『ハクソー・リッジ』アンドリュー・ガーフィールド インタビュー

大ヒット! 壮絶描写の戦争映画について語った

#アンドリュー・ガーフィールド

メル・ギブソン監督のすばらしさは言葉では語り尽くせない

長らくハリウッド追放の憂き目に遭っていたメル・ギブソンが監督した話題作『ハクソー・リッジ』。第二次世界大戦下の激戦地・沖縄を舞台に、陸軍に志願しながらも武器を持つことを拒み続けた男の姿を描き、アカデミー賞編集賞、録音賞を受賞した作品が公開中だ。

すさまじい戦場描写も話題となり、封切り2日間の観客動員が8万人超、興行収入も1億円超を記録し、初登場4位の大ヒットとなった本作について、主演アンドリュー・ガーフィールドが語った。

──信仰上の理由で武器を持たず衛生兵として生き抜き、終戦後、良心的兵役拒否者としては、アメリカ史上初めての名誉勲章を授与された男の物語ですね。

『ハクソー・リッジ』
(C)Cosmos Filmed Entertainment Pty Ltd 2016

ガーフィールド::1940年代半ばのある青年の物語だ。彼は、宗教的な理由と彼自身の信念のために暴力を……厳密に言うと命を奪うことを拒否している。映画の冒頭で、彼の抱えるジレンマが描かれる。彼は国に仕えたいという思いから軍に入ることを考えている。しかし 彼にはどうしても譲れない尊厳と価値観がある。これは主人公デズモンド・ドスの真実の物語だ。ドスは人々に感動を与える人物で“優しい戦士”とも言えるんじゃないかな。

──武器を持たないことについて上官や仲間の兵士から攻撃されても、絶対に武器を手にしなかったデズモンド・ドスを、どんな人物ととらえていますか?

ガーフィールド:ドスは並外れて純粋な心の持ち主で、山の空気のように澄んでいる。若い頃から自分を持っていた。今の世に彼のような人は滅多にいない。自分自身のことをとてもよく分かっていて、自分の内なる声を聞き逃さないし、どんな状況に置かれても決して自分を曲げない。とことん信念を貫き通す。僕はそんな人にほとんど会ったことがないよ。

『ハクソー・リッジ』撮影中のメル・ギブソン監督 (C)Cosmos Filmed Entertainment Pty Ltd 2016

──もう少し、ドスについての見解を聞かせてください。

ガーフィールド:ドスは自分を“良心的兵役協力者”と評し、敵の命を奪うということ以外は他の兵と同じことをした。彼は敵も手当てしたんだ。交戦中に敵の衛生兵に手当てされたら戸惑うだろうけどね。そこが彼に惹かれた最大の要因だと思う。彼は超越した存在で、宗教的背景の違いや敵味方など人と人の間にあるとされる全ての壁を意識しない。ドスの姿勢は「人類みな兄弟」という思想を体現しているんだ。彼はそれを口にしたり考えたりしただけでなく、映画にも描かれているように行動で示したんだ。彼は実際に戦場で敵を手当てした。アメリカ兵と同様にね。熱意と愛情を持って敵を治療したんだ。

──ドスの父親は第一次世界大戦で戦った元兵士で、心に傷を負い、家庭内で暴力を振るっていました。ドスと父親の関係について教えてください。

ガーフィールド:父親との関係はドスの人生を決定づけた。父子の間には激しい愛情があり。2人とも似たような後ろめたさを抱えている。父親に押し付けられた“家族の呪い”なんだよ。ドスは父親のようにならないためにその呪いを断ち切ろうとする。あまりにも単純ではあるけどそれが根底にある。だから独り立ちしようとするんだ。でも 結局のところ、ドスが本当に癒やしたいのは親だったんだ。それができなかったからこそ、ドスは戦場であれほどの治療を施せたんだ。父親との関係がなければできなかったと思う。後悔が原動力になっているんだ。アルコール中毒や自己嫌悪から父親を救い出してやることができなかったことがね。

──出演した理由を教えて下さい。

ガーフィールド:迷いは一切なかった。心を惹きつける脚本と役でぜひ演じたいと思った。彼は意図せずに自然と英雄になったんだ。信念を貫く人物には人を感動させる何かがある。周囲にどれだけ反対されようと妨害されようと、決して信念を曲げない。自分の本心に忠実であり続ける人物だ。僕は本作のそういった主題に心を惹きつけられた。

──どんな風に役作りしたのですか?
『ハクソー・リッジ』撮影中のメル・ギブソン監督 (C)Cosmos Filmed Entertainment Pty Ltd 2016

ガーフィールド:実話に基づく物語に出演すると、他の人の人生を生きられて楽しい”。別の時代を生きることができ興味は尽きない。だから時間が許す限り歴史やその人物を調べるんだ。僕は納得するまでに3ヵ月かかったけど、楽しかったよ。他に楽しかったのは、衛生兵役として医療処置を学んだことだ。今とは違う当時特有の医療処置だからね。

──メル・ギブソン監督とお仕事した感想は?

ガーフィールド:監督は「映画作りは楽しくない」と言いつつ絶対に楽しんでると思う。彼自身がすばらしい俳優でもあるから、彼に見守られていると強い安心感がある。本作は俳優ではなく監督のための映画だ。だから監督に全てを委ねられる感覚がとても重要だ。でも俳優が全身全霊をかけて演技するには、監督に愛情と配慮が必要なんだ。そうでないと自分をさらけ出せない。それができる監督は物語も大切にする。メルのすばらしさは言葉では語り尽くせない。

──戦場シーンのすさまじさも話題ですね。

ガーフィールド:戦場シーンはブリンゲリーで何週間もかけて撮った。スタッフ全員にとって厳しい撮影だった。監督とスタントのチームが作り上げたアクションは全てがリアルだ。アクションだけでなく効果の9割はCGではなく実写だ。だからこそ 理屈抜きで心に響くんだ。CGでは決して真似できない。

アンドリュー・ガーフィールド
アンドリュー・ガーフィールド
Andrew Garfield

1983年8月20日生まれ、アメリカ、カリフォルニア州出身。舞台俳優としてキャリアをスタート。最初に高く評価されたのは、ゴールデン・グローブ賞助演男優賞にノミネートされた、デヴィッド・フィンチャー監督の『ソーシャル・ネットワーク』(10年)。続いて、主人公のピーター・パーカーを演じた『アメイジング・スパイダーマン』(12年)と『アメイジング・スパイダーマン2』(14年)が、合計15億ドルの興行収入を上げ、世界中にその名を知られる。その他の主な出演作は、『大いなる陰謀』(07年)、『Dr.パルナサスの鏡』(09年)、『わたしを離さないで』(10年)など。マーティン・スコセッシ監督の『沈黙-サイレンス-』(16年)にも主演。