『ブラインドネス』ジュリアン・ムーア インタビュー

極限状態での“良心”を演じた、ハリウッドきっての演技派女優

『ブラインドネス』ジュリアン・ムーア インタビュー

しっかりとした視点を持った監督と仕事をしたい

  • 視界が白濁し、何も見えなくなるという奇病が蔓延する世界で繰り広げられる心理劇。ノーベル賞作家ジョゼ・サラマーゴの傑作小説を映画化した『ブラインドネス』では、暴力性や正義感といった人間の本質が、リアリティあふれる映像の中に描き出されていく。心理サスペンスとも秀逸な人間ドラマともいえるこの作品で、主人公の“ただ1人の目が見える女性”を演じたジュリアン・ムーア。彼女が、映画について、そして女優という職業について語った。
     
  • ──監督は、初監督作『シティ・オブ・ゴッド』(02)で鮮烈なデビューを飾り、『ナイロビの蜂』(05)でレイチェル・ワイズにアカデミー賞助演女優賞をもたらしたフェルナンド・メイレレス監督です。今回、彼の作品に出た感想を教えて下さい。
  • ジュリアン・ムーア(以下、J):とても静かな方です。求めているものをきちんと伝えてくれますが、傲慢なところはありません。そして、何よりもリアリティを求めている。共演したアリス・ブラガに「気をつけた方がいいわよ、カメラが回ってるから!」と言われたのですが、本当にリハーサル中や(休憩時)おしゃべりしている時でもカメラが回っているんです(笑)。つまり監督は、それほどリアリティを求めているんです。例えば『シティ・オブ・ゴッド』の子どもたちの中には役者ではない子どももいますが、監督は、リアリティに満ちた素晴らしい演技を引き出しています。それは、ほとんどショッキングなほどです。映画での“ふるまい”は、少し誇張されて演じられがちです。でも、普通の生活はそんなにドラマティックではなく、平坦なものです。彼はその“平坦さ”を求めているんだと思います。

    ──『ブラインドネス』であなたが演じた“医者の妻”という役は、徐々にリーダーシップを発揮し、ある重大な“行動”に出ます。どのように役作りをしていったのでしょうか。

  • J:彼女は最初、夫と自分のことしか考えていません。人のことはあまり考えていないのですが、人が死んでいくのを見て──それは、彼女のせいではないのですが──なぜ私がこういった事態を引き起こしてしまったんだろう、なぜ私は何もしなかったんだろうと思いはじめる。そしてこのまま黙っていてはいけないと考え、責任ある行動に出ますが、それは白黒つけがたい問題でもあります。彼女は自分たちを守るためにその行動に出る。それは英雄的であると同時に戦争の引き金にもなる。けれど彼女は、とても人間的なやり方で責任をとったと思います。演技する上では、あまり先を急がず、ひとつひとつの彼女の成長──変化とも言えますが──を丁寧に追いかけ、演じていきました。
     
  • ──この映画は、「目が見えていても、実は人間は何も見えていない」ということをテーマにしていると思うのですが、ジュリアンさん自身が、「何も見えていないな」と感じることはありますか?
  • J:しょっちゅうですよ(笑)。共演した木村佳乃さんがすごく良いことを言っていました。人間の行動とは、何をするか分からない神秘だと。私たちは、自分が理解していると思っていても、実は理解できていなかったりすることがたくさんあります。そして、その事実にショックを受けたりするのですが、それはツラいことでもあるので否定したい。これで大丈夫なんだと、自分をだまそうとしているわけです。でも、後で心配が現実になったりするわけです。例えば、日本ではどうか分かりませんが、アメリカでは、金融市場で起きていることを見て、みんなが“時間の問題”だと言っていました。こんな(好調な)状態が続くわけがない、いつか壊れるはずだ、と。でも、そう言いながら何もしてこなかった。そして実際に恐慌のような状態になると、みんなで大騒ぎをする。分かっているのに何もしないできて、最終的に痛手を負うということを繰り返してきたんです。紛争や戦争についても同じことが言えると思います。

    ──FBI捜査官クラリスを演じた『ハンニバル』(01)をはじめ、“強い女性”を演じることが多いのですが、作品選びのポイントなどを教えてください。

  • J:まず、素材に惹かれます。脚本や監督も重要です。今までの仕事については本当にラッキーだったと思うのですが、私は“語られているストーリー”の中に入りたいんです。作品世界の一部になりたい。それは、脚本の世界に入っていくような感じですね。だから、その世界を支えることができるような、しっかりとした視点を持った監督と仕事をしたいと思っています。
     
  • ──競争の激しい映画業界で、素晴らしいキャリアを築き続けている秘訣は何ですか。また、結婚や子どもといった私生活と仕事とのバランスは、どうとっているのでしょうか。
  • J:最初の質問についての答えは“ラッキーだった”に尽きます(笑)。ハリウッドでは、面白い仕事や映画を探すことがとても難しいんです。特に女性は。女性が演じる役が全体的に少ないからです。素晴らしい女優は沢山いるのに……。だから競争が激しいのですが、私が良い映画にめぐり会えてこれたことは、本当にラッキーだったと思います。私は、自分の仕事をとても楽しんできましたが、それはとても珍しいことなんです。それから公私のバランスですが、もちろん大変だと思うときもあります。でも、よく自分に言い聞かせるんです。馬鹿なことを言うのはやめなさい、私の仕事ほど融通が利く仕事はないじゃない、ってね。仕事場に子どもを連れていけるし、子どものスケジュールに合わせて仕事をすることもできます。こうやって日本に来られたのだって、恩恵のひとつだと思うんです。こんな恩恵があって融通がきく仕事ってなかなかないと思うのですが、そんな仕事ができることをとてもありがたく思っています。チャンスがあって融通がきくということは、公私のバランスをとる秘訣でもあると思いますが、たまたま私の仕事では、それらに恵まれているわけです。多分、世の中のあらゆる“働く親”は、こういった“融通”を求めているんだと思います。
     
  • (08/11/19)

『ブラインドネス』 

『ブラインドネス』

『ブラインドネス』
(C) Tadahiro Tonomura

『ブラインドネス』
東京国際映画祭での様子(左:共演した木村佳乃)
 

 

『ブラインドネス』
2008年11月22日より丸の内プラゼールほかにて全国公開
『ブラインドネス』