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『SKIN/スキン』ガイ・ナティーヴ監督インタビュー

白人至上主義と決別した男の実話を7年かけて長編映画化

『SKIN/スキン』ガイ・ナティーヴ監督インタビュー
役になりきったジェイミーを見た瞬間、背筋が凍るような衝撃を受けた

『SKIN/スキン』
2020年6月26日より全国順次公開
(C)2019 SF Film, LLC. All Rights Reserved.
白人至上主義者に育てられ、差別と暴力の世界に生きてきたブライオンは、シングルマザーのジュリーと出会い、過去を悔い、人生の再出発を決意する。しかし、組織からの脱会を許さないかつての同志たちから執拗な脅迫と暴力を受けるようになり、その矛先はジュリーたちにも向けられていく……。『SKIN/スキン』は、実際に2003年にアメリカで発足したレイシスト集団「ヴィンランダーズ」の共同創設者ブライオン・ワイドナーが辿った実話をもとにした社会派ドラマだ。スキンヘッドにタトゥーだらけのブライオンを演じているのが、2000年に『リトル・ダンサー』の主役でデビューしたジェイミー・ベルであることも話題だ。

監督は、イスラエル出身でユダヤ人のガイ・ナティーヴ。本作がアメリカでの初長編作品で、元レイシストの男の葛藤と再生だけでなく、現代社会に残る人種差別問題をリアルに描いたと称賛を集めている。そんな新進気鋭の監督に、本作完成までの苦労などを聞いた。


──どのようにしてこの物語を発見したのですか?

監督:2012年、テルアビブのベン・グリオン空港でのこと。コーヒーショップに座って新聞を読みながら、ふとブライオン・ワイドナーの写真に目をとめました。このクレイジーで魅力的な元ネオナチのスキンヘッドの男は、以前は全身をタトゥーで覆われていたけれど、自分自身を浄化するためにそれらをすべて除去する決断をした。それが実に大きな痛みを伴うプロセスだったにも関わらず。僕は、ホロコースト生存者の孫として、彼の物語をもっと知りたいと思った。そこで自分のインスピレーションの源である祖父に記事を見せました。彼は「これは世界がもっとも必要としている物語だ」と言い、この物語を追求するように勧めてくれた。そうして妻で共同製作者のジェイミーと僕は、ブライオンを探し始めたんです。

──ブライオン本人とはどのようにして出会えたのですか?

監督:ブライオンのEメールアドレスを何とか見つけ、自分はイスラエル出身のユダヤ人で、祖父はホロコーストのサバイバーである、ぜひ君の映画をつくりたいと伝えました。彼は「そこまで真剣に考えてくれるなら会いに来てくれ」と言い、ニューメキシコのコーヒーショップで会うことになりました。ブライオンは過去のせいで簡単に人を信用しないところがあったけれど、僕が彼に対してネガティブな思いを抱いていないことをすぐに理解してくれた。僕とジェイミー、ブライオンと彼の妻の4人は、週末を一緒に過ごして仲良くなりました。そして、彼は自分の人生を映画化する権利を僕に譲ってくれた。ナプキンへの署名という形でね(笑)。脚本執筆中も彼とは毎日のように連絡を取り合い、困ったときは相談に乗ってもらいました。4年をかけてようやくプロデューサーが見つかり、撮影にたどり着くことができたんです。もちろん彼は完成した映画も見てくれた。見るのがとても辛かったようだけれど、特にジェイミー・ベルの演技が素晴らしいと言ってくれました。

──レイシスト集団の克明な描写にも驚かされました。

監督:彼らはみな、自分たちにはバイキングの血が流れていると宣言していますが、それは病的な嘘です。彼らが盲信するバイキングの存在は北欧神話に起源があり、その文化圏では、体に刻むタトゥーすべてに意味があると考えられている。だから彼らも、タトゥーを入れることでバイキングのような威圧的な存在になれると思い込んでいる。当初は、僕も北欧神話がどのようにスキンヘッドカルチャーに取り入れられたのか調べていたけれど、結局彼らはバイキングのふりをしているだけで真剣にその文化や神話と向き合ってなんかいないことがわかってきた。だから両者の関わりには深く踏み込まないようにしようと決めました。

──貧困層の少年たちがレイシスト集団に取り込まれていく描写がありましたが、ああいった描写もやはり事実に基づくものなのでしょうか。

『SKIN/スキン』撮影中の様子
監督:実際、どのヘイトグループも14歳くらいの子どもたちに狙いを定めます。貧しい子たちに衣食住や家族を与え、自分たちの考え方に染まるよう洗脳していく。僕はブライオンの過去をフラッシュバックで描くようなことをしたくなかった。だからギャビンという少年を登場させることで、ブライオンの過去がどのようなものだったかを見せたのです。こうした集団を知るには、ブライオンとの対話やダリル・L・ジェンキンス(反ヘイト団体の運営者で、ブライオンを手助けした)から聞いた話が役立ちました。

──ブライオンとダリルとの友情もこの映画の大きな見どころですね。

監督:僕にとってこの映画の錨となったのは、ブライオンと彼の妻とのラブストーリーだったけれど、もう一つはダリルとの友情でした。撮影現場にはブライオンとダリルが2人で来てくれて、ホテルでは仲良く同室に泊まっていましたね。ダリルとはニューヨークで初めて会い、興味深い話をたくさん聞かせてもらいました。加えて、僕はダリル本人の人柄にすっかり惚れ込んでしまった。彼は大のコミックマニアで、マーベル・コミックに登場する黒人ヒーロー、ルーク・ケイジを愛しているんです。だから自分の役を演じるのが、ドラマでルーク・ケイジ役を演じたマイク・コルターだと知ったとき、彼は感激のあまり泣き出してしまいました。次回作は、ダリルの視点から綴られたミニシリーズを企画しています。彼から見た、ネオナチやファシストたちとの戦い、そして彼がいかにそういう人たちを救い、改心させていったかを描く内容になる予定です。

──ジェイミー・ベルは、このハードな役を演じるにあたり、どのような役作りを行ったのでしょうか?

監督:彼にとっても楽な役とは言えなかったでしょうね。僕自身、『リトル・ダンサー』の印象が強かったこともあり、ジェイミーにはソフトなイメージを抱いていました。でも最初にプロデューサーが彼に会いに行き、「彼はイメージとは全然違う、とてもタフな男だったよ」と言ってくれた。その後、自分も会って同じことを感じました。ジェイミーの役への入れ込み具合は凄かった。15キロくらい体重を増やし、ブライオン本人と一緒に時間を過ごし、関連するドキュメンタリーもたくさん見たそうです。アメリカでは、演技のメソッドの一つとして、ある動物をインスピレーションの源にする方法があるのですが、今回彼がイメージしたのはサメ。その激しい動きや獰猛な目つき、血を嗅ぐ動きなんかを役に取り入れていったんです。メイクで入れたタトゥーは撮影中もずっと入れたままでした。それはジェイミー自身が、タトゥーに閉じ込められる感覚を肌で感じてみたかったから。タトゥーを入れたまま外に食事に出かけ、周囲の反応を観察したりもしていたようです。

──スキンヘッドに全身タトゥーを入れたジェイミーを初めて見たときは、監督ご自身も思わずぞっとしたそうですね。

監督:ジェイミーからは「現場に入るまではメイクやタトゥーを施した姿は見せたくない。役作りに関してはどうか僕を信頼して任せてほしい」と言われていました。僕はもちろん100%彼を信頼していたから、撮影現場で初めてブライオンと化したジェイミーを見たわけです。その瞬間、背筋が凍るような大きな衝撃を受けました。彼はまったく別の人間、獣のような人物になっていたから。彼は自分のなかのダークサイドを引き出し、実にハードな役作りをしてくれていました。本当に驚くほど役に入りこんでいたから、ジェイミーはこの役を捨てるのに2ヵ月以上かかったと言っていました。だから次の出演作はもっとライトなものを選ばなければ、ということで、『ロケットマン』を選んだのです(笑)。

──『SKIN―短編』も強烈な印象を残し、見事アカデミー短編映画賞を受賞しましたが、これも長編のように実際の話を基に生まれたのでしょうか?

監督:短編は何か実際の事件が基になっているわけではありませんが、現実のニュースから少しずつ影響を受けて作った作品だと言えますね。僕がブライオンの話を脚本にしたのは2016年のこと。ただ、当時はどのプロデューサーに話しても乗り気になってくれなかった。それで脚本を寝かせているときに、妻が「イスラエルでも長編をつくる前に短編をつくっていたんだから、今回もそうしてみたら?」と提案してくれたんです。長編用の脚本を20分程度にできるだろうかと悩んでいたところ、知人のシャロン(・メイモン)がネオナチがらみの企画を考えていることを知り、一緒に脚本を書こうと提案しました。彼は僕にあの衝撃的なエンディングのアイディアをくれました。週末、短編の脚本を書き上げて、家の庭ですぐに撮影を行いました。それを長編の企画を拒んだプロデューサーたちのもとに持ち込んだところ、以前とはまったく別の反応が返ってきたのです。
 もちろんその間に、アメリカでは大きな変化がありました。トランプ政権が誕生し、シャーロッツビルの事件(注:2017年8月12日、大規模な白人至上主義集会が行われ、これに抗議する人々に車が突入し3人が死亡)が起き、シナゴーグ襲撃事件(注:2018年10月27日、ピッツバーグのユダヤ教礼拝所に武装した白人の男が乱入、11人が死亡)が話題になった。アメリカ中でネオナチやヘイトグループの存在が認知されるようになってきたのです。

──長編と短編はコインの表裏のような関係性とも言えますね。

監督:その通り。短編は、レイシストの男が人種差別とはどういうものかを、自分の肌に刻まれたタトゥーによって学んでいく。長編は、同じくレイシストの男が、タトゥーを除去することで違う人間になっていく、という異なる物語です。『SKIN/スキン』が描く物語は、必ずしもアメリカに特有の話ではありません。どんな国でも人種差別は未だに根深く残っていますよね。イスラエルでも、肌の色の濃いエチオピア人に対する差別や、パレスチナ人への差別という問題を抱えています。これは僕と僕の国の状況をめぐる映画でもあり、同時にすべての人々にあてはまる物語でもあるんです。

──監督の祖父はホロコースト生存者とのことですが、やはりご自身の出自が、この映画の物語に惹かれた理由の一つでもあるのでしょうか。

監督:祖父は僕のスーパーヒーローです。家族をすべて殺され、たった一人で戦争を生き抜いた祖父は、長年ドイツに対する凄まじい怒りを抱えていました。けれど1967年にイスラエルで六日間戦争(第三次中東戦争)が起き、ドイツがイスラエルのために兵器を送ってくれたことをきっかけに、彼は、怒りや不寛容を抱えて生きるのは惨めな人生だと気づいたようです。どうやって自分の怒りを赦しに変えることができるのか、彼は身をもって教えてくれました。
 かつてはモンスターだと思われた人間が、正義に目覚め、より良い人間になりたいと願ったとき、あなたは受け入れられるでしょうか。受けられない人もいるかもしれない。でも今こそ相手と対話する時が来たと感じる人もいるでしょう。国と国が平和な関係を持てるのは、それぞれの政治的リーダーが相手と話をする準備ができたときです。何より対話が重要なのです。この作品もまた、対話の重要性を訴えた映画だと思っています。

(2020/06/26)


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ガイ・ナティーヴ
Guy Nattiv

1973年生まれ。イスラエルのテルアビブ出身。有名企業のコマーシャル作品を手がけた後、2007年に初の長編映画『Strangers(原題)』をエレズ・ タドモーと共同監督。長編第2作『The Flood (Mabul)(原 題)』(10年)は イスラエル・アカデミー賞で6部門にノミネートされた。第3作『Magic Men(原題)』(14年。エレズ・タドモーと共同監督)はイスラエル・アカデミー賞の最優秀男優賞とマウイ映画祭の観客賞を受賞。『SKIN/スキン』はアメリカでの初長編作品となる。現在、妻でパートナーの女優ジェイミー・レイ・ニューマンとロサンゼルスに在住。

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