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『人類遺産』ニコラウス・ゲイハルター監督インタビュー

これは過去か未来か? 廃墟から人類の歴史を垣間見る

『人類遺産』ニコラウス・ゲイハルター監督インタビュー
映画の解釈は観客にゆだねられるべき

『人類遺産』
全国順次公開中
(C)016 Nikolaus Geyrhalter Filmproduktion GmbH
湖底に沈んだ町、ハリケーンによって壊滅した海上遊園地のローラーコースター、廃棄された教会……。次々と映し出される“風景”は圧倒的に美しく、黙示録のようにも思える。

日本でも10万人が見た『いのちの食べかた』で、現代の食糧事情の空虚さを映し出したニコラウス・ゲイハルター監督が、最新作で取り上げたのは廃墟。現在、全国順次公開中で話題となっている本作について、ゲイハルター監督に語ってもらった。


──『いのちの食べかた』では、一切のナレーション、音楽を排して現代の「食糧」生産現場を見せてくれましたが、本作では人間すら登場しません。なぜこのようなドキュメンタリー映画を作ろうと思ったのでしょうか?

監督:私は本作を、ドキュメンタリー映画であるとは思っていません。あくまで普通の映画だと思ってい ます。映画祭などがカテゴリーを必要としているからドキュメンタリー映画にカテゴライズされているだけです。確かに本作は、どちらかといえばフィクションよりドキュメンタリーに近いので、一般的にはドキュメンタリーと受け取られています。でも私にとっては、かなり演出をし変化を加えたという意味で、むしろフィクションに近いと思っています。私にとっては、木々も建物も、風さえも俳優のように思えたのです。そもそも私はドキュメンタリー的に現実を切り取るつもりはありませんでした。 私が思い描いていたビジョンは、とてもフィクションに近いものでした。この映画のドキュメンタリー的な要素を挙げるなら、本作に登場する建物が取り壊され、その風景が失われるまでは、人々が実際にそれを見ることができるということぐらいです。

『人類遺産』
(C)016 Nikolaus Geyrhalter Filmproduktion GmbH
──『いのちの食べかた』では、産業機械が労働者を閉め出し労働現場を牛耳っている様子を描きました。この『人類遺産』では、人間も機械も消滅してしまった廃墟を描いていますね。廃墟の何があなたを惹きつけたのでしょうか?

監督:本作を「人間も機械も消滅してしまった世界を描いている」と見ることは、あくまでも一つの解釈でしかないと思います。私は本作を、文明が消滅するというシナリオだけで読み解きたくないのです。 なぜなら、起こりうるであろう人類の未来を描きながらも、パワフルに「現在」を描いていると考えるからです。人間が不在であるからこそ人間の存在が感じられる。この映画には人間は登場しませんが、 それでも人間についての物語であると言えるでしょう。

──捨てられ朽ちてゆく場所には、人間の過去の物語が内包されています。同時に、この映画は観客それぞれにその解釈を委ねている作品だと思います。

監督:映画とは、そもそも観客に解釈を委ねられているべきだと思っています。

──原題は“HOMO SAPIENS”で、人類という意味です。けれども映画の中で人類は滅亡してしまったように見えます。なぜこのタイトルを選ばれたのですか?

監督:長い間、仮題として「Sometime」(いつか/やがて)というタイトルを使ってきましたが、もっと良いタイトルを見つけなければと思っていました。なぜなら、この仮題では人々が存在しなくなる未来というのがあまりにも分り易くなってしまうからです。作品をどう見るべきかを暗示しないで、 作品に対する解釈をオープンにしたいと考えていました。ちょうどその頃、私にとって人間に対する興味が段々と深まってきていました。
 なぜ私たちは存在するのか? 何を私たちは残せるのか?という 疑問が自分の中でどんどん湧いてきていました。私たち人間は、自らをとりまく環境に対して責任を持っています。ですから、本作のタイトルに「人間」という要素を入れることがとても大切に思えてき ました。しかしタイトルに相応しい言葉を見つけるのに苦心しました。そんな時ふと、「ホモ・サピ エンス」という学名に基づいたタイトルは良いと思いました。そんなタイトルがついた映画にまさか人間が登場しないとは思いませんし、考古学的で歴史的な意味合いも含まれていますから。

(2017/04/19)


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ニコラウス・ゲイハルター
Nikolaus Geyrhalter

1972年、オーストリア・ウィーン生まれ。94年に自身の制作会社ニコラウス・ゲイハルター・ フィルム・プロダクションを設立、作家性の強いテレビや映画のドキュメンタリーを中心に製作。国際的な映画祭な どでの受賞歴も多く、『いのちの食べかた』(07年)が各国で話題を呼びドキュメンタリー監督としての確固たる地位を得た。12年にはチェルノブイリ原発事故で被害を受けた小さな村 の12年後を追った『プリピャチ』(99年)が日本公開され話題となった。

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