『ヤング@ハート』スティーヴン・ウォーカー監督 インタビュー

元気なお年寄りたちのコーラス隊を追ったドキュメンタリーを監督!

『ヤング@ハート』
スティーヴン・ウォーカー監督 インタビュー

彼らの歌に、これまでとは違う新しさを感じた

  • 1982年に誕生した“やんちゃな年金生活者たち”によるヤング@ハートは、平均年齢80歳のおじいちゃん、おばあちゃんたちが活躍する、唯一無二のコーラス隊。92歳のアイリーン、86歳のレニー、83歳のジョー……などなど、歌をこよなく愛するメンバーたちが、なんとロックを歌い上げるのだ。しかも、ザ・クラッシュ、ソニック・ユース、ラモーンズ、ジェームス・ブラウンなど、骨のあるパワフルなアーティストたちの楽曲を! この世界一いかした“ロッカー”たちの音楽活動を、イギリス人監督のスティーヴン・ウォーカーが6週間以上に渡り追いかけたのが、ドキュメンタリー映画『ヤング@ハート』(2008年11月8日より公開)だ。「彼らのパフォーマンスを見て、おじいちゃん、おばあちゃんのロックオペラを作りたいと思い始めた」という監督に話を聞いた。
     
  • ──『ヤング@ハート』を作ろうと思った一番の理由は?
  • スティーヴン・ウォーカー(以下、S):(笑)音楽が好きだから! ロンドンで初めで彼らのパフォーマンスを見て、「やられた!」と思ったんです。エキサイティングだし、何かこれまでとは違う新しさを感じたんです。実は、前々から、歳を重ねた人々の映画を作ってみたいと思っていました。だから彼らを見て、その思いが形になっていったのです。おじいちゃん、おばあちゃんのロックオペラを作りたい、そう思い始めたんです。

    ──撮影中に2人のメンバーが亡くなりましたね。撮り続けることが辛くなったりはしませんでしたか?

  • S:正直、悲しみに直面して、撮るのをやめようと思ったことがあります。最初にボブが亡くなったときは、これで映画は終わりだと思いました。取材する中で親しみを増していった彼が亡くなったことがショックで、トラウマになったんです。けれど、映画でも映し出しましたが、ボブの死を知らされたメンバーたちは、(予定されていた)刑務所でのパフォーマンスをしに行きました。すでに彼らの一員になっていた僕らも、一緒に流れに巻き込まれるような形で連れて行かれ、そのまま撮影したんです。そして、ボブの家族もメンバーたちもこのままパフォーマンスを続けたいと言っている時に、僕たち撮影隊が「映画は終わり」とやめてしまうことは臆病者のすることで、彼らを軽んずる行為だと感じるようになったんです。あのまま撮影を続けることができて、本当に良かったと思います。亡くなった2人への思いを込め、映画を完成させることができましから。
     
  • ──高齢で、悠々自適に過ごせるはずの彼らが、指揮者ボブ・シルマンの厳しい指導の下、あえて困難に立ち向かう、その情熱の源は何なのでしょうか?
  • S:僕にも分からないけれど、彼らは人生を謳歌したい、十分に生きたいと思っている人たちであることは間違いありません。そして、心が、精神が若いんです。彼らは歌が好きで、ツアーをしたり人前でパフォーマンスをしたり喝采を浴びるのが好き。そして、みんなと一緒に過ごす時間が好きなんです。だからこそ、病をおしてでもリハーサルに来る。彼らは、それによって痛みが和らぐとも言っていました。彼ら自身、歌からエネルギーをもらっているんだと思います。

    ──みんな、本当に元気ですよね。

  • S:2年前、ベルリンで1500人の観客を前にパフォーマンスをしたツアーに僕も同行したのですが、ものすごく元気(笑)。翌日は飛行機でニューヨークに帰るというのに、深夜1時、2時に戻ってきた彼らは全然眠ろうとしない。飲んだりしゃべったりして、そのまま12時間のフライトに向かいました。40代の僕がヘトヘトだったのに……(笑)。本当に、この人たちは特別なんだなって思いましたよ。
     
  • ──彼らが歌うのがパンクだったりするのも面白いですよね。
  • S:僕たちの世代の人間にとって、音楽といえばやはりパンクなんです! ロンドン公演で彼らが、ザ・クラッシュの“Should I stay or should I go?”を歌っているのを見た時に、すごくいいと思ったんです。でも、映画にするにあたって不安だったのが、「おじいちゃんやおばあちゃんがパンクなんか歌っちゃうんだ〜。笑える!」と皮肉っぽく思われてしまうこと。この映画は、生死や老いについて触れた作品だと思っているからです。
     
  • ──アイリーンおばあちゃんの歌う“Should I stay or should I go?”は確かに迫力がありますね。
  • S:元々の歌詞の意味が、彼らが歌うことで違うものになるんです。“Should I stay or should I go?”は本来は恋愛の歌ですが、92歳の彼女が歌うことで“生と死”の歌になる。彼女が「残るべきか、行くべきか」と歌うと、観客が「Stay!」と合唱する。この世に残って、生きて──と。それを見たとき、本当に美しいと思いました。
     
  • ──この映画を作ったことで、“老い”についての考えが変わったりしましたか?
  • S:例えば、歳をとることは恐くない、歳をとっても素晴らしい生活が待っているなどと言うのは簡単です。この映画をご覧になった方々はそう感じてくれて、それはとても嬉しいことなのですが、本当の意味で、映画が僕にどういう変化をもたらしたかは、正直分かりません。僕は今“ミドルエイジ(中年)”だけど、“オールド”ではない。もし、ラッキーにも彼らの歳まで生きられたとしたら、その時に初めて、この映画を撮ったことの意味が分かるのかもしれません。25年くらい経って、老人ホームでテレビなんかを見ているときに、ふと分かるんじゃないかな(笑)。
     
  • (08/11/05)

『ヤング@ハート』 

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『ヤング@ハート』
2008年11月8日よりシネカノン有楽町1丁目ほかにて全国順次公開
『ヤング@ハート』