『アルゴ』ベン・アフレック インタビュー

不遇の時代を経て監督としてカムバック!

#ベン・アフレック

アメリカとカナダの関係性と協力こそが人の命を救った

1979年11月4日に起きたイランのアメリカ大使館人質事件と、混乱のなかで脱出した6人の大使館員。6人を救出させるためにCIAがとった作戦とは? 事件から18年にわたって機密扱いされてきた前代未聞の作戦を、ベン・アフレック(監督・主演)とジョージ・クルーニー(製作)が映画化したのが、10月26日より公開となった『アルゴ』だ。

絶望的な状況のなかでCIAが立てた作戦は、ウソの映画を企画し、6人をロケハンに来た撮影スタッフに仕立て上げてイランから出国させるというもの。だが、順調に進んでいたかと思われた企画は、目前に迫った大統領選挙や国際情勢に翻弄され、幾度もの危機を迎える。果たしてアメリカ政府とハリウッドが協力し合ったこの作戦は成功するのか?

「事実は小説よりも奇なり」を地でいくような本作を完成させたアフレックに話を聞いた。

ベン・アフレック(左)
Photographed by Eric Charbonneau

──(カナダの)トロント映画祭でのプレミア上映では、観客からの反応が素晴らしかったですね。

アフレック:最高だよ。本当に素晴らしいプレミアだった。こんな風に仕事が上手くまとまるって希なことだからね。この作品はとても気に入っているし、誇りに思っているんだ。しかもこれは、アメリカとカナダの関係性と協力こそが人の命を救ったという内容だし、カナダでプレミアできて嬉しかったよ。カナダの人たちがカナダについてのジョークを全部笑ってくれたのも嬉しかった。
 映画のプレミアというのは、人が死んだように静かなことが多いんだ。たいていは業界人や批評家が静かに見ているだけだからね。

──前作『ザ・タウン』も高い評価を得ていますが、監督としての自信は?

アフレック:どうかな。すごく自信があるとは言えないと思うよ。それに僕は健全な謙遜心も持っているから。監督という仕事がどれだけ大変か自分でも自覚しているし、僕よりも優れた監督がどれくらい世の中に存在しているかも分かっている。だから、毎日可能な限り精一杯仕事をしなくてはいけないことも分かっている。といって(監督を続けられる)何の保証もないけれど、でも僕の仕事はそういうもので、あとは運命に任せるしかないと思っている。

俳優でも監督でも、常に最新の5作で評価される
──すでにオスカー有力候補の声も挙がっていますが、どう思いますか?

アフレック:観客の反応は最高だったと思うよ。でも、今の僕の目標は、この映画をみんなに見に来てもらいたいということだけなんだ。1人でも多くの人に見てもらえるために、できる限りのことをするつもりだ。なぜならこの映画はハリウッドの典型的なヒット映画ではないし、観客がひと言で内容を言い表せるような映画でもないからね。「ええと、まず1979年にアメリカ大使館が……」って話し始めなければいけないわけで、簡単にセールストークができるような作品じゃない。でも、(配給元の)ワーナー・ブラザーズは作品を売り出すのが業界で1番上手いから、僕は安心してお任せできるんだ。

──数年前、あなたのキャリアは、正直なところかなりズタズタでしたが、映画に関わることをやめたいとは思わなかったのですか?

アフレック:それはないね。これが僕のやりたいことだし、僕の愛することだし、僕の仕事だから。それに、映画の仕事を始めて、オーディションでもなかなか役をもらえなかった頃から、この仕事には山があれば谷もあるんだと思っていた。上手くいかなかったときは、次にもっと頑張らないといけないと思っていたんだ。そこからなんとか抜け出す術を見つけなくてはいけないとね。最新作の出来映えで自分が評価される。つまり、最新作が良くできていれば、みんなに「最高だね」って声をかけられるけど、そうじゃなかったらパーティに行っても、まるで僕がいないかのようなフリをされる。そういうビジネスで、僕はそれを承知の上で、この仕事が好きなんだ。苦痛とか失望を味わわなくてはいけないけれど、安定した仕事よりもそのほうが好きなんだよね。

──では、自分の監督作でカムバックしたことを誇りに思うのでは?

アフレック:もちろんだよ。というのも、すでに2度、こういう体験をしているからね。最初は『グッド・ウィル・ハンティング/旅立ち』(97年)を作るために頑張って戦ったとき。あの頃マット(・デイモン)といつも話していたのは、何かが上手くいかなかったら、僕らはいつだって自分たちで作品を作ればいいんだってこと。だからそのアイデアに立ち返って『ゴーン・ベイビー・ゴーン』(07年/未)を監督した。公開初週の興行成績は400万ドル(約3億2000万円)だったけど、作品が素晴らしいと言ってくれた人もいて、その結果、『ザ・タウン』(10年)が作れたんだ。
 俳優でも監督でも、常に最新の5作で評価され、過去にどんな作品があっても。5作が悪ければみんなに拒否されるようになる。そして上手くいかなかったときにそれを軌道修正するのはとても難しいんだ。でも僕はなんとか軌道修正しようと頑張って、この8年間の成果にはすごく満足している。一生懸命仕事したとも言えるし、自分の作品にすごく誇りをもっている。ほとんど休暇さえ取らずに頑張ってきたけど後悔もしていない。

ハリウッドで仕事をしている人は、少なからずハリウッドに対して皮肉な視点をもっている
──あなたは脚本家でもあり、俳優でもあり、監督としても成功しましたが、今後は監督だけでいこうと思ったりしていますか?

アフレック:僕は俳優として映画に出演するのも好きで、自分の演技を自分で編集する立場にいられることが好きなんだ。それから、監督としてリサーチしたことを俳優として役立てるのも好きだ。だって、14週間のリサーチをしたら、キャラクターについて何もかも分かっているわけだから。それから、自分が監督した作品に俳優として出演すれば、俳優を2年間休業しなくてもいいというのも気に入っている。この業界は何でもすぐに忘れられるからね。だから常に俳優として活動し続けることは、僕にとって大事なことなんだ。そして、俳優と監督を両方することで、良いバランスを生み出しているような気がする。僕は、基本的にすべてを自分でやるのが好きなんだよね。

『アルゴ』メイキング
(C) 2012 WARNER BROS. ENTERTAINMENT INC.

──本作にはハリウッドへの皮肉が込められていると思うのですが。

アフレック:ハリウッドで仕事をしている人たちは、誰もが少なからずハリウッドに対して皮肉な視点をもっていると思うんだ。ジョン・グッドマンが演じた特殊メイクアップアーティストのジョン・チェンバース役の好きなところは、彼は大勢の監督と仕事をしてきているのに「ほとんどの監督はバカだ」と言い放つところなんだ(笑)。監督なんて訓練すればなれるから、猿と同じだと思っているところがある。それでいて彼は、好きでもないモンスター映画の仕事をしていたりするわけだよね。つまり、この映画において僕らは、ハリウッドをシリアスに受け止め過ぎているわけではないということを描こうとしているんだ。観客に“偉大なるハリウッド”を何かの模範として見せつけようとしているわけではない。むしろ、ウソにまみれた野心だらけの人たちが、何かしらの物語を語るために集まっている場所だってことを描きたかったんだ。

──そのジョン・チェンバーズがCIAから最高の栄誉を受け取るというのは素晴らしい話だと思うのですが。

アフレック:そうだよね。彼の物語こそ、事実と知るまでは信じられない話だったよ。彼は特殊メイクの第一人者で『猿の惑星』をはじめ名だたる大作の特殊メイクをすべて手がけてきたような人だ。その彼のオフィスにはCIAのために作ったメイクが置いてあるセクションがあって、ベトナム戦争のときに人を救うために作ったマスクとかが置いてあるんだ。CIAが彼のところに来て「僕らは人を救うために、彼を変装させなくてはいけないんだ」とお願いに来たこと自体、本当に面白いよね。彼はそうやって長年CIAに協力して、結果、一般市民としてCIAから最高の栄誉を受賞したわけだ。そんな話、普通は「ウソだろ? ハリウッドの人間が? まさか!」って思うよね。でも事実なんだ。しかも(本作の主人公でCIAの人質奪還のプロ)トニー・メンデスは、ジョンが2001年に糖尿病で亡くなるまで友だちでい続けた。今でもハリウッドでメイクの人たちにジョン・チェンバースについて聞くと「彼は最高の人だ」という話が始まるんだよね。

ベン・アフレック
ベン・アフレック
Ben Affleck

1972年8月15日生まれ、カリフォルニア州出身。友人のマット・デイモンとの共同脚本作『グッド・ウィル・ハンティング/旅立ち』(97年)でブレイク。同作でアカデミー賞脚本賞、ゴールデングローブ脚本賞を受賞。その後『アルマゲドン』(98年)、『トータル・フィアーズ』(02年)、『デアデビル』(03年)でアクションスターとして活躍するも、その後の出演作は興行的に成功せず、俳優として低迷。そんななか監督第2作目となる『ザ・タウン』(01年)が高く評価され、12年に3作目となる『アルゴ』を監督。

Photographed by Eric Charbonneau

ベン・アフレック
アルゴ
2012年10月20日より全国公開
[製作]ジョージ・クルーニー、グラント・ヘスロブ、ベン・アフレック
[監督]ベン・アフレック
[出演]ベン・アフレック、アラン・アーキン、ブライアン・クライストン、ジョン・グッドマン
[DATA]ワーナー・ブラザース
(C) 2012 WARNER BROS. ENTERTAINMENT INC.