てきて、フィクションとして撮ってみたいと思ったの。ただ、男性を銀行家にしたくなかった。それで舞台をフランスにして職業も映画プロデューサーにした。すると、ベルナール・ナタンの実像と重なったのよ。
 ちょうど同じ頃、ナタリーがパリに暮らすことになると聞いて、彼女にパリのアメリカ人を演じてもらいたいと思った。1930年代のパリはまさにコスモポリタンの街で、それも描きたかった。ボブ・フォッシーの「キャバレー」に登場するベルリンに近い雰囲気もあった。いろいろな国籍の人々が多様な言語を話し、芸術家やエンタテイナー、学者がいて、様々な文化や宗教も入り混じっている世界ね。

──ナタリー・ポートマンとは長年の友人だそうですね。

監督:ナタリーとは共通の友人がいたし、彼女の夫(振付師のバンジャマン・ミルピエ)とも以前から知り合いだった。彼女はとても聡明な女性よ。そして海外の監督と仕事をしたがっていた。ハリウッドでは一定の年齢を過ぎると、いい役が少なくなるから。彼女は私のようなインディペンデント系の無名監督たちのこともチェックしていたのよ。彼女の好奇心と映画を愛する心が本作の実現に大きな役割を果たしたわ。彼女と仕事をしたいという私自身の願いも大きなモチベーションになった。

『プラネタリウム』 (C)Les Films Velvet - Les Films du Fleuve - France 3 Cinema - Kinology - Proximus - RTBF

──妹のケイトを演じたリリー=ローズ・デップも素晴らしい演技です。

監督:12歳から16歳くらいの少女役なので、新人を探すことになるだろうと考えていたの。ナタリーの存在感はすごいので、それに負けない子を見つけるのは大変だろうとも思った。そんな時にナタリーがリリー=ローズ・デップを推薦してくれたのよ。2人が身体的に本当にそっくりなことにまず驚いたわ。ナタリーがリリー=ローズを指名したという事実にも心を打たれた。それは姉妹のような親和性、親密さを覚えたことを意味するから。初めてリリー=ローズに会った時、彼女はまだ演技の経験はなかったけれど、もうすでに女優の貫禄があって、一目見た瞬間に魅了されたわ。ナタリーと並んでも遜色ない強さがあった。

──互いの存在を頼っている姉妹ですが、性格は大きく異なります。ローラは映画女優に転身するほどの美女ですが、すごく豪快な笑い声が印象的でした。

監督:あの笑いは、彼女の女性性で最も重要な部分を表現しているの。外見の可愛らしさだけではない、ストレートで率直な強さ、強いエネルギーを秘めていることが伝わるんじゃないかしら。

──スピリチュアルで繊細なケイトは眉の一部が欠けていますね。

監督:ケイトという少女が何か特別な存在であることを見せたかったの。彼女の顔を見ると、何か普通と違う気がするけれど、それが何なのかわからない。それを欠けた眉という形で表現してみたの。映画の中にはたくさんのフェティシズムがあるのよ。ケイトがつけている矢の形の髪飾りはフリッツ・ラングの映画への目配せだし。

──姉妹の降霊術ショーの司会をするユンケルは、『ブリキの太鼓』(79)に主演したダーフィト・べネントですね。

監督:気がついてくれた? 彼は素晴らしかった。私ももちろん『ブリキの太鼓』に圧倒されたし、彼のお父さんのハインツ・ベネントもトリュフォー監督の『終電車』(80)で素晴らしかった。あれもナチス占領下のパリの物語よね。実はダーフィトにコルベンを演じてもらおうと考えたこともあったの。彼は肉体も声も、ものすごく個性的。ミステリアスで何カ国語も話す。つまり、さっき話したコスモポリタンを体現する人でもあるから。

史実は強調せず、それ以上は観客の洞察力に委ねた
レベッカ・ズロトヴスキ監督

──ユンケルが「今のベルリンには戻りたくない」というセリフも印象深いです。

監督:ロバン(・カンピヨ。脚本を共同執筆)と心がけたのは、史実を強調しすぎないこと。ヨーロッパ各地からパリに来た人々、様々な職業の人が集うパーティの場面でムッソリーニの名前が出てきたり、「何かが起こり始めている」と匂わせるけれど、それ以上は観客の洞察力に委ねた。何か劇的なことが起きている時、その渦中にいると気付かないものでしょう。後になってから、それが何だったのかわかるのよ。

──『プラネタリウム』というタイトルに込めた意味は?

監督:プルーストの言葉なんだけど、「メッセージ付きの芸術作品は、値札を撮り忘れた贈り物のようなもの」よ(笑)。ただ、このタイトルには、映画というものに対する姿勢を反映させたいと思った。プラネタリウムという言葉からはいろいろなものを想起できる。名前が付いているというだけでよく知られている星座もあれば、名前がないせいで、目に入らない星もあるでしょう。見えないものをどう捉えるかということや、映画の世界の人工的な側面、空を見ることで未来を占うという考え方。プラネタリウムは私が映画を通して経験したいものを表す言葉なのよ。

(text:冨永由紀)

レベッカ・ズロトヴスキ
レベッカ・ズロトヴスキ
Rebecca Zlotwski

1980年生まれ。フランス・パリ出身。高等師範学校サン・クルー校を経てフランス国立映像音響芸術学院(La Femis)で脚本を学び、2010年に脚本も手がけた『美しい棘』で長編映画監督デビュー。第63回カンヌ国際映画祭監督週間部門でも上映された同作で、ルイ・デリュック賞新人作品賞を受賞。2作目の『グランド・セントラル』は第66回カンヌ国際映画祭ある視点部門に出品され、フランソワ・シャレ賞受賞。主演のレア・セドゥーがリュミエール賞特別賞に輝いた。2017年9月開催の第74回ヴェネチア映画祭オリゾンティ部門の審査員を務めた。