『神様メール』カトリーヌ・ドヌーヴ インタビュー

大女優がゴリラとベッドイン!「いい雰囲気」の撮影現場語る

#カトリーヌ・ドヌーヴ

ゴリラとベッドにいるだけで非現実的で、一風変わったワクワク感があった

ある日突然、全人類に余命を知らせるメールが届いた! ある人は5年の余命、ある人は102年、ある人は……。大パニックに陥った世界を救うため、“神様の娘”は旅に出て、ヘンテコな奇跡で人々を助けていく。

「神様はブリュッセルのアパートに家族と一緒に住んでいて、パソコンでいたずらに世界を支配している」という斬新な設定をもとに、父の“悪行”に憤慨した10歳の少女が巻き起こす騒動を描いたミラクルコメディが『神様メール』。『トト・ザ・ヒーロー』や『八日目』のジャコ・ ヴァン・ドルマル監督の最新作だ。

主人公の少女・エアを演じたピリ・グロワーヌの天才子役ぶりが話題だが、ゴリラと恋に落ちる主婦を、なんとあのカトリーヌ・ドヌーヴが演じているのも見どころのひとつ。奇想天外な本作について、大女優に語ってもらった。

──本作の役はかなり衝撃的ですが、役柄としては小さいですね。このような小さな役で出演されていたことに驚きました。

『神様メール』
(C)2015 - Terra Incognita Films/Climax Films/Apres le deluge/Juliette Films Caviar/ORANGE STUDIO/VOO et Be tv/RTBF/Wallimage

ドヌーヴ:もちろん、役が小さくても出演するわ。私はこれまで、演じたいものだけを演じてきたの。シナリオを読んで面白いと思えば、主役でなくても引き受けるわ。ずっとそうしてきたの。
 今回は、まずシナリオがよく出来ていたし、一風変わったユーモアがあってそれが素敵だったし、スカッとする陽気なお話だったから。ドルマル監督がこの人物を私に、と話してくれたとき、このおかしなアイデアをとても気に入ったの。

──あなたが演じる裕福な主婦マルティーヌがゴリラと寝るシーンがあると分かったときはどう思いましたか?

ドヌーヴ:実はその部分だけ、はじめは分かっていなかったの。ある夫婦がいて、夫が多忙なビジネスマンでという、よくある設定のお話だったのよ。それが、いきなりゴリラと出会い、一目惚れするという展開で、その素敵なお猿さんに会いに行ったり、ベッドインしたりと、非現実的なものが物語に収まっていくのがおかしくて、とにかく気に入ったのよ。

──とはいえ、役としてはかなり風変わりですよね。斬新な美女と野獣バージョンです。

ドヌーヴ:そんなことはないわ。理性的なほうだと思うわ。日常では、皆もっと奇妙なことをするでしょう? 撮影中は、ゴリラとベッドにいるだけで非現実的で、一風変わったワクワク感があったわ。そして同時に、現場はとてもいい雰囲気だったの。ドルマル監督は、感じがよく、優しく穏やかで、私にとってとても素敵な経験だったのよ

──迷わず、その小さなお話に入り込めたというわけですね。

ドヌーヴ:「小さなお話」ではなくて、ゴリラが恋の相手になるという立派なラブストーリーよ。今回は超現実的でどこかズレた表現をしてみたの。はじめは無理だと思ったけれど、演じてみた結果、とても楽しかったの。そうすることで意外にも、ゴリラが登場するシーンの撮影がリラックスした、楽しい雰囲気になったのよ。ジャコ・ヴァン・ドルマル監督とは初めてだけど、またいつか組みたいわ

ロック精神かどうか分からないけど、型破りな方が好きね
『神様メール』
(C)2015 - Terra Incognita Films/Climax Films/Apres le deluge/Juliette Films Caviar/ORANGE STUDIO/VOO et Be tv/RTBF/Wallimage

──「新しいカトリーヌ・ドヌーヴ」をイメージさせる作品選びでしたが、狙い通りでしたか?

ドヌーヴ:演じる上で、イメージなんて考えたりしないわ。自分のイメージなんてないし、私はいつも直球なの。この映画も独創的な面白いアイデアだったから出演したの。この役は、型どおりでないところが魅力的ね。

──フランス人がもつ、あなたのイメージとは全然違いますよね。

ドヌーヴ:ええ。でも、フランス人は演じている私にはかなり寛大だと思うわ。雑誌の表紙とは違ってね。

──「雑誌の表紙」とは?

ドヌーヴ:「金髪でエレガントなパリジェンヌ」ね。でも映画なら、奇妙な私を見ても、特別な衝撃はないと思うの。衝撃的なことって、現実に毎日あるでしょう? 私はサプライズが好きなのよ。

──こロック精神があって、意外です。

ドヌーヴ:ロック精神かどうか分からないけど、型破りな方が好きね。

『神様メール』
(C)2015 - Terra Incognita Films/Climax Films/Apres le deluge/Juliette Films Caviar/ORANGE STUDIO/VOO et Be tv/RTBF/Wallimage

──では、今後、挑戦してみたい役は?

ドヌーヴ:いつも忘れないようにしていることはあるの。同じ路線を走らないように、前進し続けるということ。そもそも、賛辞をいただくことが私の原動力ではないし、一度もそうだったことはないのよ。やりたいものはたくさん頭の片隅にあるけれど、芝居か音楽かはわからない。ただ、変化のない路線を進まないために、挑戦すべきことは何かということをいつも考えています。

──あなたは社会問題でも積極的に行動していますよね。中絶禁止法の撤廃を求めた「343人の宣言」に参加したり、死刑法の撤廃のためにパリのアメリカ大使館に出向いたりもしていますが、現在の深刻な難民問題の映像を見て、衝撃を受けますか?

ドヌーヴ:衝撃だわ。信じられないことに、あれだけ大勢の難民が押し寄せてきているのに、ヨーロッパは大事なことが十分に出来ていないのだから。

──怒りを覚えますか?

ドヌーヴ:怒るというより、とても大きな悲しみと言っていい。ハンガリーでは、壁を越えようとしている人々を通さないよう邪魔しているのよ。移民が通るだけなら、通してあげればいいのに。昔はともかく、今の政治体制でハンガリーに行きたい人なんていないわ。同じヨーロッパだというのに、非情なエゴイズムだと思うわ。

──ドイツでは8000人の難民を受け入れましたね。

ドヌーヴ:すごいことよね。あんなことが出来たドイツは賢明だわ。ほかの国も、尻込みせずによりよいことをすべきなの。イタリアも、ともあれ立派ね。漂着した大勢の難民がはじめに押し寄せてくる悪条件の土地柄にもかかわらず、真偽を判断し、受け入れ態勢をとり、彼らの言葉を話そうと試みたり、寛大な態度だわ。極右や反対する人々も大勢いる中で、とにかくよくやったと思うわ。

カトリーヌ・ドヌーヴ
カトリーヌ・ドヌーヴ
Catherine Deneuve

1943年10月22日生まれ、フランスのパリ出身。俳優一家に生まれ、10代のころから活躍。主演した『シェルブールの雨傘』(64年)のヒットにより世界的人気を得る。『インドシナ』(92年)で米国アカデミー賞主演女優賞にノミネートされたほか、『ヴァンドーム広場』(98年)出ヴェネチア国際映画祭女優賞を受賞。主な出演作は『昼顔』(67年)、『終電車』(80年)、『ダンサー・イン・ザ・ダーク』(00年)、『8人の女たち』(02年)など。