『ジェイソン・ボーン』アリシア・ヴィキャンデル インタビュー

北欧出身のオスカー女優が「英語の難しさ」を語る

#アリシア・ヴィキャンデル

マット・デイモンは本当に本当に良い人

マット・デイモンが、記憶を失ったCIAの最強の暗殺者=ジェイソン・ボーンを演じる『ボーン』シリーズが復活。デイモンとポール・グリーングラス監督が9年ぶりにシリーズに復帰した『ジェイソン・ボーン』は、組織を離れて消息を絶っていたジェイソン(デイモン)が再びCIAとの攻防を繰り広げる。

映画の公開直前には、ボーンを追跡する若きCIAエージェント、ヘザーを演じるアリシア・ヴィキャンデルが来日。スウェーデン出身、今年のアカデミー賞で初ノミネートにして、『リリーのすべて』で助演女優賞に輝いた彼女に話を聞いた。

──出演を決めた理由は?

来日時のアリシア・ヴィキャンデル

ヴィキャンデル:まずは、ポールとマットが再び組んでシリーズ最新作を作るということにワクワクしたわ。私自身、このシリーズの大ファンだから。もちろん、素晴らしい監督やキャストと仕事ができることも、これまで演じてきたものとは全く違うキャラクターを演じることも魅力的だった。

──ロンドンに来たばかりの頃、ルームメイトたちと『ボーン』シリーズを見ていたそうですが、大ファンだった作品に実際出演するのはどんな気分でしたか?

ヴィキャンデル:ワシントンで最後のシーンを撮影中のことなんだけど、普段はあまりしないモニターチェックをしたの。画面を見ていたら、マットと私が同じシーンを演じていて、急に「どうしてこんなことが起きてるの?」と思った(笑)。
数年前の私には想像もつかなかった光景だった。仕事を1つ1つこなしながら、一歩ずつキャリアを進めてここまで来たけど、6年前の私は、英語で仕事することになるとさえ思ってもいなかったの。『ボーン』シリーズのチームに加わえてもらえて、とても感謝しているわ。

──マット・デイモンとの共演はいかがでした?
『ジェイソン・ボーン』
(C)Universal Pictures

ヴィキャンデル:キャリアは長いけれど、今でも自分の仕事をとても愛している人。飽き飽きしたことなんて一度もないみたい。知り合った人とは本当に仲間になろうとしてくれて、他人にもちゃんと興味を持っている。これって、良い俳優になるためにとても大切なことよ。そして地に足が着いていて、とても親切で、家族を大切にしているわ。映画スターだけど、何よりもまず、本当に本当に良い人。共演できて嬉しかったわ。

──CIA長官のデューイを演じたトミー・リー・ジョーンズとのシーンも多かったですね。

ヴィキャンデル:彼は、私が共演したかった伝説的な名優よ。本当に素晴らしい俳優で、彼との共演シーンでは多くを学ばせてもらったわ。テイクの度に違う演技を見せ、演じる役に対してものすごくストイック。瞳の奥にいろいろな表情があって、毎回違うものを見せてくれる。それを目の当たりにするだけでも素晴らしい経験だったわ。本当を言うと、会う前は威圧的な人なんじゃないかと思っていたの。彼が演じてきた役柄やインタビュー映像を見て、そう思っていたんだけど、全然違ったわ。ドライなユーモアのセンスの持ち主で、厳しい表情のままで面白いジョークを言うの。そういうところで、とても気が合ったわ。

英語で演じることに、最初は疲れ切っていた
アリシア・ヴィキャンデル

──『ボーン』シリーズの女性キャラクターはどれも強くて、単なる添え物ではありません。あなたが演じたヘザー・リーも、若くて有能で野心家で、男性中心の組織で奮闘しています。

ヴィキャンデル:前作まで登場していたジョーン・アレンのキャラクターもそうだけど、このシリーズは女性に備わる強さをきちんと描いていると思うわ。
 ヘザーはそれに加えて、新しい世代を象徴する存在でもある。テクノロジーに関する知識や技術、情熱があり、10年前だったら若者が入り込めなかったような場所(CIA)で活躍している。旧世代が必要としている新しい知識を自分が持っていることをヘザーは知っているの。デューイも、ものすごいスピードでパワーバランスが変化していることに気づいている。それを止めることは誰にもできないのよ。撮影前の準備で、ヘザーのような仕事をしている若い男女に会って話を聞いたけど、彼らが現代社会にどんな変化をもたらしているかを知って、すごいと思ったわ。

──今回はアメリカ人を演じていますが、スウェーデン出身のあなたにとって母国語ではない英語での演技は、やはり苦労がありますか?
アリシア・ヴィキャンデル

ヴィキャンデル:だんだん慣れてはきたけど、やっぱり大変。5年前に『アンナ・カレーニナ』に出演した時は、本当に毎日疲れきって帰宅していたわ。普通に英語を話すのと、英語で演じるのには大きな違いがあるの。時間をかけて考えながら話すわけにはいかない。思っていることを口にしようとすると、母国語と外国語では、そこにかかるフィルターの厚さが違うというか。即興で演じることはなかなか出来ないし、身動きが取れないような窮屈な感覚があった。今はだいぶ自由に演じられるようになったわ。楽しめるようにもなってきた。言語を切り替えることが、役に入るためのスイッチになるし、1日の終わりに仕事を終えた時にも「OK、これで自分に戻った」と思えるの。

──最後に、今後の活動について。自身でプロダクションを立ち上げたそうですが?
『ジェイソン・ボーン』撮影中の様子
(C)Universal Pictures

ヴィキャンデル:ヴァイカリアス(Vikarious)という名前だけど、これは英単語のvicarious(代理の、〜を通じて、の意)に、私の苗字(Vikandel)をかけたもの。人は映画やテレビを通じて様々な経験をしていると思うから。プロダクションの命名には何ヵ月も悩んでいたけど、友人のオフィスで話をしている時にその場にいた1人が提案してくれたの。最初はちょっと違うんじゃないかと思ったんだけど、考えるうちに面白いなという気がしてきたの。私はヨーテボリ生まれだけど、スウェーデンではヨーテボリ出身者は言葉遊びが得意なことで知られているの(笑)。私の苗字ともちょっと近いし、何より単語の意味がぴったりだったので、この名前に決めました。この仕事にも、とてもワクワクしているの。第1作の『Euphoria(原題)』は完成したばかりで、次の作品も準備中。数ヵ月以内には発表できると思うわ。

(text:冨永由紀/photo:中村好伸)

アリシア・ヴィキャンデル
アリシア・ヴィキャンデル
Alicia Vikander

1988年10月3日生まれ、スウェーデン出身。幼少期はスウェーデン王立バレエ学校に通いバレリーナを目指す。2010年に『ピュア 純潔』で長編映画デビューを果たし、ベルリン国際映画祭シューティングスター賞などを受賞。『アンナ・カレーニナ』(13年)で注目を集め、『ロイヤル・アフェア愛と欲望の王宮』(13/年)、『ガンズ&ゴールド』(14年)などに出演。『リリーのすべて』(16年)ではアカデミー賞助演女優賞を受賞。その他の主な出演作品は、『コードネームU.N.C.L.E』(15年)、『エクス・マキナ』(16年)、『ジェイソン・ボーン』(16年)、『チューリップ・フィーバー 肖像画に秘めた愛』(17年)など。