『小さな園の大きな奇跡』エイドリアン・クワン監督インタビュー

崖っぷち幼稚園の実話を映画化した熱血監督

#エイドリアン・クワン

映画化オファーも、ギャラはなんと6万円(笑)

有名幼稚園で園長をつとめていたものの、エリート教育に疲れ果てて退職したルイは、ある日、廃園の危機にある幼稚園のニュースを目にする。資金不足で先生が1人もいなくなった園に残された5人の子どもを救うため、ルイはわずか給料6万円(4500香港ドル)のその幼稚園の園長に応募するのだが……。

夢をあきらめなかった女性と彼女を支えた夫、そして5人の子どもたちが繰り広げる涙と笑顔の物語『小さな園の大きな奇跡』は、実話を元にし、昨年の香港映画興収ランキングNo.1を記録した感動作だ。

日本でも好評公開中の本作について、エイドリアン・クワン監督に話を聞いた。

──実話をもとにした作品ですが、製作の経緯を教えてください。

『小さな園の大きな奇跡』撮影中の様子

監督:2009年にルイ先生とこの幼稚園のことが報道されて以来、ずっと心に残っていました。最初は、なぜ彼女がこんな立派なことができるのか分からなかったのですが、数年後、チャリティ団体に参加したことで、その気持ちがわかったような気がしたのです。その話を映画業界の友人に話したら、「ちょうどユンロン(元朗)にあるその幼稚園 に行くけど一緒に来ない?」と誘われたんです。そしてルイ先生と合い、彼女の話に感動して、「どうしても映画にしなくては!」と思ったんです。
 幼稚園に連れて行ってくれた友人はある映画会社の人間で、すぐに僕に映画化のオファーをしてくれたのですが、僕は監督のギャラも聞かずにOKしました(笑)。笑い話ですが、そのギャラはルイ先生の“4500香港ドル”以下でしたよ(笑)。

──香港ポップスの大スターで女優としても大人気のミリアム・ヨンが園長を、彼女を支える夫をトップ男優ルイス・クーが演じているのも話題ですね。

監督:ルイスはいつもは警官物や黒社会物の映画に出ているので、 こういう役を演ってみたいと思っていたそうです。彼の今回の役は観客にとってもサプライズですが、 僕は彼に最初に会った時、 彼の中にとても温かい心を感じたので、彼ならできると直感しました。
 それからルイ先生の役にミ リアムを考えました。彼女はまず第一に素晴らしい女優です。そして実際に3歳の息子がいるので、子どもの心が良く理解できると思ったんです。 また彼女の元看護師というキャリアも、人間の生きる権利の大切さを知るうえで役に生きていると思います。ミリアムは国連大使としての チャリティ活動でも有名ですから。

夢見ることを恐れない人になって!
『小さな園の大きな奇跡』撮影中の様子

──子どもたちの演技が素晴らしいですね。

監督:5人の子どもは、400人の中からオーディションで選びました。 子どもらしい無邪気さをもっていて、ごく普通の子どもらしさが自然に見える子を選びました。最初に10人選び、3ヵ月練習して5人に絞っていきました。
 演出も大変で、今回の撮影は、子どもにかけた時間が最も長かったと言っていいでしょう。「アクション!」という言葉を教えたり、「カット」と言ったらどうするか、カメラを見てはダメ といった、基本のことから教えなくてはいけませんでした。 
 子どもは1人撮影するだけでも大変なのに、今回は5人。だから助監督も5人。 子ども1人に1人の助監督で、普通より多いけど、それでも足りませんでした。「眠い」「お腹がすいた」「休みたい」「今度はトイレ」…… 毎日本当に大変でした。でもスタッフも、そして何より子どもたち皆が、とても 頑張ってくれました。

『小さな園の大きな奇跡』
新宿武蔵野館ほか、全国順次公開中
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──劇中のエピソードはすべて事実ですか?

監督:ドラマティックにしている部分はありますが、基本のアイデアはすべて事実です。ルイ先生本人にインタビューし、園児やその家族にも話を聞きました。ルイ先生が子どもたちと打ち解けていく方法や授業の仕方も、先生から聞いたことを脚本に取り入れました。
 ルイ先生が幼稚園の一般開放を企画したけれどその時は1人も来なくてみんながっかりした話も、インタビューで聞いたエピソードなんです。

──最後に、映画に込めた思いを教えてください。

監督:僕は、誰もが楽しめて、かつ希望や勇気を感じられるような映画を作り続けたいと思っています。この映画を見た方、これから見る方に伝えたいのは、「夢を共有しましょう」ということ。勇気を持って、夢見ることを恐れない人になってください。そうすればきっと、この世界はより良くなっていくはずです。

エイドリアン・クワン
エイドリアン・クワン
Adrian Kwan

香港生まれ。高校・大学をカナダで過ごし、カナダ時代に映画を学ぶ。卒業後、海外でドキュメンタリーを製作した後、1992年に香港へ戻り、テレビ局からキャリアをスタート。『君さえいれば/金枝玉葉』(94年)の助監督を経て映画界で仕事を始める。99年に映画監督デビュー。2001年のナディア・チャン主演『Life Is a Miracle(原題:生命因爱动听)』が高く評価され、つづくイーソン・チャン主演『If U Care...(原題:贱精先生)』(02年)が大ヒットし、人気監督に。その他の代表作にエイダ・チョイ主演『The Miracle Box (原題:天作之盒)』(04年)、エリック・スーアン主演『Team of Miracle: We Will Rock You(原題:流浪汉世界杯)』(09年)など。