『ファーザーズ・デイ/野獣のはらわた』プロデューサー ロイド・カウフマン インタビュー

Z級映画製作“トロマ”の代表が語るインディーズ映画支援への熱意

#ロイド・カウフマン

「アストロン6」のボーイたちは確実にビッグになる

世の父親ばかりを襲い、レイプし、惨殺して、その肉を喰らう伝説の「父の日殺人鬼」ファックマンと戦う3人の男たちの姿を、エロ・グロ・ナンセンス描写満載で描き出した『ファーザーズ・デイ/野獣のはらわた』が日本で公開される。

メガホンをとったのは、80年代に大量生産されたジャンル映画のキッチュで悪趣味テイストをこよなく愛し、現代的センスで作品を創造するカナダの映像作家集団「アストロン6」(アダム・ブルックス、ジェレミー・ガレスピー、マシュー・ケネディ、コナー・スウィーニー、スティーブン・コスタンスキ)。彼らの才能にいち早く目を付けたのが、『悪魔の毒々モンスター』(84年)、『カブキマン』(91年)などで知られる「トロマ」代表のロイド・カウフマンだ。

アストロン6に全額出資で長編映画をオファーとしたというカウフマンが「とにかくブッ飛んだ映画を作れ」とリクエストしたというだけあって、壮絶なバイオレンス描写が全編を覆う挑発的な映画となった。そこで今回はカウフマンに本作が生まれた経緯、そして今年40周年を迎えるトロマについて話を聞いた。

──カウフマンさんは、アストロン6の才能に感銘を受け、本作をプロデュースすることに決めたと聞いたのですが、彼らのどういった部分に魅力を感じたのでしょうか?

カウフマン:僕たちは(カウフマンが1980年にプロデュース、弟のチャールズが監督した映画をリメイクした)『マザーズデイ』のセットで会ったんだ。カナダで撮影されたこの映画は、大規模な予算の映画で、ブレット・ラトナーがプロデューサーとして参加していたんだが、アストロン6のボーイたちはその現場で働いていたんだ。彼らはトロマの大ファンでね。僕が現場にやってきたときに「ミスター・カウフマン! We Love You!! 僕たちは映画を作りたいんだ!」と話しかけてきて、『ファーザーズ・デイ/野獣のはらわた』のスクリプトを売り込んできたんだ。

──『マザーズデイ』との関連性はあったんですか?

カウフマン:確かに『ファーザーズ・デイ/野獣のはらわた』というタイトルは、トロマのファンなら『マザーズデイ』との関連性を匂わせるようなタイトルなんだが、中身はまったく別。まったく別の惑星の映画というようなコンセプトが面白いなと思ったんだ。ところで君は『サウスパーク』を知ってる?

──もちろん。

カウフマン:(『サウスパーク』の監督・脚本の)トレイ・パーカーが手掛けた最初の映画(93年の『カンニバル!THE MUSICAL』)はトロマ映画なんだ。ジェームズ・ガンもそうだね。彼はマーベルとディズニーが製作する『ガーディアンズ・オブ・ザ・ギャラクシー』(全米公開14年8月)の監督だよ。それから『ホステル』のイーライ・ロスなんかもトロマ出身だね。多くの若い才能がトロマから巣立っていった。アストロン6の面々も確実にビッグになるはずだね。

インディーズ映画を支援したい

──『ファーザーズ・デイ/野獣のはらわた』もそうですし。カウフマンさんは俳優としても多くの作品に出演していますが、俳優業はお好きなんですか?

カウフマン:そうだね。僕は映画に出て演じるのが大好きだ。でもそれと同時に若い人の映画に出ることによって、彼らの撮影の裏側をのぞくことができるということも大きいんだ。特に僕はずっと35ミリフィルムの現場で育ってきた人間なんで、デジタル化した今の撮影現場の新しい手法や、お金を節約する方法を彼らから学んでいるんだ。まるで短期講習の生徒になったような気分だよ。
 それから多くのトロマファンが映画作家になりたいと言ってくれていることも大きい。もし彼らが自主制作をした映画に出演することになったのなら、ギャラはもらわないようにしているんだ。僕はいつだって彼らにはチャンスをつかんでほしいと思っているからね。大手映画スタジオの力は非常に強いんで、インディーズの映画作家が生き残るのはとても大変だ。でも、トロマはカルト的な人気を誇っているんで、僕がカメオ的に出演することによって、無名の若き映画作家たちが作った映画でも、トロマのファンが見に来てくれるかもしれない。
 また、僕は独立系の映画作家に向けて6冊の映画制作本(「Make Your Own Damn Movie!: Secrets of a Renegade Director」など)を出版しているんだが、これは、若者たちが心から映画を愛して、自主制作魂を燃やし続けながら映画を作る方法について記しているんだ。大手スタジオでは若手の映画作家に希望を与えてくれないし、独立系の映画作家は飲み込まれてしまう。そういう人たちを助けるために、いろんな方法でインディペンデントのシーンを支援したいと思っているんだ。

──今年、トロマは40周年を迎えるとのことですが、なぜここまで続けられたんだと思いますか?

カウフマン:いい映画を作りたいという思いを貫き通したからだ。それだけはずっと曲げないでやってきたから、ファンはその姿を見守ってくれた。僕らは大きな広告を出すことも出来ないけど、トロマにはとても熱狂的なファンがいるんで、口コミが武器になっている。彼らが多くの友だちに映画の面白さを伝えてくれた。それこそがトロマが生き残った秘訣だと思う。それは「未来の映画」なんだよ。

トロマが40年間続けられた理由
『ファーザーズ・デイ/野獣のはらわた』

──「未来の映画」というのはファンのこと?

カウフマン:いや、そういう意味ではなくて、我々が作った映画こそが「未来の映画」という意味だよ。クエンティン・タランティーノやピーター・ジャクソンといった人たちはトロマの映画に影響を受けて育ち、今でも映画を作っている。つまり現在のメインストリームの映画界というものは、我々の20年以上前の作品に影響を受けているということなんだ。それこそが僕たちが成功している秘訣、「未来の映画」ということなんだ。この『ファーザーズ・デイ/野獣のはらわた』だって、きっと20年後にはスティーブン・スピルバーグがリメイクをしているはずだよ(笑)。僕たちはオリジナリティを大事にしてきたし、ハートやソウルを込めて作ってきた。金のためじゃない。それこそが40年たった秘訣だ。もちろん金は欲しいよ。イエス! 僕らは金が大好きだ。でも僕らの映画で1番大事にしていることは、金ではなく、ハートやソウルなんだ。ところで君はサミュエル・L・ジャクソンという俳優を知っているかい?

──もちろん。

カウフマン:彼は90年に『サミュエル・L・ジャクソン in ブラック・ヴァンパイア』というトロマ映画に出ている。まだサミュエル・L・ジャクソンを知る人が少なかった時代、黒人が映画を作ることが珍しかった時代にトロマは彼を主演にして『サミュエル・L・ジャクソン in ブラック・ヴァンパイア』を制作した。ただ、この映画、最終的には僕がカメラマンとして参加することになったんだけどね。

──どうしてあなたがカメラマンをやることに?

カウフマン:もともといたカメラマン(Ernest R. Dickerson)に大きな仕事が舞い込んだからだ。彼はスパイク・リーの映画に参加することになってね。僕たちの映画を撮ることができなくなったんだ。だからクライマックスは僕が撮影監督としてノンクレジットで撮影したんだ。

──それは初耳でした。

カウフマン:トロマの共同設立者にマイケル・ハーツという男がいるんだが、彼と僕以外はスタッフ全員が黒人だった。それでも僕らはオープンな心で、彼らに映画制作の環境を提供したんだ。僕らはずっと今までやってこなかったことをやってきた。それが僕らが40年続いた秘訣だと思うよ。

心がけているのは、映画に社会的な問題や政治的な問題を織り込むということ
──カウフマンさんの代表作『悪魔の毒々モンスター』もユニークな映画でした。

カウフマン:最初、『悪魔の毒々モンスター』は誰も買おうとはしなかったんだ。最初に上映されたのは、ニューヨークの1館だけだったんだが、そこですごい行列ができたんだ。それでものすごく人気になったんで、翌年のカンヌ国際映画祭では、みんなが『悪魔の毒々モンスター』に注目してくれるようになった。映画業界のほとんどの人が、新しいことや、エキサイティングだがリスクがあるようなことを恐れてしまいがちだ。でも我々はとんでもないことや、新しい表現にもリスクを厭わずにチャレンジをしてきた。そんなトロマを、ファンが育ててくれたんだ。
 彼らが「トロマの映画が見たい!」と言ってくれることで、映画館も映画を上映してくれている。すべてはみんなファンのおかげだよ。現在、YouTubeでトロマの映画を250近く公開しているんだが、そのひとつ『チキン・オブ・ザ・デッド/悪魔の毒々バリューセット』のメイキングを見れば、ファンのみんながいかにトロマを愛してくれているかが分かるはずだよ。彼らはわざわざ世界中から飛行機のチケットを握りしめてトロマにやってきて、お金は一銭も払われないというのに、映画作りを手伝ってくれるんだ。彼らは撮影現場でも床に寝ているくらいなんだ。本当にファンには感謝したいよ。

──トロマ映画では、裸の女性や太った人が登場したり、粘液を吐き出したり、過激なスプラッター描写などなど、トロマ印ともいうべきいろいろな特徴があると思うのですが、カウフマンさんが映画作りで心がけていることはありますか?

カウフマン:僕が心がけているのは、映画に社会的な問題や政治的な問題を織り込むということだ。リメイク版の『Return to Nuke ‘Em High』にもそういった描写はあるよ。

──緑の液体についてはどうですか?

カウフマン:緑の液体を使わなければいけなかったのは、70年代のアメリカが血を出すことにセンシティブだったからということもあるね。

──太った男も登場しますよね

カウフマン:太った男は大好きだ。ファニーだからね。緑の液体や裸の女性というのは、それが僕のスタイルなんだ。それが全部好きなんだ。車が転ぶシーンも好きだね。『ファザーズ・デイ/野獣のはらわた』の監督たちもルールを破るのが好きなんだ。だってアストロン6は、監督が5人もいるんだからね! しかもみんな才能があるし、お下劣なことが大好きなんだ。彼らはトロマが大好きだから、『ファザーズ・デイ/野獣のはらわた』にも太った男だって出てくるし、裸の女性だって出てくる。
 社会的な問題が登場して、美しいおっぱいも登場して、太った男も出てきて、それらがみんな組み合わさって“うどんスープ”のように煮込まれたものがトロマ映画なんだ。ホラー、SF、セックス、コメディ、スラップスティック、シェイクスピアなどいろんなジャンルのものが、それぞれのジャンルを超えてミックスされたものなんだ。

──ところでトロマの40周年記念作品であり、カウフマンさんがメガホンをとった『悪魔の毒々ハイスクール』シリーズ最新作『Return to Nuke ‘Em High』は2部作になっているとのことですが、なぜ2部作にしたのでしょうか?

カウフマン:それはトロマの大ファンであるクエンティン・タランティーノのアドバイスがあったからだ。昔、彼と話をしたときに、次回作を作るなら『キル・ビル』を分けたように2本に分けた方がいいよとアドバイスを受けたんだ。だから『Return to Nuke ‘Em High』を1部、2部と分ける決断に至ったというわけさ。

(text&photo=壬生智裕)

ロイド・カウフマン
ロイド・カウフマン
Lloyd Kaufman

1945年12月30日生まれ、アメリカ・ニューヨーク出身。イェール大学在学中に映画に目覚める。卒業後、ジョン・G・アヴィルドセン監督の『ジョー』(70年)などのアシスタントとして働くかたわら、74年に大学在学中に知り合った2年後輩のマイケル・ハーツとともにトロマ・インクを設立。84年に発表した『悪魔の毒々モンスター』が世界的大ヒットを記録。トロマは完全に軌道に乗り、カウフマン自身も気鋭の映画作家として注目されることになる。監督としてコンスタントに作品を発表する傍ら、プロデューサーとしてもトレイ・パーカーやジェームズ・ガン、アストロン6など、数多くの新しい才能を世に送り出した。最新監督作は『悪魔の毒々ハイスクール』(86年)の続編となる『Return to Nuke 'Em High』。ロサンゼルスを拠点にするロジャー・コーマンと並び称され、若い映画人に尊敬されているインディペンデント映画界の伝説的人物である。

ロイド・カウフマン
ファーザーズ・デイ/野獣のはらわた
2014年1月11日より新宿武蔵野館にてレイトショー公開
[製作]ロイド・カウフマン、マイケル・ハーツ
[監督・脚本]アストロン6
[出演]アダム・ブルックス、マシュー・ケネディ、コナー・スウィーニー、エイミー・グローニング、ギャレット・ナティク、ブレント・ニール、メレディス・スウィーニー、マッケンジー・マードック、ロイド・カウフマン
[原題]FATHER’S DAY
[DATA]2011年/アメリカ、カナダ/エデン/99分

(C) 2012 TROMA ENTERTAINMENT, INC. & ASTRON-6 ALL RIGHTS RESERVED.