『ミモザの島に消えた母』フランソワ・ファヴラ監督インタビュー

珠玉ドラマ監督が語る、家族の秘密がもたらす負の連鎖とは?

#フランソワ・ファヴラ

口にしなければ、家族の秘密は代々伝染して後々まで影響を及ぼすことになる

30年前に美しい避暑地で溺死した母。その死の真相を追い求める主人公の心の再生を描いた『ミモザの島に消えた母』が7月23日より公開される。

母の知られざる横顔と家族の秘密が織りなす珠玉のサスペンスドラマについて、フランソワ・ファヴラ監督に話を聞いた。

──『サラの鍵』の原作者として知られるタチアナ・ド・ロネのベストセラー小説を映画化した作品ですが、家族の秘密というテーマに強く共感されたそうですね。なぜですか?

監督:家族によってさまざまな秘密があって、子どもたちはそうとは知らずにその掟に従わされる。でも大人になるにつれ、その問題が逆に彼らにとって大きなものになる。僕自身も、映画とは違う類のものだけど、やはりそういう秘密を経験した。その秘密を知りたがるか、逆に知りたくないと思うかは子どもによって異なる。それはとても興味深い。また僕が自分からそういうことを話すようになって、周りでも家族にいろいろな秘密を持った人が多いことがわかった。「実は僕の祖父が」とか、「従姉妹が」とかね。映画でもそういうテーマを扱ったものに僕は惹かれる。イングマール・ベルイマンの『野いちご』、『セレブレーション』『レベッカ』など。この原作は僕が行きつけの本屋の人が紹介してくれた。それで読んでみて、とても映画化したいと思ったんだ。

『ミモザの島に消えた母』母の死の真相を追う主人公のアントワーヌ(ローラン・ラフィット)
(C)2015 LES FILMS DU KIOSQUE FRANCE 2 CINEMA TF1 DROITS AUDIOVISUELS UGC IMAGES

──いつも顔を合わせている家族なのに大事なことは何も話さないというのは、興味深いことだと思います。そういう家族がじつは少なくないということですが、なぜ身内であるにも拘らず秘密ができてしまうのだと思いますか。

監督:難しい問題だな。フランスに限っていえば、戦後ずいぶん変化したけれど、それ以前は伝統的にそういうことは話さない風潮があったと思う。とくに不倫や近親相姦といったタブーに関しては、人々は薄々わかっていても、体裁を繕おうとした。家族内でもプライベートなことを話すなんてことはほとんどなかったんじゃないかな。
 でもこの物語でもうひとつ僕が興味を持ったのは、ある時点で主人公のアントワーヌが娘に秘密を話すことだ。そうでなければ代々それは伝染していって、後々まで影響を及ぼすことになる。でも勇気を持って一度話してしまえば、その方がすっきりすると思う。

──話さなければ、親子の信頼関係にもひびが入りますよね。

監督:その通り。思うに子どもというものは、親が思っているよりも敏感だ。決して口には出さなくても、いろいろなことを彼らは感じとるものだよ。僕にも娘がいるけれど、僕の機嫌が悪いときなどは、すぐにムードを感じとる(笑)。だから注意が必要だ。でもここでアントワーヌは娘に胸の内を明かすことで解決の糸口を掴む。彼が話すことによって娘もまた心を開こうという気になり、親子がお互いを理解するようになる。

──では、あなたにとって理想の家族とは? ご家族とはなんでも話せる間柄ですか。

監督:まぁ、それもちょっと微妙だな……(笑)。いま僕自身、家族がちょっとごたごたしているんだけど、とにかく娘に心がけているのは、コミュニケーションを図ること。何か訊かれたら真摯に答えるようにしている。じつは映画のなかで主人公の末娘を演じているのが、僕の実の娘(ローズ・ファヴラ)なんだ(笑)。

人から拒絶されること、異なる人間を受け入れないことは深刻な問題
『ミモザの島に消えた母』
(C)2015 LES FILMS DU KIOSQUE FRANCE 2 CINEMA TF1 DROITS AUDIOVISUELS UGC IMAGES

──この作品はサスペンスであると同時に、人間ドラマの要素もありますが、どちらの要素を重要視して撮影されましたか?

監督:両方とも大事だった。僕はスリラーとか、刑事もの、刑事が調査を進めるようなプロットが大好きだけど、ラストには人間的なドラマが待っているようなものがいい。たとえば『チャイナタウン』。さっき挙げた『レベッカ』も同様だ。たんにスリラーで最後にドンパチあって終わるようなものは好きじゃない。つねに人間的なドラマや深みがなければ面白くないと思う。

──さきほど『レベッカ』や『チャイナタウン』の話が出ましたが、その他にこの映画を撮るのにとくに参考にした映画などはありますか?

監督:これもさっき挙げたけれど『野いちご』。あの映画では老人が旅の途中にさまざまな土地に寄るけれど、この映画でも主人公のアントワーヌがいろいろな場所を訪れ、そのたびにかつての記憶を呼び起こされる。僕はそういう話に惹かれる。実際、小さいときの記憶が呼び起こされるたびに、慄然としてしまうんだ。たとえば自分が小さい頃にいた土地で、よく見ていた木などを訪れると、その木を見ていた時間というのはもう存在しないのだと思って呆然となる。時間というものはあまりにはかないものだと知ってね。だから僕はこういうドラマを描くのだと思う。
 娘のローズが8歳になる前日、突然泣き出したことがあった。僕がどうしたのかと訊くと彼女は、『今日で7歳ともお別れだから』と答えた。『もう7歳には戻れない』と。僕はそれを聞いたとき、自分もまったく同じ気持ちになったよ。とにかくそういう感覚を映画で描きたい。
 アルゼンチン映画の『瞳の奥の秘密』にも影響を受けたよ。あの映画でも主人公が調査を進め、過去のことを掘り起こしていく。この映画のテーマと似ているね。

──原作は2005年に出版されましたが、同性愛というテーマは今日、より現実的、一般的なものになっています。映画を作るにあたってそのことはどんな影響を及ぼしましたか。

監督:あまり話すと映画の筋をバラすことになるから言えないけれど、でも僕にとってそのテーマは重要なものだった。他人から拒絶されること、異なる人間を受け入れないということは深刻な問題だ。数年前にパリで、ゲイの結婚に反対する人々のデモがあったときはショックを受けた。僕はカトリックだけど、ああいう連中はキリストの言ったことをよく読み返す必要がある。ゲイの人々に同じ権利がないなんてことは、誰にも言えないはずだ。それに他人の気持ちをもっとレスペクトするべきだし、僕らは寛容性を持たなければならないと思う。そう、寛容ということについて話し合うのはとても大切だ。

『ミモザの島に消えた母』母の死のトラウマを抱える主人公の妹アガット(メラニー・ロラン)
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──あなたは撮影中、40回ぐらいテイクを撮ることもあるそうですね。でも同時に即興で演じさせるときもあるとか。俳優に何を望みますか。

監督:僕はリハーサルが好きじゃない。何度もやると自然らしさが失われるし、僕自身が驚かされることがない。とくに僕のやり方というものがあるわけではなく、それぞれの俳優に合わせたやり方をするのが大事だと思っている。ただ複雑なのは、異なるタイプの俳優が共演しているとき。そういうときはやり方を考えなければならない。あとは大勢の人々のシーンも大変だね。

──最後に、日本の観客へのメッセージをお願いします。

監督:日本といえばよく覚えているのは、『彼女の人生の役割』を横浜フランス映画祭(2004年)で上映したとき。シアターが一杯で、観客の反応が良くてとても感激したよ。1作目だし、僕自身はそんなに多くを期待していなかったのに。日本の観客には……そうだなぁ、とにかく見た人が感動してくれればいい。この映画を見たことで、家族のなかでコミュニケーションが増えたりすればいいね。日本はタブーとか、触れてはいけないものがたくさんあるのかもしれないけれど。

フランソワ・ファヴラ
フランソワ・ファヴラ
François Favrat

1967年5月10日生まれ。助監督、共同脚本として、多くの長編映画制作に参加した後、2001年に短編『MON MEILLEUR AMOUR』を初監督し各国の映画祭で高い評価を得た。長編の初監督作『彼女は人生の役割』(04)は700,000人を動員し、カリン・ヴィアールは2005年のセザール賞最優秀女優賞にノミネートされた。2009年の長編2作目『LA SAINTE VICTOIRE』には、クリスチャン・クラヴィエとクロヴィス・コルニアックが出演。『ミモザの島に消えた母』は彼の長編3作目になる。