ムビコレFacebookムビコレtwitterムビコレYoutubeムビコレニコニコ動画

映画・DVDの最新ニュース・予告編・動画は[ムビコレ]

『タゴール・ソングス』佐々木美佳監督インタビュー

「仮設の映画館」で先行ネット上映、新たな公開形式について語った

『タゴール・ソングス』佐々木美佳監督インタビュー
人との出会いに恵まれました

『タゴール・ソングス』
「仮設の映画館」で上映中
(C)nondelaico
現在、映画業界はかつてないほどの苦境に立たされているが、この困難をなんとか乗り切ろうと、配給会社や劇場などが一体となってあらゆる試みが行われている。そんななかでインターネット上に立ち上がったのが「仮設の映画館」(http://www.temporary-cinema.jp/)。すでに、バラエティに富んだ作品が顔を揃えている。

そのひとつとして注目されているのは、非西欧圏で初めてノーベル文学賞を受賞したインドの大詩人ラビンドラナート・タゴールが生み出した歌の魅力に迫るドキュメンタリー『タゴール・ソングス』。公開延期を余儀なくされていたが、劇場公開に先行してオンラインでの配信がスタートしている。そこで、本作を手掛けた佐々木美佳監督に、制作までの過程や苦労、そしていまの状況だからこそ感じている映画への思いを語ってもらった。


──本作が初めての映画制作ということですが、映画を作ることになったきっかけを教えてください。

監督:私は大学でヒンディー語を専攻していましたが、ベンガル語も学ぶようになり、そのときに出会ったのが「タゴール・ソング」と総称されるタゴールの歌でした。最初は翻訳していても良さがわからないところもありましたが、現地の人から話を聞いていくうちに輪郭がつかめるようになってきたので、論文ではなく、映画として表現したいと思うようになったのが始まりです。

──もともと映画を撮ってみたいというお気持ちがあったのですか?

撮影中の佐々木美佳監督(左)
監督:上京する前は、映画を作りたいと思ったことは一度もありませんでした。でも、大学に入ってから授業でドキュメンタリーを見たり、ミニシアターや山形国際ドキュメンタリー映画祭に行ったりするうちに、映画のおもしろさを知り、作ってみたいと思うようになりました。

──とはいえ、作りたいと思ってもなかなかすぐに実現するのは難しいと思いますが……。

監督:確かに、ただ映画を見ているだけだったら、どうしていいのかわからなかったのかもしれません。でも、ワークショップや映画祭のボランティアを通して、制作している方々と直接お話できる機会を持てたので、それは大きかったと思います。とはいえ、実際に始めてから、「これは大変なことだ」と気づかされましたが(笑)。

──準備期間や撮影中に苦労したのはどのあたりですか?

『タゴール・ソングス』
監督:映画を作る前は、何かをしたいのに何をしていいかわからなくなり、ずっとモヤモヤと悩んでいましたが、撮影に入ってから大変だったのは、人との関わり合いやひとつひとつの交渉のプロセス。もちろん、チームで作ることのおもしろさもありましたが、意見の対立もあったので、そういう過程は苦労しました。でも、いま振り返ってみると、それは嫌な大変さではなかったと感じています。

──では、撮影中の忘れられない出来事があれば、教えてください。

監督:ベンガル人のみなさんにとって大事なタゴール・ソングを知るために日本から来たということもあり、すごく歓迎してくれました。それだけで相手との距離が縮まったのはうれしかったです。いまでも取材した方々との関係は続いていますし、私のことを娘のように思ってくれるおじいさんもいるほど。人との出会いには恵まれました。

──逆に辛かったことは?

『タゴール・ソングス』
監督:一番は、デング熱になったことですね。そのときはインドのコルカタにある病院で2、3日療養しましたが、付きっきりで看病してくださったのは、現地で出会った人たち。おかげで無事に回復して、撮影もできたので本当に助けていただきました。

──出発の直前にはテロ事件もあったそうですが、身の危険を感じるようなことはありませんでしたか?

監督:今回は運もよく、そういうことはまったくありませんでした。もし選挙の時期と重なっていたら、ストライキやデモがあったりして危なかったと思うので、いい時期に撮影ができたと思います。

──それは現地の事情に詳しい監督だからこその部分もあったと思いますが、そもそも大学でヒンディー語を学び始めたのはなぜですか?

監督:実家にいたときからお墓参りや法事など、日常のなかに仏教というものが近くにある環境だったことと、仏教がインドからきていることに興味を持つようになったのがきっかけです。特に、仕事で使おうと考えていたわけではなかったので、なんとなくヒンディー語を勉強してみようかなという感じでした(笑)。

──その後、徐々にインドの西ベンガル州とバングラデシュを含む南アジア北東部の地域を指すベンガル地方の文学に興味を持つようになったそうですね。

監督:最初はインドで一番話されている言語を勉強しようと思ってヒンディー語を選びましたが、実際にヒンディー語の地域に行ってみたときに、自分が思い描いているインドとはちょっと違うと感じて、実は少し落ち込んでしまったんです。そんなときに、ベンガル語の美しい響きを聞き、タゴールという詩人について学んでいくうちに、ベンガル文学へと引き寄せられていきました。

──実際、タゴール・ソングを初めて聞いたときの印象は?

監督:最初に思ったのは、抽象的で大学生にはピンとこない歌詞だなと。ただ、わからないなりにも、良さを感じることはできたので、どうして自分にはそれがわからないのかということが気になるようになりました。

──タゴール・ソングは、100年以上経ったいまなお老若男女問わず誰からも愛されていますが、現地で歌を聞くなかで、新たな魅力を発見することもありましたか?

監督:日本に伝わっているタゴールの詩や歌は本から情報を得ることが多いので、高尚で近寄りがたい印象がずっとありました。ただ、崇高な歌だけでなく、気軽に楽しめる歌もあるので、取材を進めるうちに気が付いたのは、みんなにとってのタゴールであり、実は身近な存在であるということ。それからは、タゴールとは私たちと一緒にいてくれる人なんだと思うようになりました。

──タゴール・ソングは2000曲以上あるそうですが、監督にとってナンバーワンをあげるとすればどの曲ですか?

監督:状況によって変わることもありますが、映画でも何度か使っている「ひとりで進め」はつねに好きな歌です。詩は厳しいことを言っているように感じるのですが、それがメロディーに乗って伝わってくることで、自然とその言葉を受け入れられるようになる。覚えやすいメロディーなので、口ずさむように「ひとりで進め」という厳しい言葉が優しく染み込んでいく感覚が好きなんです。

──また、タゴールの言葉で監督が大切にされているものはありますか?

監督:「ギーターンジャリ」という本のなかに、「美しい音色を生み出すためには、面倒なしつけが必要だ」といった一節があるのですが、その言葉を思うと「いいものを作るには時間がかかるのは当然だからがんばろう」という気持ちになれるので、私のお気に入りです。

──監督自身がタゴールから影響を受けていると思う部分があれば、教えてください。

監督:人と関わるうえで、以前よりもオープンマインドになったと感じています。遠くにいるベンガルの方々とも歌を通じてわかりあえたので、そういうコミュニケーションの取り方は、タゴールのおかげでできるようになった部分です。

──もしタゴールと出会わなければ、映画を作ることもなかったのでは?

監督:そうかもしれないですね。本当に不思議なご縁だと思います。おそらくタゴールほど偉大な人物と向き合おうとすると、どうしても影響を受けざるを得ないので、そういうことを繰り返すなかで、自分が成長できたのかもしれないです。

(2020/05/22)


【関連記事】



佐々木美佳
ささき・みか

1993年4月3日生まれ、福井県出身。東京外国語大学でヒンディー語を専攻するかたわら、ベンガル文学のゼミに所属し、ベンガル語を学ぶ。その過程で、タゴール・ソングと出会い、卒論の研究テーマをタゴール・ソングに設定する。在学中には映画にも興味を持つようになり、映像制作を学び始めると、『タゴール・ソングス』の制作をスタート。本作が初の監督作品となる。

MOVIE Collection