是枝裕和監督×ARATA

3度目の顔合わせとなる2人が、映画への想いを語った

 

『空気人形』是枝裕和監督×ARATA インタビュー

映画『空気人形』是枝監督×ARATAインタビュー

 

初めて真正面からラブストーリーを描いてみました

  •  持ってはいけない心を持ってしまった人形──誰かの代用品として作られた空気で膨らます安物の人形が、人を愛することで心の痛みや空虚さを知る姿を綴った、是枝裕和監督の『空気人形』。これまで、親に置き去られた子どもたちを描いた『誰も知らない』、反発し合う父子のぎこちない関係を描いた『歩いても 歩いても』などの作品で、人間の悲しさ、滑稽さを描き続けてきた是枝監督が、この作品で初めて、真正面からラブストーリーに取り組み、「愛」の意味について問いかけた。
  • 海外でも高く評価される是枝監督と、主人公が恋する男性を演じたARATAに、『空気人形』について語ってもらった。
     
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  • ──カンヌ国際映画祭「ある視点部門」に出品されて、お2人も映画祭に出席され、上映時にはスタンディングオベーションで迎えられましたが、カンヌでの高い評判についての感想は?
  • 是枝裕和:人形が主人公なので、もっとサブカル的な見方をされてしまうかと思っていたのですが、それを乗り越えた上で、現代の都市生活者の孤独について描いた映画なのだと受け止めてくれる人が多く、ホッとしました。それから、国境と文化を越え、主演のペ・ドゥナのキュートさチャーミングさが伝わったので良かったな、と。僕が独りよがりで良いと思っていただけじゃないんだということが分かり、ホッとしました(笑)。
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  • ──監督は元々、ペ・ドゥナさんのファンだったそうですが、撮影中に「なんてチャーミングなんだ!」と痛感したのは、どんな部分ですか?
  • 是枝:何から何までですね(笑)。監督が主演女優をこんなに褒めてどうなんだと思われるかもしれませんが、べた褒めしてもウソにならないくらい、現場でもみんなから愛されていました。
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  • ──これまで、ファンだったからキャスティングした俳優さんはいますか?
  • 是枝:嫌いでキャスティングした人はいません(笑)。でも、ファンだからキャスティングしましたって、あんまり自慢して言うことでもないかと……(苦笑)。ただ、彼女はカンヌでも大人気でしたね。
  • ARATA:彼女は、とてもプロ意識が高い女優さん。それからユーモアのセンスもある。神経質になるようなシーンの撮影時に、さらっとしたユーモアを言えるところも魅力的ですよね。
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  • ──お2人が一緒にお仕事されるのは、『ワンダフルライフ』(98)『DISTANCE』(01)に続き今回で3度目ということですが、お互いの魅力について教えてください。
  • ARATA:是枝監督の現場に最初に参加させてもらったのは10年前になりますが(注:『ワンダフルライフ』で主演)、今回、この作品に参加して、監督の進化をすごく感じました。現場での存在感の大きさというか……。新たなステージに立っていると感じました。
  • 監督:もったいない(笑)。ARATA君は、僕の作品ではいつも、クールだったり空虚だったり物静かだったりする役が多いんですけど、こう見えて実際は熱い男なんですよ。
  • ARATA:メラメラしてます(笑)。
  • 監督:そんな役柄と実際とのギャップも面白いのですが、次は、(彼に)今までとは違うタイプの役を書いてみようかと思っています。ずっと一緒でべったりというのは気持ち悪いので(笑)、時折ARATAくんと仕事ができたらと思っています。お互いに、ある種の緊張感を持ちながら、成長を確かめ合える相手として(笑)。
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  • ──プライベートでも会ったりするんですか?
  • ARATA:時々、食事をしたりしますね。
  • 是枝:ARATA君は、プライベートではすごくアクティブなんです。皆既日食を見に行ったり、山に行ったり海に行ったり。格闘技も見に行くしね。僕は全部をテレビですますので、ARATA君が直接行動しているのを目の当たりにすると、いかに自分がアクティブでない暮らしをしているかに気づかされる……いかんですね(笑)。
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  • ──お2人とも、とても映画に愛を持っていると感じるのですが、具体的に、映画にどんな思いを抱いているか語っていただけるでしょうか。
  • ARATA:「映画の現場は、何時間待たされても待っていられる」という(共演した)寺島進さんの言葉にすごく共感したんですけど、待てば待つほど、いい映像、いいシチュエーションになっていくのが見えるな、と。時間を惜しまずに作るというこだわりが、とても気持ちよくて楽しい。スピード勝負ではなく、参加している人たちの愛情のかけ方や作り込み方を見ていて、映画の現場っていいな、と思いますね。
  • 是枝:映画を愛しているかどうかは分からないですね(笑)、映画の現場は好きですけど。ただ、「映画って何だろう」という関心は強く持っていて、いつも撮りながら、「映画ってこういうことなんだろうか?」「こういうことが可能なんだろうか?」と問いかけ続けています。それを愛と呼ぶならば愛なんでしょうけど。
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  • ──この作品の見どころについて教えてください。
  • ARATA:セリフにならない「行間」が、すごく多い作品。その間(ま)が、この作品をより深くしています。見た人たちには、そんな間を、それぞれで埋めてもらえるといいな、と。見終わった後には必ず、心を潤す何かを感じてもらえると思います。
  • 是枝:見どころはいろいろあるんですけど……岩松了さんが演じるレンタルビデオ店店長のイヤらしいところとか(笑)。
    ペ・ドゥナさんという韓国の女優さんが演じる人形が主人公なんですけど、自分の中に孤独だったり空虚さだったりを感じている人々を描いた作品です。初めて正面からラブストーリーを描いてみました。……泣けます(笑)。ただ悲しいだけではなくて、見終わると、清々しさも含めた複雑な感情がわき上がるんじゃないかと思います。
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(09/9/24)

映画『空気人形』是枝監督×ARATAインタビュー

これえだ・ひろかず/左
1962年生まれ、東京都出身。テレビ番組制作を経て、『幻の光』(95)で監督デビュー。ヴェネチア国際映画祭で金のオゼッラ賞を受賞。『誰も知らない』(04)では、主演の柳楽優弥がカンヌ国際映画祭で映画祭史上最年少で最優秀男優賞を受賞。他に『ワンダフルライフ』(98)『歩いても 歩いても』(08)などを監督。

 

あらた/右
1974年生まれ、東京都出身。是枝裕和監督の『ワンダフルライフ』で映画デビュー、初主演を務めた。その他、若松孝二監督作『実録・連合赤軍 あさま山荘への道程』(08)、蜷
川幸雄監督作『蛇にピアス』(08)、堤幸彦監督作『20世紀少年 1〜3』(08〜09)などに出演。岩松了演出の舞台
『マレーヒルの幻影』(2009年12月5日〜27日、下北沢本多劇場にて)にも出演。

 

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映画『空気人形』是枝監督×ARATAインタビュー

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『空気人形』
2009年9月26日よりシネマライズほかにて全国順次公開

(C) 2009業田良家 / 小学館 / 『空気人形』製作委員会 写真 瀧本幹也
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