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『その手に触れるまで』ジャン=ピエール&リュック・ダルデンヌ監督

狂信化した少年の行方…ベルギーが誇る兄弟巨匠監督現代が描く問題作

『その手に触れるまで』ジャン=ピエール&リュック・ダルデンヌ監督
この機会に世界が変わることを期待している(リュック)

『その手に触れるまで』
2020年6月12日より全国順次公開
(C)Les Films Du Fleuve – Archipel 35 – France 2 Cinéma – Proximus – RTBF
第72回カンヌ国際映画祭で監督賞を受賞し、同映画祭において8作品連続コンペティション部門に出品という快挙のみならず、審査員賞を除くすべての主要賞を受賞するという史上初の偉業を成し遂げたダルデンヌ兄弟。最新作『その手に触れるまで』では、ダルデンヌ兄弟の手腕からストーリー展開、俳優陣の演技に至るまで、各国のメディアから絶賛の声が上がっている。

今回の作品で描かれているのは、ベルギーに暮らす13歳の普通の少年アメッドが尊敬するイスラム指導者に感化され、過激な思想に染まってしまう衝撃的な姿と、普遍的な少年の成長物語。そこで、多くの観客を虜にし続ける世界の名匠ダルデンヌ兄弟に、本作の舞台裏や映画にかける思いを聞いた。


──本作は2015年から16年にかけてパリやブリュッセルのほか、ヨーロッパで数度にわたって起こったテロに着想を得ているのでしょうか?

ジャン=ピエール:テロそのものがきっかけではありませんが、後押しにはなっています。私たちが最初に題材として考えたのは、「過激なイスラムの純潔の理想によって急進化した若者が脱急進化して、元の人生を取り戻せるのか」。そして「どうしたら、急進化した状態から離れられるか」を問うことが大切だと思いました。

──後半の舞台は、少年院とその校正プログラムである農場です。取材などからその舞台設定を考えついたのでしょうか?

ジャン=ピエール:この作品の少年院のシーンは、本物の少年院を使用しました。そこには少年たちが収監されていますが、その中にイスラム教過激派のテロを行った人は一人か二人だけで、多いのは、暴力事件などを起こした子どもたち。映画の中で教育官や心理士などが少年たちに見せる思いやりや共感は、取材をもとに設定しました。

リュック:少年院では、一部の少年には農場に行く研修があります。私たちがインスピレーションを得たのは、友人の女性が殺人を犯した少年が農場に行ったことを書いたルポルタージュ。この少年は農場を好きになったことで、自分の過ちや過去を思い出してばかりだったのをやめ、前向きになっていったそうです。
 劇中のアメッドは、自ら人に触れたりすることはなかったし、人に触ることは不浄だと考えていますが、農場のシーンから、実は動物に触れるのは嫌じゃない、むしろ好きだということが分かります。それは、そのルポルタージュを反映したものです。

──アメッドは教師の命を狙おうとしますが、その教師もムスリムです。彼らの住まいや学校の地域は「テロの温床」と呼ばれているムスリムが多く暮らすブリュッセル郊外のモレンベークがモデルなのでしょうか?

ジャン=ピエール:確かにモレンベークのような場所をモデルに考えていましたが、撮影はいつも撮影しているリエージュ郊外のセランで行いました。また、殉死した従兄については、具体的なテロリストではありませんが、シリアなどに行って事件を起こした人をイメージしています。
 アメッドも従兄もベルギーに生まれ、ベルギーで教育を受けた人たち。そんな人たちまでもが、狂信化していくことに映画を撮る動機がありました。新しい種類の人たちが狂信化してテロを行う、自分たちがやっていることは良いことだ、と死を崇拝するのです。その事実に動かされて、私たちは映画を撮りましたが、出演者の中には、テロリストになってしまった人と、幼少期に関わりがあったという人も実際にいました。

──日本にとってイスラム教は遠い存在といえますが、ベルギーではいかがでしょうか? また、本作を見たムスリムの方々の反応についても、教えてください。

リュック:ベルギーでは人口約1,100万人中、50万人がムスリムで、イスラムは二番目に多い宗教。雇用差別は今も少しはありますが、大半のムスリムは同化していると言えます。ベルギーで暮らしているムスリムにはマグレブ系と呼ばれるモロッコから来た人たちが多いのが特徴です。
 ムスリムの高校でもこの作品を見せましたが、良い反応をもらうことができました。映画を見たあとに、学校でも議論が起きたそうですが、宗教の議論をしていられる間は良い関係だと思います。

──主人公のアメッドを演じたイディル・ベン・アディ自身も、モロッコからの移民3世ですよね。彼の家族はこの映画で描かれるイスラムについて、どのように受け止めていましたか?

ジャン=ピエール:イディルの家族は、祖父母の代にベルギーにやって来て、イスラムの信仰もありますが、寛容な人たちです。イディル本人はイスラム教の儀式や禊などについてそんなに詳しくなかったので、私たちの友人であるイスラムの専門家から撮影現場で説明を聞き、指示をもらっていました。
 イディルの両親は、シナリオを読んですぐに出演を許可してくれましたが、お母さんが心配していたのは、この映画が公開されたあと、イディルが周りからテロリストのような人だと思われるんじゃないかということ。でも、最終的には承諾してくれました。
 ちなみに、イディルはこの映画で初めて演技に挑戦したにもかかわらず、いい人ではない役を演じてみたいと思っていたそうです。熟練の俳優が悪人を演じたい、他の人が出来ない役を演じたい、というのと同じ気持ちで役に向き合ってくれました。

──現場では、イディルにどのような演出をしましたか?

ジャン=ピエール:若くても若くなくても、俳優と仕事をするときにしていることは、舞台美術と小道具を使ったリハーサル。今回は1ヵ月半ほどかけてすべてのシーンに取り組み、準備したものが合わなければ変えていくようにしました。
 イディルはその段階ですべてのセリフを覚えてましたし、物語を理解してからリハーサルに来てくれたこともあり、彼は少しずつ役に入っていったような感覚。前もって何かをお願いしたことはないので、動作を覚え、セリフを言う過程で、体に覚え込んでもらいました。なので、特に「こうしてほしい」と具体的な演技指導はしなかったです。

──本作に限らず、いつも具体的な台詞の指導などはされないのですか?

ジャン=ピエール:リハーサルを少しずつ進めるにつれて、役者の演技というのは良くなっていくもの。なぜなら、実際に動き、小道具の使い方にも慣れて、リズムが徐々に完璧になると、台詞も自然にぴったりと合っていくからです。 セリフについて「こう言ってほしい」と指導することは稀ですが、イディルは若くてエネルギーに満ちていることもあり、感情的もしくは表現的になりやすかったので、そういう時は「もう少し抑えて」とだけ伝えました。 セリフを言う間を変えたい場合は、「もう少しゆっくり」とか「もう少し早く」とか、「ここで台詞を言って、それから何歩歩いて」などと伝えましたが、一番大切なのはリズムです。

──農場の娘ルイーズを演じたヴィクトリア・ブルックも、非常に目を引くキャストでした。

リュック:ヴィクトリアはキャスティングで見つけた少女ですが、競歩が得意なアスリートでもあります。映画に出るのは今回が初めてでしたが、この作品の後に別の作品でも声が掛かっているとのことで、演技を続けながら、競歩も続けていくそうです。

──また、エンディング曲はこれまでの作品同様に、アルフレッド・ブレンデルを起用していますが、彼のピアノの魅力とはどのようなところですか?

リュック:ブレンデルのいいところは、演奏の仕方が客観的で、あえて表現をそんなにしないところ。個人として、何かを表現しようとする感じがなく、緩やかなリズムが続くのが映画にはちょうどいいのです。でも、それはあくまでもこの映画に表現が合うと思ってのことで、情感豊かな演奏が好きな場合もあります。

──現在、新型コロナウイルスが世界に蔓延してしまい、ベルギーでも非常に厳しい状況が続いていますが、そのことに関して感じていることがあれば、教えてください。

リュック:はじめのうちは年配の人だけが命を落とす、といったことが言われていましたが、いまや若者も亡くなっており、誰も避けることはできない病気であることがわかったので、持病のある人をはじめ、みなさんに気を付けて欲しいと思っています。
 そんな今の社会において、健康や文化は民営化するのではなく、公益でなくてはいけません。なぜなら、貧民街では他の地域の2倍もの人たちが亡くなっていて、現在の健康危機の犠牲になっていると言えるからです。治療も受けられず、栄養のある食事も採れない弱者がいるのが現状なので、私はこの機会に世界が変わることを期待しています。


(写真 @Christine Plenus)

(2020/06/12)


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ジャン=ピエール&リュック・ダルデンヌ
Jean-Pierre Dardenne/Luc Dardenne

兄のジャン=ピエールは1951年4月21日生まれ、弟のリュックは1954年3月10日生まれ。いずれもベルギー、リエージュ近郊出身。1974年からドキュメンタリー製作をはじめると、翌年には製作会社「Derives」を設立し、様々な題材のドキュメンタリー映画を撮り続ける。その後、長編劇映画4作目の『ロゼッタ』(99年)で、カンヌ国際映画祭コンペティション部門初出品にしてパルムドール大賞と主演女優賞を受賞。主な代表作は、『ある子供』(05年)や『少年と自転車』(11年)、『サンドラの週末』(14年)など。カンヌ国際映画祭コンペティション部門に8作品連続出品という前人未到の快挙を達成し、21世紀を代表する世界の名匠とも呼ばれている。

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